「歴史に残る作品だから後悔はしないように」
「君の名は。」ブルーレイはこうして作られた ー “映画の感動を封じ込める” 徹底したこだわりとは?
▼担当者が語る『君の名は。』の画づくりの見どころ
−−全体の作業のなかで、ここは特に印象深いというところを教えてください。
今塚:HDRという視点では、一般的にはやっぱり彗星の部分となると思うんですが、カタワレ時に2人が出会うシーンは、光がど真ん中に直射で入るので、ああいうところの演出はより良く見せるために手を掛けています。ただ個人の感想で言うなら、胸を触るところかな(笑)。
成岡:そこは一番エンコードに力を入れたかもしれない(笑)。
今塚:それから四ツ谷の駅のシーンやビルのところも、光の調整次第でよりリアルになるだろうなというのがありましたね。直射の部分や反射の部分、空のディテール、夕景などの光の演出がすごく良いんです。一応、須賀町の階段にも行っています。
−−それは実際の光の差し方を確認しに?
今塚:いや、皆で須賀神社に祈願しに・・・。最後に記念撮影して(笑)。
泉水:自分は最初のシーンで、瀧が屋上で彗星を見上げて、三葉越しにカメラがパンして、オープニングのタイトルが出るところ、あのシーンの設定に一番苦労しましたね。マスターとイコールにならなくて。けれど、ここが決まらないと先に進めない。薄暗くて、動きがあって、といったシーンはエンコードが難しいんです。逆にここを突破できたことで光明が見えましたね。お気に入りなのは、自分も瀧と三葉のカタワレ時のシーンですね。遠くからの夕焼けの光と、手前の暗がりがあって、影の陰影や立体感など、HDRの効果が非常に良く出ていると思います。引き込まれるシーンですから、エンコードにも気を使いました。
成岡:BDも、UHD BDと同じくオープニングのシーンで引っかかって、そこのテストに相当時間が掛かっていますね。ちょっとでも偏った圧縮パラメーターを使うと、パンした時に動画解像度が落ちたように感じられてしまったりして、なかなか抜け出せませんでした。個人的なお気に入りは、三葉がお婆さんを背負って山を歩くシーンです。色鮮やかな紅葉や木漏れ日だったり、森の木々の遠近感だったり、頂上に着いた時の光景だったり、とても気持ちの良い質感が出せたので、そこはぜひBDで見ていただきたいですね。
菅井:DVDもオープニングのところは何回も調整しましたね。あと、例えばスマホの画面で文字を読ませるようなところは、ダウンコンバートすると文字が潰れてしまいがちなので、なるべくスッキリ読めるよう気をつけました。
秋山:私からは一言。どのシーンも「この眼に焼き付けておくことは、もう権利なんかじゃない、義務だと思うんだ」ですね。RADWIMPSの『スパークル (movie ver.)』の歌詞ですが、この言葉がすべてです。
渡辺:今日は画質中心の話になりましたが、『君の名は。』という作品はRADWIMPSの音楽も非常に重要な要素なので、音質にもこだわりました。電源やクロック、振動対策から、ファイルをやり取りする方法まで、弊社独自の「FORS EX SOUND」によって、オーサリング工程においても原音に忠実、を徹底しています。
今塚:それぞれのパッケージごとに、オリジナルを最大限リスペクトして限界まで追い込んでいます。劇場でご覧になった方にも、ぜひご自身の環境で楽しんでいただけたらと思います。
ここまでの話をふまえて、最後に改めてキュー・テックが製作した完成版の映像を視聴した印象をお伝えしておきたい。視聴環境は、プレーヤーがパナソニック「DMR-UBZ1」、テレビは東芝の有機EL“REGZA”「55X910」だ。キュー・テックでは液晶、プラズマを含め大小様々なディスプレイが使われているが、『君の名は。』の最終の仕上がりチェックには「65X910」が用いられたという。また、画質モードは「映画プロ」で色温度は6500K、ピュアダイレクトをオン(BD再生時はさらに色域設定を標準)にした状態が最も製作時の環境に近い画質になるという。秋山氏によればUHD BDとBDの比較する際に、疑似HDR的なモードでBDを観てしまうと、UHD BDとBDの間で輝度の逆転現象が起きたり、色味が合わなくなる場合があるので、注意して欲しいとのことだ。
まずBDだが、これほど情報量の多さを感じさせる映像は珍しい。そのうえで圧縮ノイズはしっかりと抑え込まれている。2K映像なのだが、55インチの画面で観ても甘さを感じる部分が一切無いのだ。おそらくもっと大きな画面で視聴しても破綻を見つけることは難しいのではないか。
三葉の暮らす糸守町の風景は、ただ緑が多い田舎の土地という描写ではなく、木々の色合いから感じられる季節や、古びた建物が過ごした年月までも描かれていることが伝わってくる。
一方で瀧の暮らす東京は、三葉の生活圏とこれほど目にする色が異なるのかと気付かされる。コンクリートや金属といった人工物の多さ、カフェやバイト先のオシャレだが自然ではないキレイさなど、じっくり見るほど発見がある。
DVDについても、DVDというフォーマットの枠を超えていると感じた。正直に言うと久しぶりにDVDの映像を見たわけだが、「こんなにキレイだったっけ」と首を傾げたほどだった。
そしてUHD BDの4K/HDR映像には、あまりのリアルさに驚かされた。作中で表現される光が、いつも目にしている“現実の光”として脳が錯覚するような感覚だ。
HDR化によって画に奥行きが生まれていて、同時に没入感が高まる。特にそれを感じたのは、三葉と妹の四葉、祖母の一葉が三人で山を歩くシーン。ロングショットだが、「手前が木、奥がキャラクター」という遠近感がしっかりと感じられ、映像の説得力が高まっている。
また空に輝く星の数が、夜になるにつれて多くなっていくことがしっかり描かれていることにも感動した。あたりが薄暗くなったくらいでは、ポツポツとしか星は見えない。わずかにしか光っていないことが当たり前だからこそ、リアルな光を感じた。
インタビューでは何度も「自然なHDR効果を心がけた」という言葉が出たが、HDRについてご存じない方がこの映像を見ても、違和感を覚えることはないだろう。必要ない部分はいじらないことが徹底されているのだが、それでいて光らせるべきところは適度に光る。繊細なチューニングが、数々の印象的なシーンの魅力をさらに高めている。
HEVCのエンコーディングについては、様々な苦労がインタビューでも語られたが、実際の映像を見てみると、これもBDと同様、テクスチャーをしっかり残しながらノイズ感は皆無。逆に言うと苦労の跡をまったく感じなかった。
この映像は、4K/HDR対応のディスプレイ/プレーヤーでないと見ることができない。だがこの衝撃は並大抵のものではないし、体験しないのはあまりにももったいない。まだUHD BD再生環境を整えていないという方も、“いつか”に備えてコレクターズ・エディションを入手しておくべきだし、いっそこのために投資しても良いのではと思わせる出来栄えだった。
【商品情報】
■「Blu-ray コレクターズ・エディション 4K Ultra HD Blu-ray 同梱5枚組(初回生産限定)」
価格:12,000円(税抜)
型番:TBR27260D
発売・販売元:東宝
(C)2016「君の名は。」製作委員会
本編ディスクとしてUHD BDとBD、特典ディスク(BD)が3枚用意される。本編の音声はすべてdts-HD Master Audioで、日本語5.1ch/2.0cn、英語主題歌版5.1ch、音声ガイド2.0chの4種類を収録。特典映像として、プロモーション映像集(特報・予告・TVスポット)や公開記念特番「新海 誠・この才能に日本中が恋をする。」、特典ディスクにはビジュアルコメンタリー(神木隆之介・上白石萌音・RADWIMPS)やスパークル [original ver.] -your name. Music Video edition-などが収録される。