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「オーディオ哲学宗教談義」

【対談】オーディオは本当に進歩したのか<第1回> 哲学者・黒崎政男氏と宗教学者・島田裕巳氏が語る

公開日 2017/09/22 12:00 季刊analog編集部
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オーディオの変遷と音楽の意味変容

島田 現代音楽についても、ものすごく抽象化されてよく分からない方にいってしまいました。そこにバッハは関与していて、バッハの抽象的に演奏した感じ、人間の情だとかは関係ないという部分は、現代音楽に影響している。先日この場所で、バッハの無伴奏のヴァイオリンを聴いたとき、ハーツフィールドとEXAKTとで全然違って聴こえて。EXAKTで聴くとバッハって意外と楽しいというか、お気楽な印象を受けたんですね。ところがハーツフィールドで聴いたら、元々バッハに対して持っていたイメージそのままでした。

黒崎 へぇ。

島田 つまりEXAKTが入ることによって音楽が変わってしまったのです。でもそれが現代なのかもしれないし、今までちゃんと聴けてなかったのか、そこをどう解釈するかですね。

黒崎 今まで聴けていなかったものが聴けたり、今まで熱のあったものがフラットに解体されたり。

黒崎政男氏(手前)、島田裕巳氏(奥)


たくさんのオーディエンスが集まったSOUND CREATE LOUNGE
島田 だから、60年代や70年代のコルトレーンを当時そのままにEXAKTで聴くというのは、不可能なんですよね。JBLハーツフィールドなら聴ける。同じ時代だから。

黒崎 それとは逆の話になりますが、リンのLP12を使い始めてから1年ちょっと経って、最近ブルックナーにはまっているんです。

最初に使っていたシステムだと、演奏家が少なければ少ないほど、つまりソロが一番芸術性が高かったのですよ。だから、無伴奏は最高の芸術なのです。デュオだとソロよりちょっと落ちる。カルテットだとまた少し、と。ここでもヒエラルキーがあったわけ。

一同 (笑)

島田 あるんですか?(笑)

黒崎 で、リンのLP12で面白かったのは、パーツをグレードアップするたびに、大きい編成が面白くなっていく。ブルックナーは編成としては最高に大きく、それを70~80年代に聴いたときはただの塊でしかなかった。それを今の機材で聴くと、克明に分かります。

LP12はシャーシや電源部などをグレード アップしてグレードを上げていくことができる

エネルギー感はそのままで、バイオリン・パートが複数の弦楽器から成り立っている、ということが分かる。後方に控える分厚いホルン群の咆吼がトロンボーン群やトランペット群とはちゃんと独立して、しかも濁りなしに聞こえる。オイゲン・ヨッフムとベルリン・フィルが演奏するブルックナーの八番はもっとも分厚い編成だけども、壮大な建築物の細部まで見渡せるよう。この分厚さが初めて意味を持って聴こえるようになった。どちらがいい悪いではなくて、非常に面白くてしょうがないのです。

一同 (どよめく)

黒崎 では、ブルックナーの8番の4楽章。ヨッフムは4回くらい録音していますけれども、一番初めの60年代の演奏を。リン(EXAKT)で聴いてみましょうか。


ヨッフム(指揮)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ブルックナー:交響曲第8番
~ブルックナー:交響曲第8番4楽章を試聴~

黒崎 このヨッフムのブルックナーも、さっきのカール・リヒターのバッハも、コルトレーンも全て60年代の演奏だったわけですよ。面白いですね。当時もしリンがあったとしたら、ブルックナーにはまっていたかも。

島田 こういうオーケストラの演奏って、昔のシステムでは無理。オーディオが発達していなければ聴けない。だから生で聴くしかなかった。

黒崎 (満足そうな顔で)そうですね。


第一回哲学宗教対談 終(第2回へ続く)



SOUND CREATEから
このSOUND CREATE LOUNGEは今年の3月にできました。来年20周年を迎えるのですが、銀座に移転して10年、この街で大人が趣味的に遊べる場所を作りたいと思っていました。
オーディオは技術や価格のことばかりが話題にされがちですが、オーディオは非常に文化的なものだと思っています。
こういう場所ができて、先生方が機会を作ってくださり、皆さまが集まってくださったことをとても嬉しく思います。

SOUND CREATE LOUNGE
LEGATO店斜向いのビルの5階
問い合わせはLEGATO店まで 〒104-0061東京都中央区銀座2-4-17 TEL .03-5524-5828



黒崎政男Profile
1954年仙台生まれ。哲学者。東京女子大学教授。
東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。
専門はカント哲学。人工知能、電子メディア、カオス、生命倫理などの現代的諸問題を哲学の観点から解明している。
「サイエンスZERO」「熱中時間~忙中趣味あり」「午後のまりやーじゅ」などNHKのTV、ラジオにレギュラー出演するなど、テレビ、新聞、雑誌など幅広いメディアで活躍。
蓄音器とSPレコードコレクターとしても知られ、2013年から蓄音器とSPレコードを生放送で紹介する「教授の休日」(NHKラジオ第一、不定期)も今年で10回を数えた。
オーディオ歴50年。
著書に『哲学者クロサキの哲学する骨董』『哲学者クロサキの哲学超入門』『カント「純粋理性批判」入門』など多数。



島田裕巳Profile
1953年東京生まれ。宗教学者、作家。
東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。
専門は宗教学、宗教史。新宗教を中心に、宗教と社会・文化との関係について論じる書物を数多く刊行してきた。

かつてはNHKの「ナイトジャーナル」という番組で隔週「ジャズ評」をしていた。戯曲も書いており、『五人の帰れない男たち』と『水の味』は堺雅人主演で上映された。映画を通過儀礼の観点から分析した『映画は父を殺すためにある』といった著作もある。

『葬儀は、要らない』(幻冬舎新書)は30万部のベストセラーとなった。他に『宗教消滅』『反知性主義と新宗教』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『スマホが神になる』『戦後日本の宗教史』『日本人の死生観と葬儀』『日本宗教美術史』『自然葬のススメ』など多数。

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