オーディオ銘機賞・開発特別大賞を受賞
マランツ「SA-10」のディスクリートDACはいかにして実現したのか? 開発者2万字インタビュー【前編】
ーー 基板を拝見すると、入出力を兼ねたデジタルオーディオボードにアップサンプリングやΔΣ変調を行うDSPが配置され、DSD信号をD/A変換する後段は別の基板で、かつ距離も離れています。ノイズ対策的にはこちらの方が有利なのでしょうか。
尾形氏 そうですね。さらに前段と後段の間にはアイソレーターを入れていますから。ただ、信号経路については、最短の経路になるようにデザインされています。
■マランツが推奨するデジタルフィルターの使い方は?
ーー PCMに対しては音質を微調整できるパラメーターが全部で24通り用意されています。ユーザーが音を好みに合わせて調整できる範囲が随分広がってるように思いますが、これについてどういう使い方をしたらいいのか、ちょっとアドバイスをいただけますか。
尾形氏 SA-10では、2通りのデジタルフィルター、2通りのノイズシェイパー(3次/4次)、レゾネーターの有/無、2通り+オフのディザーと、合計で24通りの設定が選べるようになっています。
デジタルフィルターとノイズシェーピングの演算については、開発当初は何百通りもの演算パターンを試しました。ノイズシェーピングは、理論上は演算処理を膨大にすることで、ノイズレベルも極限まで下げることが可能と言えます。ただそれは一般的に言われる人間の可聴帯域のはるか下のレベルの話です。そこで実装する規模とコストを検討して、最終的にノイズシェービングを3次/4次で選択できるようにしました。
レゾネーターは、ノイズシェーピングの処理過程の要素です。レゾネーター処理の有無で、ノイズフロアが変わります。ディザーは演算精度を上げるための数学的な手法です。これも加えるディザーの量から様々なパラメーターを試したのですが、その中から最終的に2種類を選べるようにしました。
ーー 組み合わせの余地が多いだけに、ユーザーも迷うところがあるかもしれません
尾形氏 確かにこれだけパラメーターがあると選択が難しいように感じるかもしれませんが、SA-10のサウンドを本質的に変えてしまうものではありません。ですから、特にアコースティックな録音の音源などで「もう少しベストなポジションがあるかも」と思ったときに調整していただくといいと思います。
例えばライブ録音で、場内の暗騒音や部屋の雰囲気が伝わってくるような作品では、ディザーやノイズシェーバーを切り替えることで「ジャズの録音を狭い会場でやってる雰囲気がまさに出てくる」とか「この曲のイメージだと会場の雰囲気が広すぎる」といった変化が出てきますね。
ーー パラメーターをリモコンで切り替えられるので、聴き比べながらいろいろ試せるのがいいですよね。
澤田氏 24通りという数を決めたのはマランツ・ヨーロッパなのですが、個人的にはパラメーターをもっと絞りこんでもいいと思いました。しかし、彼らはやはり自分たちが作ったものなので、なるべく残したかったようですね(笑)。
ーー 基本はデフォルトの設定で楽しみつつ、どういう具合に変わるのかをいくつかのソースで試して発展的に使うといいでしょうね。
■ディスクリートDACによる単体D/Aコンバーターへの発展の可能性
ーー さて、SA-10について個人的な希望として浮かんできたことがあるので、忘れないうちに言っておきます。せっかくここまで力が入ったDACを作ったのですから、ぜひこの回路をベースに単体のD/Aコンバーターをマランツとして作っていただきたいですね。素晴らしいものができそうです。SA-10の音を聴いて、ディスク再生はもちろん、USB入力のサウンドについても非常に素晴らしいと感じました。NA-11S1のUSB入力もよかったですが、それを超えたと思いました。
澤田氏 NA-11S1とSA-11S3では、DACはバー・ブラウンの「DSD1792A」を使っていました。このDACは当時からして新しいものではなかったのですが、終段のアナログ部分に、ICとしては比較的に大きな電流が流せる構造になっていました。実際にそれが音にも現れていたので、このDACを選んだのです。
こうした長所をさらにずっと先へ推し進めると、SA-10になると言えます。DSD1792Aは当時手に入るDACチップの中で最も出力電流がとれるデバイスだったのです。今からこのような汎用チップを新規開発するのはなかなか難しいでしょう。
尾形氏 現時点でこれほど大きな抵抗を使っているのは、家庭で使われる電子機器の中ではオーディオぐらいなのではないでしょうか(笑)。表面実装のデバイスは、豆粒ぐらいで見えない大きさですから。
(後編へ続く)
尾形氏 そうですね。さらに前段と後段の間にはアイソレーターを入れていますから。ただ、信号経路については、最短の経路になるようにデザインされています。
■マランツが推奨するデジタルフィルターの使い方は?
ーー PCMに対しては音質を微調整できるパラメーターが全部で24通り用意されています。ユーザーが音を好みに合わせて調整できる範囲が随分広がってるように思いますが、これについてどういう使い方をしたらいいのか、ちょっとアドバイスをいただけますか。
尾形氏 SA-10では、2通りのデジタルフィルター、2通りのノイズシェイパー(3次/4次)、レゾネーターの有/無、2通り+オフのディザーと、合計で24通りの設定が選べるようになっています。
デジタルフィルターとノイズシェーピングの演算については、開発当初は何百通りもの演算パターンを試しました。ノイズシェーピングは、理論上は演算処理を膨大にすることで、ノイズレベルも極限まで下げることが可能と言えます。ただそれは一般的に言われる人間の可聴帯域のはるか下のレベルの話です。そこで実装する規模とコストを検討して、最終的にノイズシェービングを3次/4次で選択できるようにしました。
レゾネーターは、ノイズシェーピングの処理過程の要素です。レゾネーター処理の有無で、ノイズフロアが変わります。ディザーは演算精度を上げるための数学的な手法です。これも加えるディザーの量から様々なパラメーターを試したのですが、その中から最終的に2種類を選べるようにしました。
ーー 組み合わせの余地が多いだけに、ユーザーも迷うところがあるかもしれません
尾形氏 確かにこれだけパラメーターがあると選択が難しいように感じるかもしれませんが、SA-10のサウンドを本質的に変えてしまうものではありません。ですから、特にアコースティックな録音の音源などで「もう少しベストなポジションがあるかも」と思ったときに調整していただくといいと思います。
例えばライブ録音で、場内の暗騒音や部屋の雰囲気が伝わってくるような作品では、ディザーやノイズシェーバーを切り替えることで「ジャズの録音を狭い会場でやってる雰囲気がまさに出てくる」とか「この曲のイメージだと会場の雰囲気が広すぎる」といった変化が出てきますね。
ーー パラメーターをリモコンで切り替えられるので、聴き比べながらいろいろ試せるのがいいですよね。
澤田氏 24通りという数を決めたのはマランツ・ヨーロッパなのですが、個人的にはパラメーターをもっと絞りこんでもいいと思いました。しかし、彼らはやはり自分たちが作ったものなので、なるべく残したかったようですね(笑)。
ーー 基本はデフォルトの設定で楽しみつつ、どういう具合に変わるのかをいくつかのソースで試して発展的に使うといいでしょうね。
■ディスクリートDACによる単体D/Aコンバーターへの発展の可能性
ーー さて、SA-10について個人的な希望として浮かんできたことがあるので、忘れないうちに言っておきます。せっかくここまで力が入ったDACを作ったのですから、ぜひこの回路をベースに単体のD/Aコンバーターをマランツとして作っていただきたいですね。素晴らしいものができそうです。SA-10の音を聴いて、ディスク再生はもちろん、USB入力のサウンドについても非常に素晴らしいと感じました。NA-11S1のUSB入力もよかったですが、それを超えたと思いました。
澤田氏 NA-11S1とSA-11S3では、DACはバー・ブラウンの「DSD1792A」を使っていました。このDACは当時からして新しいものではなかったのですが、終段のアナログ部分に、ICとしては比較的に大きな電流が流せる構造になっていました。実際にそれが音にも現れていたので、このDACを選んだのです。
こうした長所をさらにずっと先へ推し進めると、SA-10になると言えます。DSD1792Aは当時手に入るDACチップの中で最も出力電流がとれるデバイスだったのです。今からこのような汎用チップを新規開発するのはなかなか難しいでしょう。
尾形氏 現時点でこれほど大きな抵抗を使っているのは、家庭で使われる電子機器の中ではオーディオぐらいなのではないでしょうか(笑)。表面実装のデバイスは、豆粒ぐらいで見えない大きさですから。
(後編へ続く)