世界で評価される高音質の舞台裏
ハーフスピード・マスタリングを支える重要人物 ― マイルス・ショーウェル氏(アビー・ロード・スタジオ)インタビュー
ショーウェル氏がハーフスピード・マスタリングを手がけた作品のなかで、近年最も話題を集めたのがビートルズの『ホワイト・アルバム』である。その製作時について、彼はこう振り返る。
「『ホワイト・アルバム』の新しいリミックスは、ジャイルス・マーティンとサム・オケルによってアビー・ロード・スタジオで行われました。特筆すべきは、彼らはビートルズのすべてのリールをアーカイブしてあるということです。つまり、マルチトラックテープのスペースを確保するためにバウンスされたトラックであっても、曲の要素をそれぞれで引き出すことができるんです。『ホワイト・アルバム』の中には、4トラックのものもあれば8トラックのものもありますが、レコーディングの際はいずれもテープのチャンネルをすぐに使い果たしてしまうので、新しいテープにコピーしながらオーバーダブのためのスペースを確保していたんです。この事前にバウンスされたテープはすべてアーカイブ内にあるので、最新のDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を使えばより広い範囲でリミックスできることになります。ジャイルスとサムによる新しいミックスは、私の手元に来た段階で素晴らしいものでしたので、実はマスタリング工程でそれほど多くのことはしていません」
ショーウェル氏によると、この『ホワイト・アルバム』のようにアナログマスターから作業できることは極めて稀で、アナログ盤の場合もハイレゾリューションのデジタルマスターから作業を行うことが多いそうだ。
「どのレコード会社も貴重なマスターテープが輸送中に万が一にでも紛失してしまったら……と考えるのは当然です。特に海外からの仕事に関しては、マスタリング前のハイレゾリューション・スペックによるデジタルコピーから仕事をすることになります。その一例がABBAの『アライバル』と『ジ・アルバム』です。ABBAのマスターテープはスウェーデンからでることは決してありません」