コンサートで音にこだわる難しさとメリット
鳥山雄司インタヴュー 。世界的ヴァイオリニスト、葉加瀬太郎コンサートの舞台裏を聞く
■電源へのこだわりと、「音を止める」ことの重要性
いまでは、葉加瀬自身「次回もこの舞台音響でやりたい」というほどにまで気に入っているようだ。この葉加瀬自身が使うヴァイオリン以外にも、世界的ヴァイオリニストを虜にしたこだわりがある。その一つが電源周りである。
鳥山 いまのコンサートではデジタル卓が主流です。つまりクロックが入っているんですが、電源だけはちゃんと確保しないとクロックもちゃんと動いてくれないんですね。PAのスピーカーを鳴らしているのは基本的にデジタルアンプなので、爆音系のロックでもない限りは、デジタル機器扱いで電源ケーブルとフィルターとインシュレーターを入れた方が良い結果がでましたね。あとは葉加瀬くんのところは特にチェロと生ピアノ、ヴァイオリンとパーカッションに関しても、とにかく異常にマイクが多いんですよね。ピアノとチェロに関しては、ピエゾっていうマイクがあって、それを仕込むんですよ。それがものすごいハイインピーダンスで出てくるんです。しかも葉加瀬くんのコンサートは照明の数がすごい。普通のいわゆるロック系のコンサートに匹敵するくらいムービングもあったりだとか、照明の電源ノイズがすごいんですよね。大きいホールに必ずバトンというものがあって、そこにいろいろな電源を吊り下げてムービングライトっていうモーターで動く照明につないだりする。これがものすごいノイズを発生させるんですよ。そういうところにハイインピーダンスのマイクを置くので、ピアノとピアノのピエゾのところには、小さいケーブルインシュレーターを必ず置くようにしています。あとは会場によって、ディフューザーを寝かせて音が止まるか止まらないかを聴きながらセッティングをします。チェロもやっぱりピエゾなので、ケーブルインシュレーターを入れたり入れなかったり、ステージの環境に合わせてやるんです。
照明機器が音に与える影響というのはオーディオの世界でも言われていることだが、ライヴやコンサートの場合はその規模がとにかく大きい。だからこそ、電源の対策は大きな意味を持つということだ。
そしてもうひとつ、キーワードとなったのが「音を止める」、つまりルームアコースティックにまつわるこだわりである。それがステージに張り巡らされた吸音材の存在だ。蹴込みと言われるステージ上の段差の部分にも、アコースティク・リヴァイブ製の吸音材をこれでもかと言わんばかりに並べていた。
鳥山 もし、これがただのヴォーカリストのコンサートだったら、こういうことは絶対にしないんです。ただ、今回はヴァイオリンとチェロがいた。例えば、僕が葉加瀬くんのヴァイオリンを肩にポンって乗せて葉加瀬くんの位置に立つと、ヴァイオリンが「クォー!」ってずっと鳴っているんですよ。当然、生音でサントリーホールの奥まで届くように鳴る箱で作っているから、ほかから音がなれば共鳴しちゃうわけです。それを止めるためには、ステージ上で鳴る音をなるべく止めるしかないわけです。イヤモニを使わない葉加瀬くんはフロントにいて、PAからも外音が出ていて、という場所に晒されるんです。要するに、外音が鳴っているのが分かっちゃうんで、どんどん自分のモニターが大きくなっていくんですよ。そうすると何が起こるかっていうと、ヴァイオリンが一層「クォー!」って鳴ってくるんです。そのイタチごっこ。だからこういうステージでの吸音処置が必要だったんです。