技術や音への基本的考えに迫る
SHUREキーマンに訊くモノづくりの哲学。カスタムIEMやBluetooth対応イヤホンの展開は?
ーーー イヤーピースの他に交換可能な部分としてはケーブルですが、「リケーブル」についてはどうお考えですか?
シュア アメリカではあまりトレンドではないですね。一時期は少し注目を集めたのでシルバーやリッツとかを一通り調達して調べてはみましたが、エレクトリックな変化、測定できる電気的な違いは検知できませんでした。若干の違いがあるのはインピーダンスですが、そこまではっきりとわかるものではありません。フィットやフィールの変化が大きいのではないでしょうか。ですが我々としては我々のイヤホンを購入していただければ他社のケーブルを使ってもらってももちろんかまいませんよ。
ーーー 僕は耳の周りに硬いワイヤーが入っているのが苦手でそれが入っていないケーブルを好んで使っているのですが、「フィットやフィール」というのはそういった意味合いですか?
シュア ええ、そういうことです。
ーーー ケーブル周りの話では、iPhone 7ではイヤホン端子が廃止されましたね。コンシューマー向けの話ではありますが、その流れはシュアの製品に影響を及ぼしますか?
シュア 我々は数年前からLightning接続のマイク「MOTIV」やポータブルヘッドホンアンプ「SHA900」、そして「KSE1500」などの製品にも取り組んでいます。「コネクティビティ」という観点からそういった流れに対応していくのは自然なことです。iPhone 7が発売されてまだ間もないので、今すぐにということではないですが。将来的には多くのイヤホンメーカーがiPhone 7に向けて、コンバージョンアダプタやポータブルアンプなどプレミアムなものを自社で展開し始めるのではないかと思っています。
ーーー シュアと同じくイヤーモニターメーカーであるWestoneはBluetoothのリケーブルを出しました。レイテンシーの問題があるのでステージ用ではなくコンシューマー向けの製品になると思うのですが、シュアはBluetoothについてはどうお考えですか?
シュア Bluetoothについてはずっと注視してきています。当初のものはサウンドクオリティに妥協がありましたが、最近のものはよくなっていますよね。コーデックもaptX HDとか。ですが、どうしても発生してしまうレイテンシーのためプロシューマー向けのインイヤーモニターとしては今のところ難しいと思います。しかし将来的にコンシューマー向けとしては可能性を感じます。WestoneのBluetoothケーブルについても、我々が2010年にMMCXを採用して、それが普及して我々の製品とも組み合わせられるこういった製品が登場してくれたことを嬉しく思います。MMCXイヤホンをBluetooth対応にするアイテムを最初に出したのはソニーだったかと思いますが、それも嬉しかったです。
これから先は使い勝手だけではなくプレミアムオーディオクオリティの分野にも進出したいとBluetooth側は考えているでしょうね。現状ではスマートフォンなど送り出し側の新コーデック対応が課題になっていると思いますが。
ーーー そういったデジタルでワイヤレスでというのとは反対のところで、シュアにも縁が深いアナログレコードも世界的に盛り上がっていますね。
シュア シュアにとってはサプライズでした。レコードカートリッジも1940年前後から、80年代にCDの時代になって需要が減ってもパイオニアとしての自負を持って作り続けてきましたが、昨年よりも今年、今年よりも来年はさらに伸びそうでこれも需要に追いつくのが大変なくらいです。私(マット氏)はスモールスタジオでエンジニアとしても活動しているのですが、最初の15年はCDばかり作っていたのがここ5年はレコードばかりなんですよ。
ーーー 面白い経験ですね。
シュア 自分がミックスしたレコードもかなり増えてそれを家に置いているのですが、子供たちも「ベリーナイス!」と興味を示してくれています。スピーカーではなく回転するレコードに耳を近付けて針の音を直接聴いて、「パパ!音が聴こえるよ!」って言うんですよ。
いかがだっただろうか。話題の入口は特定の製品やパーツでも、その内容はそこからシュアの製品作りの哲学に深まっている。その哲学は他の製品、他のパーツにも通底しているものであり、シュア製品全般への理解を深める参考になるだろう。そしてシュアの今後の製品展開への想像を働かせるのにも…