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【特別企画】フラグシップ越えの音を作る4要素を解剖

デノンが“コスト度外視“で作った背景とは? 110周年記念AVアンプ「AVC-A110」音作りの全貌を聞いた

公開日 2020/11/06 06:30 鴻池賢三
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1.高い低域解像度

高橋氏は、低域の質感表現で最も大切なのは、電源部のブロックコンデンサーだと断言する。全ての源だからだ。内部の電解紙としてマニラ麻を用い、固定材を排除。ここまではビンテージライクな太い音が出せる、デノン伝統の手法だという。

高橋氏が「低域の質感表現に最も大事」と語るブロックコンデンサーは特注のものを採用

コンデンサーは陰極箔の引き張り強度と巻きテンションで質感の調整を行うのだが、今回はより低域を出すために、テンションを最も緩い状態にセッティングしたという。通常モデルで同じことを行えば、音がブヨブヨとダブつく心配が出てくるが、コストのタガが外れた本モデルは、入り口では制限を設けず、後段で絞り込む方法でチューニングする算段なのだ。

また、基板の配線銅箔を通常モデルの35μm(0.035mm)から2倍の70μm(0.07mm)に“厚盛り”。理論上、インピーダンスを半分に低減できる計算で、低域の質感改善のみならず、ハイスピードサウンドにも関係する。コストアップに直結する部分で、AVアンプとしては他に類をみない手法である。

これらの施策は、ベースモデル「AVC-X8500H」と似て非なる、いや、根本的に異なる部分である。

2.高い機構安定度

オーディオにおいて「振動」は大敵である。本機では、2007年に発売された高級AVアンプ「AVC-A1HD」と同様の鋳鉄製フットを採用するほか、比重がアルミの3倍も高く、しなやかさも備える純銅製素材を積極的に採用。パワートランジスタや安定化電源など多くの場所に使われており、特にトランスの振動ダンピングに効果を発揮するそうだ。

ベースモデルに対し機構系部品の変更は154点にも上り、総重量は約2.1kg増。結果、低域の音像を引き締め、エネルギーをしっかりと伝えられるように仕上げられているという。

機構安定のため、「AVC-A1HD」以来、実に13年ぶりに鋳鉄フットを採用する

比重が高く、柔軟性や耐食性も兼ね備える純銅材を贅沢に投入

3.ハイスピードサウンド

基板レイアウトは同じままでどのように改善するか。パターンの銅箔を厚盛りにするほか、定数を下げる方向で低インピーダンス化が図られているという。また、パーツのアップグレードも見逃せない。

DAC周りは、過度特性、つまり高域特性に優れるポリプロピレン製フィルムコンデンサーを採用。高精度な金属皮膜抵抗、振動するコイルは含浸して振動を抑制するなど、電子部品の変更は258点にも上るが、エネルギッシュなデノンサウンドを実現するためには不可欠という。

「コストのタガ」が外れた本機では、実に258点もの電子部品がハイクオリティなものに交換されている

4.高い放熱安定度

パワートランジスターの受けに純銅製パーツを使用し、グリスの最適化によって放熱性能を向上。グリスは量と塗布方法が放熱効果を左右するが、工場の生産現場で熱の測定を行いいつつ、カットアンドトライを繰り返して最適化したという。開発と生産が一体化した国内施設「白河オーディオワークス」が存在してこその、きめ細やかな技といえるだろう。

放熱性能が高まるということは、瞬時に大電流を供給してもアンプの動作が安定し、強力かつ精密なスピーカードライブを維持できることを意味する。

純銅のトランジスタ受けは制振のみならず、高い熱伝導率を活かし放熱でも効果を発揮。グリスの最適化によりさらに放熱性能を向上させているという

クオリティ重視となると、プリアンプとパワーアンプのセパレート構成も有力な選択肢だが、13チャンネルを扱う豪級AVアンプにおいては、プリメイン構成による信号経路の最短化はアドバンテージと言える。本機はプリアンプモードも備えているので、この辺りは試聴時、あるいは導入時に吟味するのも楽しそうだ。

次ページチューニングの過程と仕上がりを高橋氏に伺った

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