「歴史に残る作品だから後悔はしないように」
「君の名は。」ブルーレイはこうして作られた ー “映画の感動を封じ込める” 徹底したこだわりとは?
−−それでは支給されたDPXマスターからダイレクトにエンコードされたという2KのBDはいかがでしょうか?
秋山:キュー・テックでオーサリングすることが決まった頃、それと時期を同じくしてIMAXでこの作品を観る機会がありました。その時の画質と音質が強烈だったんです。それで映画館を出るや否やエンコードチームに連絡して、「マスターチェックになるからすぐに観て!」と伝えました。とにかく映像の鮮鋭感が凄いんです。エネルギーに溢れていました。このパワーをそのまま2K BDに収めて欲しいと執拗にリクエストしましたね。もう完全にファン目線です(笑)。
成岡:DPXマスターに込められた情報をすべて出し切るために、もう尋常じゃないくらいギリギリの設定で追い込みましたね。もちろんフィルター類は一切かけずに圧縮パラメーターのなかだけで追い込んでいます。ただし、あまり攻め過ぎるとピーキーな画質になってしまうので、そこは冷静と情熱のあいだのせめぎ合いでした(笑)。
−−具体的には、どういった部分が難しかったのでしょうか?
成岡:先鋭的な輪郭線だけでなく、色情報も膨大です。テクスチャーもフィルタリングでバッサリと落としてしまえばエンコード作業はラクになるんですが、もちろんそこは完璧に残しています。映画館で観た時にも印象的だった部分なので、最後までコダワリましたね。BDのビットレートは平均33Mbpsでしたが、とにかくDPXマスターの情報量が多いので大変でした。
−−エンコードマスターがDPXファイルだったことのメリットはありますか?
成岡:マスターのデータ量と圧縮率の関係としては、2K解像度でMPEG-4 AVCのBDが最もバランスが取れています。なのでマスターの質が上がれば上がるほど、その分設定を突き詰めていくことで得られるものがあるんです。
秋山:2K/SDR環境であれば、UHD BDをダウンコンバートするのではなくて、是非BDで観て欲しいですね。邦画の歴史に名を刻むであろう作品の原画アーカイブとしても、このBDの存在価値は非常に大きいと思います。
−−UHD BDやBDが話題ですが、一方でまだまだDVDで視聴される方も多くいらっしゃると思います。
菅井:社会現象にもなった作品ですから、DVDはレンタルを含め、かなり多くの方がご覧になるだろうなというのは念頭にありました。ただ、あまり考え過ぎると手が止まってしまうので(笑)、UHD BDやBDのパラメーターを参考に色々と試してみて、フィルター類も控えめに、ナチュラルな質感を目指しています。
−−DVDのエンコードではどういったところがポイントになりますか?
菅井:DVDに収めるということは、まずHDからSDへのダウンコンバートを行うわけですが、これが上手く行かないと、後の工程で何をやっても良くはなりません。輪郭を強調してHDライクな画を作ることもできますが、シュートやジャギーが出て見づらい画になってしまいます。しかも平均ビットレートが5Mbpsだったので、MPEG-2としてはかなり厳しい条件です。それでも絶対にボケボケの映像にはしたくなかったので、原画のニュアンスを残すことに最大限注力しました。