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本人と録音エンジニアにインタビュー

藤田恵美8年ぶりの“camomile”、『colors』インタビュー。オーディオ的にもエバーグリーンな作品が誕生

公開日 2018/12/31 06:30 岩井 喬
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「例えば『Colors of the Wind』の尺八については、歌詞のなかに地球という世界の中で、肌の色や、動物と人間といった分け方に意味はないというワールドワイドな内容なので、西洋の楽器もあれば日本的なものも楽器に使ってみるのがいいのではないかと考えたんです。そのなかで“笛”が欲しいと思っていたのですが、尺八だと面白いと。

ただ、本来の尺八の吹き方ではなく、ポップスのシーンで尺八の良さが生きる吹き方ができるという方を探してもらいましたね。録音のときはブースの数が足りなくて、尺八はあとでダビングにしようという話になったのですが、一発録りしているのにソロ楽器がいないのはどうなんだろうということで、全員一緒に録音してみたんです。すると一緒に演奏したことで独特なグルーヴ感が生まれていて、良いテイクになったんですね。同時に演奏する人間が一人でも増えると楽曲が全く違う作品になるんです。とても良い経験でした。

最近のレコーディングは簡単なリズムとコードが入っているだけのオケを聴きながら歌入れをするということが多くなってきたんですが、このアルバムづくりとは逆のスタイルですよね。先にボーカルを録音して、後から楽器を入れていくという。歌い手からすると、以前からの録音方法、他のパートの演奏を聴きながら歌えた方が気持ちも盛り上がっていくので、そうした最新の手法には少し違和感があったりもしますね。

でも先に歌を入れることで、あくまで素材の一つと捉えてアレンジを考えるというのは、いかにも現代的というか、主役である歌を聴きながら演奏を組み立てたいというスタイルの必要性についても理解しています。とはいえ、気持ちの入り方としては、楽器の演奏がある状態で歌う方が良い方向に変化していきますよね。その極地が一発録りで、ミュージシャン同士の気持ちもぶつかり合って、有機的な変化が起きる。抑揚ある楽曲が生まれる原動力になるような気がします」。


さらに藤田からリスナーに向けての思いも伺ってみた。

「この『camomile』シリーズ、そして今回の『camomile colors』は、ミュージシャンがそれぞれにきちんと演奏しているという手作り感がポイントとなっています。打ち込みが多い時代でこういう音楽も聴いていただいて何か感じてもらえるような、聴きどころの多いものとなっていれば幸いです。

オーディオファンの方たちは音を大事にされていると思いますが、一般のリスナーの方たちは昔に比べて“音楽は消耗品”というような聴き方をされることが多くなっているように感じています。わくわくしてアナログレコードをひっくり返すとか、“誰が演奏しているんだろう”とミュージシャンクレジットを見るとか、そういう能動的な聴き方ではなくなってきていますよね。でもそういう音楽の聴き方も面白いよということを、この『camomile colors』で知ってもらえたらと思いますね。

音楽への寄り添い方。作る側も手間もあって面倒くさいけれど、聴く側もあえて面倒くさい思いして聴くのも面白いんじゃないかなと。もちろんTPOも大事ですからYouTubeで触れていただくのも大事だと思います。でもCDやハイレゾ音源で聴いていただくとより空気感を感じやすいはずです。なぜここまでこだわって生楽器を使うのか、一発録音にする理由がわかっていただけるのではないかと。

YouTubeのような圧縮音源と聴き比べていただけたら、このポイントも理解しやすいと思いますが、例えば圧縮音源を “回転ずし” 、ハイレゾ音源を“職人さんがカウンターで握る寿司”としましょう。回転ずしでも十分楽しめますが、たまに職人さんが握る寿司を食べると、回転ずしとの差が分かりますよね。手間をかけた“寿司だね”の本物のおいしさ。それがハイレゾ音源が生み出す空気感です。TPOによってその時々でどちらかを選んでいただければと思いますし、回転ずしを否定しませんが、ぜひ、本物を体験していただきたいですね」。

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