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コンサートで音にこだわる難しさとメリット

鳥山雄司インタヴュー 。世界的ヴァイオリニスト、葉加瀬太郎コンサートの舞台裏を聞く

公開日 2019/02/15 19:23 季刊・ネットオーディオ編集部
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■起きる問題は経験値でカバー

鳥山氏が葉加瀬太郎のコンサートの音響を担当したのは、今回が初めてのことではない。当初はあくまで鳥山氏の一存で行ったそうだが、昨年は正式に葉加瀬太郎の事務所からオファーを出す形で展開されたそうだ。それはやはり、他でもない葉加瀬太郎自身が、アクセサリーやケーブルまで含めた音響にこだわることに大きな手応えを感じたからに他ならない。

ステージ上で数多く用意されていたアコースティック・リヴァイヴ製の特注ケーブルインシュレーター

鳥山 2年前は、例えばケーブルインシュレーターと単線の電源ケーブル。それを、PAのメインスピーカーのアレイ、サブ、ローのアンプの電源に使ったんです。これで、まず一番オーディオメーカーさんが得意とするところの「再生音の輪郭」がはっきりしたんです。最初インプット側は何も手を加えなかったんですよ。やっぱりインプットを変えるというのは、最後にしないとわけが分からなくなってしまうので……。あくまでコンソール上でミックスした音を客席へ向けて出す部分、ここを変えるとどのくらい音が良くなるかっていうのを試したところ、ものすごいレンジ感が広がったんです。レンジ感が広がったということは、各楽器の置き場所が上下に広く取れるので、そうするとPAエンジニア的には楽なんですよね。この時も外音をしっかりと作ったことで良い結果が出たので、先程お話したヴァイオリンを引き回す30mのケーブルはすぐに交換しました。やはり、ものすごくレンジ感が出たので良かったんですが、ひとつ、逆に難点もありました。感度が高いので、すぐにハウリングを起こしちゃうんですよ。特にヴァイオリンはコンタクトマイクを使うので、大きな会場で音を返そうとすると、ハウリングを起こしやすい。レコーディング・スタジオだったらそういうことはありえないわけですよ。ただ、やっぱりライヴというのはステージの中と外というのは全く別のもの。外音のレンジ感が広くてスピードが速ければ、それがステージの中に入ってくるということは当然ありますし、感度の高い再生のケーブルを使っていればそれだけ回り込んでくるので、PA的に問題が起こることは結構ありました。

PAのメインスピーカーを始め、さまざまな場所の電源ケーブルを強化

こうしたステージだからこそ起こる問題点は、まずホームオーディオやスタジオの環境では起こり得ない「想定外」とも言うべきものだ。それをどう解決したのか。「そこはもう、経験値ですよね」と鳥山氏は話す。

鳥山 葉加瀬くんはヴァイオリンの音を聴くためにイヤモニをしないので、サイドモニターからヴァイオリンだけを返しているんです。例えば、ホワイトノイズとかピンクノイズを出して「2kHzと450kHzにピークがあるね」と言ったら、そこをディップさせて行くわけですよ。そこらへんの帯域を上手く削っていってハウリングを起こさないようにする。要するにケース・バイ・ケースで、ホールによって全部変わってくるんです。

舞台音響の世界での常識は、我々が普段聴いているオーディオの世界とは大きく異なるものである。一般的にケーブルは、なによりも取り回しが優先され、素早くセッティングでき、なおかつラフに扱っても壊れないものが求められる。当初は鳥山氏自身が舞台を担当するスタッフを説得し、やっとのことでここまで音響にこだわり抜いたセッティングが実現したそうだが、そこまでしたのは音響的なメリットを存分に感じることができたからだそうだ。

鳥山 ヴァイオリンに関しては、いままではエッジしか聴こえなかったんです。葉加瀬くんの個性としてG線のふくよかな低い音の太さのようなものを大事にしているのですが、あまりそっちにウエイトを置くと、どうしてもハイカットをせざるを得ないようなチューニングになっていたんです。ただ、ケーブルをアコースティック・リヴァイブに変えるだけで、EQでいじらなくても行けるようになった。つまり、元のヴァイオリンの音に近く再生されているということですね。着けない場合と比べて、「だいぶウン千万のヴァイオリンに近くなったね」って思いました。

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