<山本敦のAV進化論 第87回>試聴レビューもお届け
11.2MHz対応も視野? キーマンたちが語るDSDストリーミング配信「PrimeSeat」実現の背景と今後の展望
そこから当時、IIJのスタッフが親交のあったソニーのヘッドホン開発チームやサイデラ・レコードのオノ・セイゲン氏にアドバイスを受ける格好で、さらにハイレゾの中でも特に高音質と言われる「DSD 5.6MHzによるで音楽配信」というサービスの方向性が徐々に固まっていった。
IIJの声掛けに呼応したコルグはライブ配信用のソフトウェアを開発、ソニーがDSDライブ配信用のライブラリーを提供することで徐々に配信実験の体制も整った。
そしていよいよ2015年の4月には「東京・春・音楽祭」のマラソンコンサートをライブ配信、続いて同月にはベルリンフィルの演奏会をドイツ・ベルリンと東京を結ぶ形でライブストリーミングするという公開実験も成功を収め、サービスの商用化へと加速していった。
冨米野氏はコルグやソニー、サイデラ・レコードが築いてきた“いい音”に関連するノウハウの下地に支えられたことがPrimeSeatのサービスを形にできた理由だと強調している。また現在同サービスのシニアエンジニアとして活躍する西尾氏がチームに加わったことも大きいと振り返る。
西尾氏は元々、前職であるソニーにおいて業務用の音響機器やオーディオ技術の開発に携わり、DSDフォーマットやこれを採用する最初のオーディオメディアであるSACD(スーパーオーディオCD)の起ち上げにも深く関わってきた人物だ。ちょうど、PrimeSeatのサービスが公開実験から商用化への一歩を踏み出した頃にIIJのチームに加わった。
「国内ではハイレゾがテイクオフしてDSDへの関心が高まりつつあるなか、DSDの誕生に関わってきた私が、次のステップとして考えていた“ストリーミング型サービス”の実現に最も近い場所で関われるよい機会と考え、IIJのプロジェクトに合流しました」(西尾氏)
PrimeSeatのDSDライブストリーミング配信は、MPEG-DASHの仕組みをベースにしながら、分割したDSD信号をMP4のコンテナに格納、順次アップロードしてクライアントにMPDファイルと一緒にHTTPサーバーから配信する手法を採っている。
コルグはPCでDSDのデータを配信用のデータとしてパッキングしてから、サーバーにアップロードするための「LimeLight」、およびクライアント側のPCで再生して楽しむための「PrimeSeat」という、2つの基幹ソフトウェアを開発した。
またコルグのソフトウェアの中で、DSDに特化した暗号化のライブラリーをソニーが提供している。インターネット上のデータサーバーにファイルをアップロード・ダウンロードする仕組みが整った後に、それらを安定して運営できるようにするのが通信技術のスペシャリストであるIIJの重要な役割だ。
■DSDの大容量データをどのようにすれば安定して配信できるのか
DSD形式のハイレゾ作品をダウンロード購入したことがある方ならお分かりいただけると思うが、そもそも伝送に少なからぬデータ容量と時間を消費するDSDファイルを、どうすれば安定してストリーミング配信ができるのだろうか。しかもPrimeSeatが売りにしているのは「生放送」である。