<山本敦のAV進化論 第70回>
【インタビュー】民放5社の見逃し配信「TVer」は “若者のテレビ離れ” を食い止められるか?
「もちろんテレビ番組はテレビで観るという方が圧倒的に多いことはわかっているし、ユーザーの利便性を考えるならば対応すべきだとは思っています。しかし、参加5局の中ででもいろいろな意見があり、まだ現実的な議論にはなっていません。」と龍宝氏は説明する。
さらにTVerのインフラ周りを担当する須賀氏はこう答えている。
「現在のテレビ向け動画配信の技術は、以前から存在するアクトビラ仕様/IPTV仕様と呼ばれていたものから、ハイブリッドキャストで使われているWeb技術を軸にした仕様に変わる過渡期にあると考えています。特にTVerのビジネスモデルである広告をアドサーバーから取得して、本編の動画と差し替えながら配信する方法が以前のIPTV仕様では対応することが難しいため、テレビでの対応はもう少し先になると見ています」
もっとも、テレビの前にゆっくり座って番組を見たいのであれば、手持ちのBDレコーダー等を活用するという従来からの方法がある。TVerのようなモバイル機器でテレビが見られるサービスについては、忙しくてテレビの前で落ち着いて番組を見る暇がないという人々にこそ大きな利便性が感じられるだろう。
■違法サービスから広告費を取り戻すことも重要な意義
ユーザーはTVerのサービスにスマホやタブレット、PCからアクセスして、無料で動画が視聴できるようになる。放送局は番組コンテンツの前後・合間に広告枠を設けてスポンサー企業に提供するというビジネススタイルだ。
昨今、各企業の広告予算がテレビからインターネット媒体に流れているという話もある。動画配信サイトの中には、違法にアップロードされたテレビ番組のコンテンツを集めて、そこに広告枠を付けて販売しているという事例もある。違法なコンテンツサービスプロバイダーに流れてしまっている広告費を取り戻すこともTVerを作った一つの重要な意味だと龍宝氏は説明する。TVerではどのように広告が表示されるのか、龍宝氏に訊ねた。
「各局別々に広告の配信システムを構築して、それが一つのプラットフォームににまとまって出てくる仕組みを採用する予定です。基本的には番組コンテンツが再生される直前に広告動画が流れるほか、これまでのテレビ放送と同じように番組の合間にも挿入されます。従来のテレビ放送では番組合間のCMの長さが約1〜2分ありますが、TVerではもっと短く、量も少なくなると思います。内容は企業の広告や自社の番組宣伝になります」
広告主へのセールスについては5社各局の考え方が微妙に違っているところがあるので、地上波のスポンサーにそのまま配信の枠もセットで提供するという考え方もあれば、あくまで配信は別のものということで個別にセールスする場合もあるという。龍宝氏は「この辺りは各局の考え方によっても違いが出てくる」としている。
■サービスインは新作ドラマが始まる10月中旬以降を予定
何はともあれ、10月のローンチに向けてTVerの準備は着々と進んでいるようだ。PCとモバイルアプリは同時期のスタートが予定されている。開始時期については「各局の新作ドラマが10月中旬以降からスタートするので、その頃に合わせこみたい」というのが龍宝氏らが立てているプランだ。
アプリではテレビ番組の見逃し視聴以外にも、テレビに関連するニュースや番組表のサービスなども乗る予定だ。この辺りのサービスをアプリに統合するノウハウについてはプレゼントキャストが運営に協力する「ハミテレ」から応用していきたいと須賀氏は語っている。
TVerのサービスが軌道に乗り、モバイル端末で見逃し視聴ができる環境が便利になれば、ドラマやバラエティを中心としたテレビ番組に対する注目が高まり、最新話はテレビでリアルタイムにチェックしたいという視聴者が戻ってくるかもしれない。
また過去の放送コンテンツや、関連する出演者、シリーズ作品を有料でも見てみたいという課金コンテンツのポテンシャルユーザーを掘り起こすことにもつながるはずだ。
1週間限定ながらもフルサイズの番組が無料で見られるTVerのサービスは、リアルタイムの放送と有料課金コンテンツの双方に好影響を与える橋渡し役にもなれるだろう。
TVerが便利になれば、インターネットにアップロードされている違法コンテンツをわざわざ利用する意味も失われてくるはずだ。兎にも角にも、まずは民放各社の新たな取り組みであるTVerが無事に船出することを期待したい。