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デジタルならではのハイレゾへのアプローチ

『STEINS;GATE』などを手がけるゲームミュージッククリエイター・阿保 剛ハイレゾ作品集の魅力を本人に聞いた

公開日 2016/02/26 19:43 アニソンオーディオ編集部:押野由宇
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−−ここまで作曲の方法についておうかがいしてきました。では、実質的な制作についてはどのように進められているのでしょうか?

阿保 音楽は全てデジタル環境で制作していて、ソフトは物理モデル音源のクセが好みなのでPropellerhead社のReasonを使っています。これまでお話ししたように、制作した時代やゲームがどのハードで展開されるかにもよりますが、その制限がほぼなくなった現在では、基本的に48kHz/24bitのクオリティで作っていまして、それをゲームに合わせてレートを落としたり、最適なミキシングを行ったりしています。最近ですと、ハイレゾで聴いてもらえるということも意識して作っていますね。

さらに上のスペックで作れそうなものであれば、88.2kHzや96kHzといったサンプリングレートで制作することもあります。サンプラー音源が44.1kHzだとしたら、その整数倍の88.2kHzで作ってみたり、という形ですね。この辺りは自分でも試行錯誤しながら、曲によって色々と試しています。


−−物理モデル音源というのはどんなものなのでしょうか?今回ハイレゾ作品集として配信されているのは96kHz/24bitですが、そこにも関連するのでしょうか?

阿保 物理モデル音源とは、簡単に言えばアナログシンセサイザーをデジタルで制御する音源です。単純な波形をベースに、こういった音を出したいというところを目指してコンピューター上の計算で出す音なので、上も下も制限がないんです。96kHzと指定したら、そのギリギリまでの音が出てくることになります。楽器の音はサンプラーを使って、「ブーン」といったような架空の音はシンセサイザーで作っています。

『CHAOS;HEAD』のサウンドトラックに収録される曲「SHIBUYA」の、再生時間0:40周辺から解析したスペクトラム。こちらはCD版の44.1kHz/16bitのもの


こちらはハイレゾ版の96kHz/24bitのもの。CDに対して明らかに、シンセサイザーの複雑な音色が高周波数帯域まで伸びていることが見て取れる

意外だったのは、のこぎり波と言われる倍音成分が多い波形がハイレゾ化による効果が分かりやすいと思っていたんですが、実際に一番分かるのは矩形波でした。高域の成分がすごく出て、上の歪んだ音まで入ってきます。分かりづらいですが、「カーン」という音が「カイーン」と聴こえるような、高周波成分、倍音の固まりが入っているのかな、と。また、これまで問題なかった波形の組み合わせが、ノイズの出る波形になってしまったり、単純なアップコンバートというものではハイレゾ化は上手くいかないようです。そのため、必ずハイレゾ化に合わせたリマスタリングを行っています。

『ROBOTICS;NOTES』の曲の一部の周波数解析。ハイレゾ化する前(上)は23,000Hz付近までしか高周波成分が含まれていないのに対し、ハイレゾ化した後(下)では45,000Hz付近まで高周波成分がふくまれていることが分かる

−−なるほど、デジタル処理によって96kHz/24bitというハイレゾのフォーマットに沿った情報量が詰め込めるわけですね。その上で、ただ数値を増やしているということではなく、改めてリマスタリングを行うことで、ハイレゾのために作り上げた新録とも言えるタイトルに仕上げられている。これをご自身で手掛けられる作曲家の方は極めて稀だと思います。では、ハイレゾになることで、どういったメリットが感じられると思いますか?

阿保 CDでのサウンドトラックに関しては、曲順や選曲にこだわった音楽集としての成果物といった位置づけで、ハイレゾでのサウンドトラックは、それに音質面での意識を加えた形になります。ハイレゾ化にあたっては、自分が作っていた時の音に近づけるようなリマスタリングを行っています。ゲームで聴ける音でもなく、CDで聴ける音でもなく、「自分が本当にイメージしていた音」ですね。

しかし、ただハイレゾ化しただけでは、バランスがおかしくなってしまったりすることがあって、それはパッと聴いた印象で違うと分かるんです。突き詰めていくと、ここが悪さをしていた、というものが判明するので、ハイレゾ化はそれを調整していく作業でもあります。聴いてみて分かるくらいですから、実際に波形を確認してみると、ギザギザだった部分がハイレゾ化によって滑らかになっているのが一目瞭然ですね。

44.1kHz/16bitの波形


96kHz/24bitの波形。44.1kHz/16bitと比べると、ギザギザだった波形が滑らかになっているのが一目瞭然だ。それと同時に、細かなバランスが変わっていることも分かる

−−つまり、ハイレゾ版によって、阿保さんが意図した音を聴くことができる、サウンドトラックの完成形ができ上がったということですね。では最後に、ゲーム音楽の魅力についてお聞かせください。

阿保 ゲーム音楽は、ゲームの演出効果のひとつであると思っています。もちろんそれだけでも、例えば映画の劇伴のように、特定の世界観の音楽という風に聴いていただけると思います。それに自分の場合は、ずっとゲーム音楽が大好きで、ゲーム音楽をやってきましたから、音楽ジャンルを限定しない、理論に頼らない、というのはあります。不協和音は当たり前みたいな(笑) ありえないコード進行をした方が、インパクトがあったりするのかなと思ったりもします。それもゲーム音楽ならではかも知れません。

ただ、そこからゲーム自体に興味を持って、実際にプレイしていただけるようになれば嬉しいですね。ゲームと一体となることで、ゲーム音楽の魅力は一層高まると思います。そこからまた、今回のハイレゾ音源を聴いてもらえたら、もっと楽しんでいただけるはずです。

−−ありがとうございました。

   ◇   ◇   ◇   


取材時点で、すでに阿保さんは3月にリリースされるタイトルの準備を済ませていた。今後のリリースについては、作品の人気を重視してではなく、ハイレゾで聴いて欲しい阿保作品を中心に行っていく予定だという。しかし、阿保さんが音楽を制作された作品は大体が人気タイトルなので、ファンとしてはただ期待して待つだけで良いだろう。音楽的な魅力もさることながら、しっかりとハイレゾを考慮したデジタル音源の指標ともなる音源だ。ぜひこれを機に、阿保作品に触れてみて欲しい。

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