オーディオ銘機賞・開発特別大賞を受賞
マランツ「SA-10」のディスクリートDACはいかにして実現したのか? 開発者2万字インタビュー【前編】
■ディスクリートDACはデジタル処理を行う前段部と、D/A変換を行う後段部から構成
ーー DACが大きく分けて4つのパートから構成されていることを説明してもらいましたが、SA-10に搭載されたディスクリートDACでは、各パートが独立して構成されているという理解でいいでしょうか。
尾形氏 具体的には、SA-10のディスクリートDACは、前段部の「MMM-Stream」と後段部の「MMM-Conversion」から構成されています。前段部ではオーバーサンプリングとデジタルフィルターの処理、PCM信号をDSD化するΔΣ変調が行われます。後段部には、DSD信号をD/A変換するアナログFIRフィルターを備えています。
前段部は、2基のDSPと、1基のCPLD(PLDの1種)によって構成されています。より回路規模の大きいFPGAを使う手法もあると思いますが、マランツのエンジニアがより手馴れているのがDSPだったので、DSPとCPLDという組み合わせを採用することになりました。
前段部で行う処理は、大別してオーバーサンプリングとデジタルフィルターとΔΣ変調の3つになりますが、それぞれにおいてマランツ独自のアルゴリズムを用いています。
ーー 後段のD/A変換部の部分はいかがでしょうか。
尾形氏 SA-10が取り扱う信号は、PCMとDSDの2つです。DSD信号は原理的に、アナログフィルターを通すだけでアナログ信号に復元できます。この原理にしたがって、DSD信号のD/A変換はシンプルに行いたいと考えました。ですからDSDについては、前段をパスして、直接後段のアナログFIRフィルターに入力されてD/A変換されます。
ーー PCM信号は全てDSDに変換されて、後段でD/A変換されるわけですね。
尾形氏 はい。11.2MHzまたは12.3MHzのDSDに変換して、D/A変換が行われます。汎用DACチップで、結局はΔΣ変調されて低bitで処理されるのであれば、ΔΣ変調も自社のアルゴリズムでやろうということになったのです。
ただ、ΔΣ変調から独自に開発するとなると、マルチビットDACという選択肢も出てきます。しかしマルチビットDACとなると、DSDをどうするのかが問題です。そこでSA-10では、PCMはDSDへ変換することで、PCMもDSDもシンプルなD/A変換部を共用できるようにしたのです。
ーー 例えば、PCMとDSDそれぞれに特化したD/A変換部を備えるという選択肢もあるでしょう。しかし、PCMはDSDに変換して、共通のアナログFIRフィルターでD/A変換を行うということになりました。これは音質を考慮しての判断なのでしょうか。
澤田氏 前提として、現時点で入手し得る汎用DACデバイスで、PCMをそのままマルチビットでD/A変換しているものはありません。全てのデバイスが、PCMも低bitに変換して処理しています。
ーー その通りですね。
澤田氏 今回のSA-10の最初にあったコンセプトは、入手し得るDACがそういう状況なら、いっそのこと「自分たちの手でやろう」ということが出発点なのです。ライナー・フィンクがディスクリートDACの開発を提案しましたが、その理由は、ディスクリートならパーツを任意に選んで作れるので音質的に優位だということなのです。この点は後で詳しく説明しましょう。
さて、このディスクリートDACを検証する時、マランツ・ヨーロッパはこんなことを言い出しました。CDからリッピングしたPCMデータをパソコンのソフトでDSD変換してディスクリートDACで再生すると、PCMをそのまま再生するより音が良いと。その一方で、世に出ているSACDの中には、元を辿ればPCM録音というものもかなりの数があります。
ーー 確かにそういうSACDは多いです。
DSD変換はレコード会社がやるべきなのか、それともオーディオ機器側でやるべきなのか、そういう議論も5年程前から社内で始まっていました。PCMをPCMのまま処理するDACが基本的に存在しない中で、最終段をディスクリート構成にすることによって音質的なアドバンテージが得られるのであれば、そこに収斂していって、その前段階の変換の過程も、チップメーカーに委ねるのではなく自分たちでやろう。そこがディスクリートDACの発端なのです。
ーー DACが大きく分けて4つのパートから構成されていることを説明してもらいましたが、SA-10に搭載されたディスクリートDACでは、各パートが独立して構成されているという理解でいいでしょうか。
尾形氏 具体的には、SA-10のディスクリートDACは、前段部の「MMM-Stream」と後段部の「MMM-Conversion」から構成されています。前段部ではオーバーサンプリングとデジタルフィルターの処理、PCM信号をDSD化するΔΣ変調が行われます。後段部には、DSD信号をD/A変換するアナログFIRフィルターを備えています。
前段部は、2基のDSPと、1基のCPLD(PLDの1種)によって構成されています。より回路規模の大きいFPGAを使う手法もあると思いますが、マランツのエンジニアがより手馴れているのがDSPだったので、DSPとCPLDという組み合わせを採用することになりました。
前段部で行う処理は、大別してオーバーサンプリングとデジタルフィルターとΔΣ変調の3つになりますが、それぞれにおいてマランツ独自のアルゴリズムを用いています。
ーー 後段のD/A変換部の部分はいかがでしょうか。
尾形氏 SA-10が取り扱う信号は、PCMとDSDの2つです。DSD信号は原理的に、アナログフィルターを通すだけでアナログ信号に復元できます。この原理にしたがって、DSD信号のD/A変換はシンプルに行いたいと考えました。ですからDSDについては、前段をパスして、直接後段のアナログFIRフィルターに入力されてD/A変換されます。
ーー PCM信号は全てDSDに変換されて、後段でD/A変換されるわけですね。
尾形氏 はい。11.2MHzまたは12.3MHzのDSDに変換して、D/A変換が行われます。汎用DACチップで、結局はΔΣ変調されて低bitで処理されるのであれば、ΔΣ変調も自社のアルゴリズムでやろうということになったのです。
ただ、ΔΣ変調から独自に開発するとなると、マルチビットDACという選択肢も出てきます。しかしマルチビットDACとなると、DSDをどうするのかが問題です。そこでSA-10では、PCMはDSDへ変換することで、PCMもDSDもシンプルなD/A変換部を共用できるようにしたのです。
ーー 例えば、PCMとDSDそれぞれに特化したD/A変換部を備えるという選択肢もあるでしょう。しかし、PCMはDSDに変換して、共通のアナログFIRフィルターでD/A変換を行うということになりました。これは音質を考慮しての判断なのでしょうか。
澤田氏 前提として、現時点で入手し得る汎用DACデバイスで、PCMをそのままマルチビットでD/A変換しているものはありません。全てのデバイスが、PCMも低bitに変換して処理しています。
ーー その通りですね。
澤田氏 今回のSA-10の最初にあったコンセプトは、入手し得るDACがそういう状況なら、いっそのこと「自分たちの手でやろう」ということが出発点なのです。ライナー・フィンクがディスクリートDACの開発を提案しましたが、その理由は、ディスクリートならパーツを任意に選んで作れるので音質的に優位だということなのです。この点は後で詳しく説明しましょう。
さて、このディスクリートDACを検証する時、マランツ・ヨーロッパはこんなことを言い出しました。CDからリッピングしたPCMデータをパソコンのソフトでDSD変換してディスクリートDACで再生すると、PCMをそのまま再生するより音が良いと。その一方で、世に出ているSACDの中には、元を辿ればPCM録音というものもかなりの数があります。
ーー 確かにそういうSACDは多いです。
DSD変換はレコード会社がやるべきなのか、それともオーディオ機器側でやるべきなのか、そういう議論も5年程前から社内で始まっていました。PCMをPCMのまま処理するDACが基本的に存在しない中で、最終段をディスクリート構成にすることによって音質的なアドバンテージが得られるのであれば、そこに収斂していって、その前段階の変換の過程も、チップメーカーに委ねるのではなく自分たちでやろう。そこがディスクリートDACの発端なのです。