【特別企画】
「どこにもない音を生み出す」− Campfire Audio ボールCEOが語る “モノ作りの信念”
■「どこにもない音」を生み出すことがポリシー
ボール氏は、長くアメリカの行政機関で植物病理学の研究者として活躍していたという異色のキャリアを持っている。オーディオへの情熱はずっと心の中で燃やし続けてきたというボール氏は、今から約15年前に仲間を集めてオーディオの世界に身を投じた。
製品開発のポリシーは「どこにもない音を生み出すこと」であるという。ボール氏はその持論を次のように展開する。「Campfire Audioのラインナップにはバランスド・アーマチュア型、ダイナミック型のドライバーを搭載する様々な種類のイヤホンがあります。それぞれのドライバーが、もともと備える特性を素直に引き出すところから始まります。そこから、当社独自にメカニカルな部分、マテリアル選びの側面へと切り込んで“独自性”をつかみ取っていきます。結果、どこにもないCampfire Audioらしい個性的なサウンドが姿を現すのです」。
ボール氏はALO audioを立ち上げる前に、人気のイヤホンを改造して販売することも行っていたというが、ある頃を境に、ベースのヘッドホンを再チューニングするだけでは、自分の目指す究極のサウンドには到達できないと悟り、自身で一から設計した製品を作ってみたいという強い思いに駆られるようになる。
その情熱は程なくして、ALO audioというオリジナルブランドとして結実した。イヤホンブランドのCampfire Audioは3年間の準備期間を経た後、満を持して2015年の冬にデビューした。
■「キャンプファイアーらしさ」が際立つ、素材選びと構造研究
同社のイヤホンは筐体設計、マテリアルの選択などに強い独自性を持っている。11月に発売された直径8.5mmのダイナミック型ドライバーを1基搭載する「VEGA」はその好例だ。
イヤホンのハウジングには、“リキッドメタル”が使われている。このマテリアルの特徴をボール氏はこう語っている。「計測を繰り返したところ、とても強靱で耐久性が高く、内部損失などオーディオ的な特性も優れているマテリアルであることが見えてきました。これはぜひイヤホンのハウジングに使ってみたいと思い立ちました。開発には2年間を費やしています。その間は何度もトライ&エラーを繰り返して、苦労したことも沢山ありましたが、最終的には理想とするサウンドに辿り着けたと満足しています。アレルゲンのない、人肌にやさしい素材でもあるんですよ」。
ドライバーにADLC(アモルファス・ダイヤモンド・ライク・カーボン=非結晶カーボン)をコーティングするという、これもまたユニークな手法を採り入れた。極薄のPETフィルムを基本材料とする振動板の表面に、高熱で溶かした非結晶カーボンを9ミクロンの薄さで塗布する。「ADLCコーティングは、一風変わった素材を採り入れたドライバーをつくりたいというアイデアに発端しています。振り返ればこれも、完成までの道のりは相当険しいものでした。材料の温度を適正にコントロールしないと、PETフィルムごと溶けてしまうからです。最適なバランスを見つけ出すまでにおよそ2年間をかけたように思います」。
ボール氏がイヤホンの音をチューニングする上で、大切にしているポリシーは「それぞれのパーツに無理をさせず、シンプルな設計を心がけること」だという。マルチドライバー構成のイヤホンはクロスオーバーの設計を可能な限りシンプルなものにして、ドライバーのパフォーマンスを素直に引き出すことに力を注いだ。辿り着いたひとつの形が、特許を取得したテクノロジーである「TAEC(Tuned Acoustic Expansion Chamber)」だ。
TAECテクノロジーはハイブリッド型のイヤホン「DORADO」などに採用されている。その狙いは、高域用のBA型ドライバーが持つ特性をいっそう引き出すことである。
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