ロングインタビュー
マランツのサウンドマネージャー澤田氏“最後の作品”。「HD-AMP1」開発秘話
「HD-AMP1が、私がマランツのサウンドマネージャーとして紹介する最後のモデルです」。澤田氏はインタビュー冒頭でこう切り出した。同社Hi-Fi製品としては初のスイッチングアンプであり、自身がサウンドマネージャーとして手がける最後のモデルでもあるHD-AMP1について、新開発のスイッチングアンプ技術から目指した音質チューニングに至るまで、澤田氏はその詳細を語ってくれた。
■マランツサウンドマネージャーの澤田氏が“最後に手がけたモデル”!?
−− 今日はHD-AMP1で実現された“革新的なスイッチングアンプ”についてお話を伺いたいと思います。
澤田氏 はい。実はこのHD-AMP1は、私がマランツでサウンドマネージャーとして手がける最後のモデルになります。
−− えっ? そんな突然に重要なことを・・・。
澤田氏 私ももう定年を迎える年齢ですから。それに伴って、サウンドマネージャーはこの2月で引退ということになります。だから、HD-AMP1は実質的に、最後に音質を手がけたモデルということになります。
−− マランツから澤田さんがいなくなるというのは想像しづらいのですが…。
澤田氏 いなくなるわけではありませんが、一つの区切りとしてサウンドマネージャーの世代交代をしようと思っています。後任は決まっていますし、引き継ぎも着々と進めています。非常に優秀な人間ですし、根っからのピュアオーディオ好きです。彼に代わったからといって直ちにマランツの音が大きく変わるということはないと思いますので、安心してください。
そんなわけで、HD-AMP1は私が直接担当する最後の製品となるのですが、最後にふさわしい、素晴らしい製品に仕上がったと思います。このタイミングまで新しいチャレンジを続けられたこともよかったですね。
−− 澤田さんの最後の作品と伺うと、HD-AMP1のようなコンパクトな製品にあえて革新的な技術を投入した意味を考えてしまいます。それではHD-AMP1について、開発のコンセプトからお話を伺えればと思います。
■当初は「M-CR611」の“強化版”をイメージして企画された製品だった
−− HD-AMP1は当初、ネットワークCDレシーバー「M-CR611」(試聴レポート)の延長にある製品として企画されたと伺いました。しかし、結果的にはまったく別の製品となりました。
澤田氏 企画段階の一番最初にあったのは、デスクトップサイズのUSB-DAC内蔵アンプを作りたいということでした。今の流行にマランツも乗ろうかなと(笑)。基本的にはUSB-DAC/ヘッドホンアンプの「HD-DAC1」とコンビになるイメージだったので、サイズも同じくらいになる予定でした。
−− 結果的には筐体サイズが2回りほど大きくなりましたね。
澤田氏 M-CR611は、TI製のスイッチングアンプを使ったのですが、そもそものアイデアではこのアンプを流用する予定でした。M-CR611のスイッチングアンプはフルデジタル処理のソリューションなのですが、音も良かったのです。M-CR611をベースに、音質対策部品をおごってさらに音をまとめれば、デスクトップタイプのハイグレード・アンプになる。こういう構想からスタートしました。
−− それが結果的に、まったく方向性もグレードも異なるものになってしまったと。
澤田氏 M-CR611ベースの企画も悪くなかったのです。にもかかわらず、マランツ初ということで、「だったらマランツ的なインパクトのある製品にすべきなのでは」と言う意見が出てきて、この構想はご破算になってしまったのです。
−− 当初の企画が全くひっくり返ってしまうなんてことがあるのですね…。
澤田氏 ミニコンポと同じソリューションでやるのはどうなのか、という声も出てきました。それから、M-CR611と同時期に、同グループのデノンからはデジタルアンプデバイス「DDFA」を搭載した「PMA-50」や「DRA-100」が登場しました。マランツでも当然DDFAの評価をしていて結果も良かったのですが、マランツでやるのならもっと独自のものを、という意見が出てきました。ならばどうするのか、という話になったときに持ち上がったのが、Hypexのスイッチングアンプ・ソリューションでした。
−− M-CR611は同じスイッチングアンプでも、フルデジタル構成ですね。
澤田氏 フルデジタル構成の場合は、ソリューションでほぼ内容が固まってしまうので、他にできることと言うと筐体設計や電源設計、一部のコンデンサーや音質パーツの選択などに限られます。回路に関わる部分はすでにレールができあがっていて、大きく変更する余地はありません。それだと出来レースみたいで面白くないのでは、という意見がマランツ・ヨーロッパからあったりしました。
ではどうするのかという段階で、Hypexの評価モジュールがヨーロッパから送られてきて、それが非常によかったのです。ただ、よかったのですが、本当に使うのか? と。
−− それは価格の問題だったのですか。
澤田氏 価格も問題だったのですが、なんといってもHypexは非常に使いにくいソリューションなのです。自作の世界では有名ですが、国内メーカーで使っているところはありませんよね。なぜ使いにくいのか、理由は大きく3つあります。
まず第一に、Hypexがアナログ入力しか持たない単なるスイッチングアンプだということです。この点からして、入口から出口までのルートが決まっているフルデジタル・ソリューションのスイッチングアンプとは異なります。
次に、Hypexのアナログ入力はあろうことかバランス入力のみの対応です。最後に、Hypexのアンプモジュールは単体でパワーアンプとしての役割を果たしません。なぜならHypexはゲインが13.5dBしかないのです。パワーアンプのゲインは通常で29dBくらいですから、ようはパワーアンプの後ろ半分でしかありません。
−− デスクトップ用途のコンパクトアンプに使うなんて想像ができないハードルの高さですね・・・。
澤田氏 通常のパワーアンプは、ゲイン増幅部と、出力バッファー部をひとつの機能として持っているわけですが、Hypexはこの出力バッファー部に相当するゲインしか持っておらず、パワーアンプ前段を個別に構築することが必要になります。しかもHypexはバランス入力のみ対応なので、その前段にはバランス変換アンプがさらに必要になります。これだけのことをしないと動かないアンプなのです、音は非常に良いのですが。テストをするのにも一苦労でした(笑)。
■マランツサウンドマネージャーの澤田氏が“最後に手がけたモデル”!?
−− 今日はHD-AMP1で実現された“革新的なスイッチングアンプ”についてお話を伺いたいと思います。
澤田氏 はい。実はこのHD-AMP1は、私がマランツでサウンドマネージャーとして手がける最後のモデルになります。
−− えっ? そんな突然に重要なことを・・・。
澤田氏 私ももう定年を迎える年齢ですから。それに伴って、サウンドマネージャーはこの2月で引退ということになります。だから、HD-AMP1は実質的に、最後に音質を手がけたモデルということになります。
−− マランツから澤田さんがいなくなるというのは想像しづらいのですが…。
澤田氏 いなくなるわけではありませんが、一つの区切りとしてサウンドマネージャーの世代交代をしようと思っています。後任は決まっていますし、引き継ぎも着々と進めています。非常に優秀な人間ですし、根っからのピュアオーディオ好きです。彼に代わったからといって直ちにマランツの音が大きく変わるということはないと思いますので、安心してください。
そんなわけで、HD-AMP1は私が直接担当する最後の製品となるのですが、最後にふさわしい、素晴らしい製品に仕上がったと思います。このタイミングまで新しいチャレンジを続けられたこともよかったですね。
−− 澤田さんの最後の作品と伺うと、HD-AMP1のようなコンパクトな製品にあえて革新的な技術を投入した意味を考えてしまいます。それではHD-AMP1について、開発のコンセプトからお話を伺えればと思います。
■当初は「M-CR611」の“強化版”をイメージして企画された製品だった
−− HD-AMP1は当初、ネットワークCDレシーバー「M-CR611」(試聴レポート)の延長にある製品として企画されたと伺いました。しかし、結果的にはまったく別の製品となりました。
澤田氏 企画段階の一番最初にあったのは、デスクトップサイズのUSB-DAC内蔵アンプを作りたいということでした。今の流行にマランツも乗ろうかなと(笑)。基本的にはUSB-DAC/ヘッドホンアンプの「HD-DAC1」とコンビになるイメージだったので、サイズも同じくらいになる予定でした。
−− 結果的には筐体サイズが2回りほど大きくなりましたね。
澤田氏 M-CR611は、TI製のスイッチングアンプを使ったのですが、そもそものアイデアではこのアンプを流用する予定でした。M-CR611のスイッチングアンプはフルデジタル処理のソリューションなのですが、音も良かったのです。M-CR611をベースに、音質対策部品をおごってさらに音をまとめれば、デスクトップタイプのハイグレード・アンプになる。こういう構想からスタートしました。
−− それが結果的に、まったく方向性もグレードも異なるものになってしまったと。
澤田氏 M-CR611ベースの企画も悪くなかったのです。にもかかわらず、マランツ初ということで、「だったらマランツ的なインパクトのある製品にすべきなのでは」と言う意見が出てきて、この構想はご破算になってしまったのです。
−− 当初の企画が全くひっくり返ってしまうなんてことがあるのですね…。
澤田氏 ミニコンポと同じソリューションでやるのはどうなのか、という声も出てきました。それから、M-CR611と同時期に、同グループのデノンからはデジタルアンプデバイス「DDFA」を搭載した「PMA-50」や「DRA-100」が登場しました。マランツでも当然DDFAの評価をしていて結果も良かったのですが、マランツでやるのならもっと独自のものを、という意見が出てきました。ならばどうするのか、という話になったときに持ち上がったのが、Hypexのスイッチングアンプ・ソリューションでした。
−− M-CR611は同じスイッチングアンプでも、フルデジタル構成ですね。
澤田氏 フルデジタル構成の場合は、ソリューションでほぼ内容が固まってしまうので、他にできることと言うと筐体設計や電源設計、一部のコンデンサーや音質パーツの選択などに限られます。回路に関わる部分はすでにレールができあがっていて、大きく変更する余地はありません。それだと出来レースみたいで面白くないのでは、という意見がマランツ・ヨーロッパからあったりしました。
ではどうするのかという段階で、Hypexの評価モジュールがヨーロッパから送られてきて、それが非常によかったのです。ただ、よかったのですが、本当に使うのか? と。
−− それは価格の問題だったのですか。
澤田氏 価格も問題だったのですが、なんといってもHypexは非常に使いにくいソリューションなのです。自作の世界では有名ですが、国内メーカーで使っているところはありませんよね。なぜ使いにくいのか、理由は大きく3つあります。
まず第一に、Hypexがアナログ入力しか持たない単なるスイッチングアンプだということです。この点からして、入口から出口までのルートが決まっているフルデジタル・ソリューションのスイッチングアンプとは異なります。
次に、Hypexのアナログ入力はあろうことかバランス入力のみの対応です。最後に、Hypexのアンプモジュールは単体でパワーアンプとしての役割を果たしません。なぜならHypexはゲインが13.5dBしかないのです。パワーアンプのゲインは通常で29dBくらいですから、ようはパワーアンプの後ろ半分でしかありません。
−− デスクトップ用途のコンパクトアンプに使うなんて想像ができないハードルの高さですね・・・。
澤田氏 通常のパワーアンプは、ゲイン増幅部と、出力バッファー部をひとつの機能として持っているわけですが、Hypexはこの出力バッファー部に相当するゲインしか持っておらず、パワーアンプ前段を個別に構築することが必要になります。しかもHypexはバランス入力のみ対応なので、その前段にはバランス変換アンプがさらに必要になります。これだけのことをしないと動かないアンプなのです、音は非常に良いのですが。テストをするのにも一苦労でした(笑)。
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