「歴史に残る作品だから後悔はしないように」
「君の名は。」ブルーレイはこうして作られた ー “映画の感動を封じ込める” 徹底したこだわりとは?
−−HDRグレーディングは、全編を通して300nitを上限として行われたのでしょうか?
今塚:いえ、面積の小さい一瞬の光ですが、最大777nitというシーンもあります。具体的に言うと彗星ですね。もちろんパッと見のインパクトだけを狙うなら、あれもこれもと光らせることは可能ですが、見やすさを考えないと長尺作品は厳しい。このあたりのバランスは、さまざまな作品から蓄積したノウハウを活かしています。
777というのは縁起の良い数字ですが、これは偶然ですね(笑)。数字を意識すると、数値的に良いからこれにしようとなってしまう。あくまで使用したマスターモニターのBVM-X300を基準に作ったものを、その都度、様々なHDR環境で確認しながら仕上げていきました。とにかく光の強さはすごく悩みましたね。何度もやり直して、色々な人に意見を聞いて。
−−新海監督の作品はナチュラルな光の表現が特徴ですが、一方で、本来こうは光らないだろうというところを、演出として行っているというパターンもあると思います。HDR化ではそういったところも理解したうえで調整されると思いますが、そこでのポイントはありますか?
今塚:アニメ作品なのですが、非常に細かく描かれた立体感のある絵なので、基本的に実写と同じような考え方でやっています。と同時に、実写だったらこのくらい光るよね、という感覚をアニメーションの世界にはめ込んだ時に、変に浮くところがないかという点にも注意しています。『君の名は。』は光の演出がとても巧いんです。フィルム作品でいう透過光的な、本物の光を感じさせるような作り方ですね。おかげで理想的なHDRグレーディングができました。
−−『君の名は。』だからこそ、HDR化によりリアルな表現が可能となったということですね。
今塚:アニメーションでは、もともと輝度の高い色が使われているため、機械任せでは、例えばキャラクターの顔なども光ってしまうという現象が起きてしまいます。なので、本編の7割くらいのシーンではマスクを切って、キャラクターには被らないようにしています。ただ、照り返しの光があったりもしますので、そういうところはキャラクターにも適宜足したりしています。この作業は時間を掛けて、ギリギリまでやらせてもらいました。
−−最終的にできあがったものを、新海監督にチェックいただいた際の反応はいかがでしたか? 監督はTwitterで「絵に不思議に奥行きが生まれています」と呟かれていましたね。
今塚:新海監督からは一箇所だけ、彗星が落ちて爆発するシーンはもっと光を強くしたいという要望をいただいたので、さらに明るくしていますが、それ以外は一発でOKを貰えました。非常にインパクトがあって、奥行き感が出てすごいと仰っていただけて、本当に良かったです。
秋山:今回の4K/HDRマスターは、今後のデジタルアニメにおける、2K/SDR→4K/HDR変換のリファレンスになると思いますね。