ベイシスケイプ 崎元氏へのインタビューも掲載
8年を経て生まれ変わった傑作RPG『オーディンスフィア レイヴスラシル』の音楽的魅力に迫る
●“日本人が作る北欧神話”がコンセプト
何度言っても足りないくらいなので繰り返すが、『オーディンスフィア レイヴスラシル』の荘厳華麗かつ幻想的な世界は非常に魅力的だ。そんな本作を彩る音楽は、この上ない程にその雰囲気にマッチして、よりその存在感を高めている。
極めて壮大でありながら、機微に富んだ美しさを湛えた音楽を耳にすると、まるで物語を読み聞かせられているかのように、ありありとストーリーが浮かんでくる。おそらくこれは、プレイの如何を問わないのではないか。つまり音楽だけで、『オーディンスフィア レイヴスラシル』の世界を見事に体現しているのだ。
ゲーム音楽には大なり小なり、そういった傾向があるように思う。しかし、ここまで音楽に物語を内包させているとなると、なかなか同様の例を探すのは難しい。そして心にすっと入り込む、何とも自然に受け入れられる音楽であるという点も言及したい。
この魅力の源はどこにあるのだろうか? 『オーディンスフィア レイヴスラシル』をより深く楽しむためにも、ぜひ知りたいところだ。
そこで、『オーディンスフィア レイヴスラシル』の音楽を担当するベイシスケイプの代表、崎元 仁氏(以下、崎元氏)に、この聴く者を捉えて離さない音楽がどのようにして生まれたのかを伺った。
−ベイシスケイプさんのプロフィールを、簡単に紹介していただけますか?
崎元氏 ベイシスケイプは2002年に法人登記した音響制作会社で、ゲームを中心に映画、ドラマ、アニメ、ポップス等の音響制作を行っています。要は音楽、効果音、音声屋さんですね。
『オーディンスフィア』はヴァニラウェアさんの第一弾のゲームとなりますが、ヴァニラの前身であるプラグルさんが制作をしたファンタジーアース以来のお付き合いとなります。
−『オーディンスフィア』のように非常に作り込まれたゲームの音楽は、どのようにして生み出されるのでしょうか?
崎元氏 長期プロジェクトのゲームの場合、構想段階を入れるとゲームディレクターは実に長い時間を費やしてゲームの原案を練っていて、その段階からオーディオディレクターとして、または音とは関係ない観点から様々なことを「あーだこーだ」とゲームディレクターと言い合うところから始まるのだと思います。まずはプレーヤーにとってどのようなエンタメであるのか、次にそのための仕掛けとコンセプトを決め、最後に実際の制作に入ります。構想段階は他のプロジェクトと平行しながら3〜5年、実際の開発期間は2〜3年ってトコだと思います。
制作が始まる段階では最終目標とコンセプトは決まっていますので、それを実現する具体的な方法を決めますが、音に関して向かうべきゴールと技術的な制約を設けて、後はできるだけ各クリエーターの自由度を確保するように私はしています。ゴールは抽象的な言葉を重ねて表現します。例えば「シェイクスピアの舞台を観客席から見ている感じ」とか「ハリーポッターの新作本を初めて開くドキドキ感」とか…。文字にすると恥ずかしいですね(笑) 技術的な制約とは、必須や禁止の楽器、奏法やスケールなど、そして旋律の多さやアレンジの方向性、編成、構成等々です。
もし初めての試みがある場合は最初にそれを試してみてゲーム中での実効性を精査し、目標とする効果が出るまで繰り返し、大丈夫そうであればそのまま他の部分を順次制作していきます。
−では『オーディンスフィア レイヴスラシル』の音楽は、どのようなコンセプトの元に制作されたのでしょうか?
崎元氏 オリジナルの『オーディンスフィア』のコンセプトは“日本人が作る北欧神話”です。『オーディンスフィア レイヴスラシル』でも基本線は変わっていませんが、原作の発売から時間を経た今の自分達にしかできない事をやろう、作品に対する思い入れも沢山込めて作ろうと決めました。
−さまざまな世界、国を舞台に展開される物語に対して、音楽面での特徴はどういったところにありますか?
崎元氏 このゲームに関して言えば、楽器や旋法の出自や時代考証に優先順位をおかず、私達が日本人としてどう感じたのかを優先していますので、細かく言えばかなり無茶な楽器やスケールが曲中に入っていたりします。そして最も重要なのが、作中の頭から最後まで通して音をどのように配置していくのかで、その優先順位を守りつつ絵に合わせて細部を作っていく感じです。私としてはこの優先順位こそが特徴だと考えています。
−音楽の制作工程のなかで、音作りの面でのこだわりなどをお聞かせ下さい。
崎元氏 ほとんどの曲のミックスは作家自身が行い、それをプリマスタとしています。プリマスターの段階では、ほとんどの場合48kHz/24bitです。その後にマスタリング相当作業やMA、ファイナルミックスを行い、最終的なオーディオトラックを作ります。
弊社では作家の個性を最も高いプライオリティに置いていますので、音作りに関しても音源の新旧に関わらず個性的な音を出せるよう各々が工夫しています。ただ、オケ主体の曲をシンセで作る場合はどうしても音が似通ってきてしまいますので、みんなそれぞれマイナーな音源を探したり、イリーガルな使い方などを試しているようです。
−具体的にはどういった例がありますか?
崎元氏 シンセの音源に関しては、会社設立初期の頃、音源を会社で揃えて各作家に使わせていたことがありましたが、音源選びも個性のうちという事で、今は作家が各々自由に選んで使っています。新しい音源を導入するのは楽しい作業ですが、選定や熟練に時間が食われますので、なかなか悩みどころです。
生録に関しては、これはゲームに限った話ではありませんが、絵の尺が変わるとオーディオ部も変更が必要となるため、レコーディングは制作の最後の最後に行います。シンセで仮トラックが入っていますので、小規模録音の場合は生録でそれらを差し替えてゆく感じですが、ここでも奏者さんの性格が濃く出るようなテイクを選んでいます。
−制作の現場において、テクノロジーの発達がもたらした変化などはありますか?
崎元氏 私にとってオーディオテクノロジーの進化とは、音の良さや正確さというより、人間が瞬間的に出す感情をより多く選べるようにしてくれた、という印象です。もちろんこのような作り方を許してくれる優秀なエンジニアが影で支えてくれているわけですが。
−外部スピーカーやヘッドホンの接続など、ゲームのプレイ環境へのお考えをお聞かせ下さい。
崎元氏 そうですね、音屋としては当然良い再生環境を望みますが、そこはエンタメですし、どんな環境でもちゃんと音が聴こえるような音作りを心がけています。再生環境が制限されている時は全ての音がクリアに聴こえるように、音が良い環境では音に包まれながら細部まで鮮やかに見えるように、という感じです。
−ゲームと同時にサウンドトラックが発売となりますね。音楽それ自体を楽しむことのできるサウンドトラックですが、ゲーム上の音楽と違いはありますか?
崎元氏 サウンドトラックでは純粋に音楽を楽しめるよう周波数特性もダイナミクスレンジも作り直してあります。ゲームを思い出しながら、またはゲームから離れて音の世界にダイブしていただければ幸いです。
−『オーディンスフィア レイヴスラシル』を楽しまれるユーザーに向けて、ひと言お願いします。
崎元氏 発売から8年、開発開始から数えればもう10年前の作品となりますが、私達自身も思い入れの深い作品です。そして10年を経て私達の想いを沢山込めて音を作りましたので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
『オーディンスフィア レイヴスラシル』はストーリーやシステム、ビジュアル、音楽などあらゆる要素が渾然一体となって、1つの世界を創り上げている。
それ故に、そのいずれかを詳しく知ることで、作品はさらに面白くなる。本記事で音楽的な魅力に触れていただいた方は、『オーディンスフィア レイヴスラシル』がより楽しめるはずだ。
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■Infomation
『オーディンスフィア レイヴスラシル』のオリジナル・サウンドトラックが本日1月14日に発売された。新規作成曲含む全23曲+本サウンドトラックのためにベイシスケイプ作家がアレンジを行った5曲の計28曲を収録。聴き応え十分なタイトルなので、ぜひ入手して欲しい。
商品名:オーディンスフィア レイヴスラシル オリジナル・サウンドトラック
レーベル:ベイシスケイプレコーズ
販売元:アトラスDショップ ※専売商品
販売形式:CD2枚組(国内/アトラスDショップ専売)&音楽デジタル配信(全世界)
CD:¥3,024(税込)/ ¥2,800(税抜)
配信:¥2,500(税込) / ¥2,315(税抜) / 単曲150円(税込)
着うた108円(税込) 着うたフル150円(税込)
(各配信サイトによって価格は異なります)
URL:http://ebten.jp/atlus/p/4582317080242/
商品名:オーディンスフィア レイヴスラシル
ジャンル:2DアクションRPG
対応機種:PlayStation(R) 4 / PlayStation(R) 3 / PlayStation(R) Vita
プレイ人数:1人
バッケージ版:各¥7,980(税抜)
ダウンロード版:各¥7,980(税込)
CERO 年齢区分:B(12歳以上対象)
開発:ヴァニラウェア
音楽:ベイシスケイプ
発売元:アトラス