互いの製品の相性も抜群
「Abyss」「XIAUDIO」創設者インタビュー。 互いにリスペクトし合う2大ブランドを直撃
■「いいオーディオに必要なのはテクニック、感性、そして”マジック”」
そもそも、チー氏が得意とする領域はアナログ回路の設計であるという。
「アナログ回路設計は成熟した技術であり、もはやノウハウも確立しています。誰もが教科書通りに設計すればよいアンプをつくることができると思われがちですが、事実はそうではありません。どのアンプの音も最後にキャラクターを決定付けるのはアナログ回路設計であり、”いい音”を実現するための肝がここにあります」
Formula Sは構想から完成までに長い時間を費やしてきたという。特にアナログ回路にいくつものパターンを試作してスクラップ&ビルドを繰り返してきた。音づくりにもチー氏みずからが中心となって関わっている。リファレンスとしたのは、AbyssのAB-1266だ。
「駆動力を高めることはもちろんですが、AB-1266をはじめとするHi-Fiヘッドホンをただパワフルに動かせるだけでなく、繊細なニュアンスを引き出せる余裕を持たせることを重視してきました」
パワーバランスのコントロール、正確性を追求する段階で、最後の決め手になったのは内部配線にふんだんに使っているJPS Labsのケーブルだったという。
ヘッドホン出力は6.3mmステレオ標準に加えて、3pin×2 XLR、4pin XLRシングルのバランス出力もサポートしている。バランス回路の設計については「潤沢なパワーを再現できることだけを追求してしまうと、不必要にノイズ成分まで増幅してしまうことになります。やはり丁寧に回路設計を行うこと、あるいは内部部品のマッチングをじっくりと吟味することが肝要です」と、チー氏は音づくりのポイントとなった部分を語っている。4.8kgの重量級アンプで、制振対策も徹底して施している。
最初のモデルFormula Sは据え置き型になったが、XIAUDIOではこれから「Formula」をシリーズ化し、バッテリー駆動のポータブルアンプにも挑戦したいという。チー氏は意気込みを語ってくれた。
「いい音のオーディオをつくるためにはテクニックだけでなく、感性と”マジック”の両方を大切にする必要があります。XIAUDIOはこれからもフルスイングで、皆様に感動をお届けする製品をかたちにしていきたいと考えています」
■Abyss&XIAUDIOを実際に聴いた
今回の取材とは別に、AbyssのAB-1266/Dianaと、XIAUDIOのFormula Sを組み合わせたサウンドを聴く機会も得た。
AB-1266は厚みのあるマッシブな低音が特徴だ。平板ではない、立体的で体の芯に響いてくるような低音は平面型ヘッドホンの常識を超えるレベルだ。女性ボーカルの声は繊細なニュアンスを引き立たせて、質感も驚くほどきめ細やかだ。ふたつのエッセンスを見事に共存させたところにスキビンスキ氏の類い希なる音づくりのセンスを実感することができる。
Dianaもコンパクトなサイズを超えるスケールの大きなサウンドを描き出すヘッドホンだ。オーケストラを聴くと楽器の定位が鮮明に浮かび上がってくる。楽器の音色の違いを自然に聴き分けることができた。音の立ち上がりが鋭く、華やかな余韻が静寂の中にすうっと消えていく。柔らかく、繊細なニュアンスの表現力はAB-1266に比べてまったく引けを取っていない。
濃厚なサウンドをじっくりと聴き込むのであればAB-1266、音楽をより長時間、何気なく聴きながら過ごす時にはDianaを選んでも良さそうだ。ただし、Dianaも実力をフルに引き出すのであれば、実力相応のアンプを組み合わせたい。そういう意味では、XIAUDIOのFormula Sは互いを高め合うことができる最高のカップリングだと言えそうだ。ぜひイベントなどの機会を活かして、それぞれの音に触れてみてほしい。
(山本 敦)