【特別企画】2機種の製品レビューも
カスタムIEMブランド「qdc」代表インタビュー。エンジニアやミュージシャンの声に応える“音の正確さ”が強み
BAドライバーを6基搭載しており、スイッチでクロスオーバーを切り替えることでサウンドを変化させている。Li Zeng Feng氏は「自分でチューニングできるイヤホン、として試験的に開発した。Anole V6を通じて、ユーザー自身が遊びながら自分好みの音、最適な音を探していくという楽しみを提案したい」と語る。
エンジニアやミュージシャンの声を直に反映させながら開発を行うことで、正確な音の実現を追求しつつ、また最高水準の技術力と開発環境でもってそうした要望を具現化することを可能にしたqdc。今後イヤホン以外のオーディオ製品の展開はあるのかを伺うと、「現時点ではイヤホン以外は考えていない。今は“最高のイヤホンを作る”ということを目標にしている」とLi Zeng Feng氏。ただ、親会社QDCでは様々なオーディオ機器開発を行ってきており、そうした技術資産を活かして「将来的にはイヤホン以外の製品展開も考えられる」と語った。
■「NEPTUNE」「Anole V6」の音質について土方氏がレビュー
2016年に日本へ本格上陸したカスタムIEMメーカー“qdc”から、興味深い2つのモデルが登場した。1つはqdc特注のカスタムBAドライバーを1基搭載したユニバーサルタイプのエントリーモデル「NEPTUNE」だ。
まず惹かれるのは、グラデーションがかったブルーの筐体の美しさ。インピーダンスも10Ωと低く、ハウジング部も軽量なので、スマホや小型のDAPと組み合わせて、宅内での本格的な使用から外出時など広い用途で使用できそうだ。
今回は、Astell&Kernの「KANN」を用いて試聴を行った。まずはロスレスストリーミングサービスのTIDALを利用して、テイラー・スウィフト『レピュテーション』を再生する。このアルバムは、エレクトリックシンセサイザーによって作り出された高域から低域まで広範囲な音を鳴らす楽曲が多い。NEPTUNEは、たった1基のBA型ドライバーによるサウンドとは思えない広いレンジで、その聴き所を再現してくれた。
続いて、ハイレゾ音源のダイアナ・クラール『ターン・アップ・ザ・クワイエット』(192kHz/24bit FLAC)」を聴く。全帯域ともレスポンスが良く、ボーカルの距離感も適切だ。奇をてらったようなドンシャリなサウンドではなく、正しいトーンバランスに好感が持てる。さらに、空間に広がるピアノのリバーブ成分など、微小レベルの音もしっかりと再現。位相感に優れ、各帯域のスピードも揃っているなど、理論上の優位点がちゃんとサウンドに現れている。コストパフォーマンスの高いエントリー機と言えよう。
「Anole V6」はBAドライバーを6基搭載する新鋭機だ。左右のハウジングにあるスイッチを切り替えることで、4種類のサウンドチューニングを楽しむことができる。こちらもAstell&Kernの「KANN」を用いて試聴を行った。テイラー・スウィフト『レピュテーション』では、fレンジ、ダイナミックレンジとも広く、オーディオ的な高い能力が感じられる。ボーカルは口元がコンパクトでシャープな表現だ。この楽曲はエレクトリックバスドラムによる低域が盛大に入っており、イヤホン泣かせの音源とも言えるのだが、Anole V6の低域は立ち上がりが良く、これを楽々と再生してくれる。
ダイアナ・クラール『ターン・アップ・ザ・クワイエット』は、音像が立体的で、ピアノやベースの位置関係が厳密に表現されている。楽器のアコースティックな質感表現もにも長けており、ベースのボディ感と粘りのあるその音色や、軽やかなピアノの美しい音色など楽曲の持つ独特の魅力をしっかりと表現する。
スイッチを切り替えていくと、中高域の響きや中域の密度感が変わる。ただし、トーンバランスを大きく変えるようなものではなく、あくまでも完成度の高い本機の音をファインチューニングさせるような変化だ。先に聴いたNEPTUNEのコストパフォーマンス優れる音にも驚いたが、Anole V6のサウンドは、「さすがは上位モデル」と期待を上回るクオリティだった。
(レビュー執筆:土方久明/インタビュー・記事構成:PHILE WEB編集部)
(特別企画 協力:ミックスウェーブ)