名作映画のテーマ曲を作曲者が指揮
今年最注目! ジョン・ウィリアムズのライブ盤6バージョンを評論家とプロデューサーが聴きまくった
■Dolby Atmos対応のブルーレイディスクを聴く
土方 いよいよここからは、デラックス盤に付属するブルーレイディスクによる映像作品の評価に入りたいと思います。本タイトルはストリーミングサービスのTIDALでも、TIDALビデオとして見られるのですが、ブルーレイディスクは上方向の音も再現するDolby Atmosに対応しているのが大きな特徴です。いかがでしたか?
小原 今まで聴いてきた音声に加えて映像が追加され、さらに360度全方位プラス天井方向から音が出るDolby Atmosでは、その場にいる感じが大きく増しますね。自分で言うのもなんですが、僕はこの再生環境でE.T.を見ると、ウルウルしてしまうんですよ。
あのハイライトシーンが浮かんできてしまうんです。映像でもお客さんが皆泣いてるし。カメラワークにもこだわりがあり、各楽器の質感も良く出ている良質な映像です。
土方 200インチスクリーン+プロジェクターで、4Kアップサンプリングされた見事な映像だったと思います。このブルーレイディスクがオマケで付いてくるなんて嬉しい。
渋谷 今、とあるイマーシブサウンドの制作に携わっているのですが、この映像はまさにお手本といえる包まれ感を持っていると思います。ただ、カメラワークとサラウンドの連動については若干違和感がありました。例えば観客席から見たカメラと指揮者を正面から写したカメラでは、映像的に正反対のサウンドステージですが、音声は連動しませんよね。
土方 なるほど。僕は漠然と視聴していたので違和感はあまりなかったのですが、興味深い指摘です。
小原 その意見は率直でいいですね。ライブコンサート作品で時折指摘されることなんです。つまり、映像をスイッチングしても、音場バランスが連動しないという。ただカメラごとに音のステージ表現を変えると、音楽として成立しないのが悩みどころですが。
土方 映像を見て気がついたのですが、インペリアルマーチが演奏された瞬間、会場が沸き立ちますね。元々リストになかったのでしょうか? 僕はこのシーンが大好きなんです。
渋谷 はい、もともとこの楽曲はプログラムに入ってなかったのです。理由はトランペットやトロンボーンに肺活量を含めた演奏技量面で、ウィーン・フィルのエレガントなイメージに合わないと、ジョン・ウィリアムズが判断していたようです。
しかし、1日目のリハーサルが終わった後に、ウィーン・フィルメンバーから「やろうよ」と声があがり、ウィーン・フィルの運営側からジョン・ウィリアムズに提案されて決まったのです。
小原 そんなにいきなりできるものなのですか?
渋谷 実は、2010年のサマーナイトコンサート(毎年5月にウィーンのシェーンブルン宮殿にて行われるウィーン・フィルの名物野外コンサート。2020年は9月開催)において、ウェルザー=メスト指揮で演奏されています。このときの記憶が楽団にもあって、今回のオファーにつながったようです。
土方/小原 それはすごい。
■完成度が高く、いろいろなメディアで楽しめるコンテンツ
土方 ジョン・ウィリアムズ「ライヴ・イン・ウィーン」は様々なソースが発売されたことが大きな魅力ですが、音も映像も大変良質で、可能な限り良いシステムで聴くべきと思いました。
渋谷 楽曲ごとにエンジニアが音作を変えていることに注目してもらいたいですね。ひらたく喩えるなら、E.T.は劇場型。映画音楽のイメージです。インペリアルマーチはまた少し違っていて、左側奥にあるコントラバスの存在感を強調し、帝国軍のダークさや不安定感をよく表しています。
アナログ盤で参考までに聴かせて頂いたアンネ・ゾフィ・ムターがソロで加わる演奏は、ヴァイオリンとオーケストラのリバーブの質感も違うし、対位法にある低音をしっかりと前に出してくるような、いわゆる純クラシックではやらないミックス手法も聴き取れました。相当時間をかけて作られていることがわかります。
土方 映画音楽をオーケストラが演奏したタイトルは他にもあって、総じて低域楽器の迫力を出す音作りをしていますが、ここまでこだわっていたなんて。
小原 1つのアルバムの中で、映画音楽の特色を出すためにミックスのバランスを変えてあるのですね。我々オーディオファイルはその描き分けも自身のシステムで表現したい。
渋谷 音楽タイトルとBDタイトルはどちらもムジークフェラインの同じ録音素材から編集されています。さらに、セッションレコーディングではないライブ感を出すために、演奏者の足の音や観衆の拍手や歓声などを取り入れつつ、リハーサルと本番の音声を適時ミックスして作っています。例えば大事なソロパートなどは、パッチセッションで録り直すこともあります。
小原 それにしても、今生きている作曲家が自ら指揮する演奏って素晴らしいですね。
渋谷 作曲家が存命中、しかも映画音楽を自ら指揮することは、ウィーン・フィルではそうそうないです。それだけこの演奏会はウィーン・フィルにとってもチャレンジだったということですね。
小原 完成度が高く、いろいろなメディアで楽しめるコンテンツが久しぶりに登場した気がします。貴重な話がたくさん聞けました。ありがとうございました。
渋谷 それに今、奇しくもウィーン・フィルが来日しているので、ぜひこちらにも注目していただきたいです。
土方 このページを見ているクラシックファンやオーディオファイルの皆さん、歴史的な映画の名曲がたくさん入っているので、普段クラシックを聴かない方にも本タイトルはおすすめですよ。
最後に、ウィーン・フィルからファイルウェブを見ているみなさんに、この記事だけのためにいただいたコメントを掲載して本稿を終わらせたいと思います。
ウィーン・フィルにとってクラシックを演奏することと、映画音楽を演奏することになんら違いはありません。ジョン・ウィリアムズの指揮によって彼の作品を演奏できたことは、我々にとっても素晴らしい体験でした。 彼はもちろん偉大な作曲家ですが、それだけでなく非常に優れた指揮者です。私自身も楽しんで演奏しました。このアルバムを日本のクラシック音楽ファンの皆様だけでなく、映画ファンの方など日本の多くの方々にも楽しんでほしいと願っています。 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 楽団長 ヴァイオリニスト ダニエル・フロシャウアー (https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/wphweek2020/) |
■使用機材
・プロジェクター:JVC「DLP-Z1」
・スクリーン:スクリーン・リサーチ「サウンドスクリーン200インチ」
・AVセンター:デノン「AVC-X8500H」(内蔵パワーアンプはトップスピーカー駆動のみ使用)
・UHD-BDプレーヤー:パナソニック「DMP-UB9000」
・SACD:CDプレーヤー:ソウルノート「S-3」(今回はDACとしても使用)
・ネットワークトランスポート:オーレンダー「W20」
・アナログターンテーブル:テクダス「Airforce One」
・トーンアーム:アコースティカルシステムズ「Axiom」
・イコライザーアンプ:フェイズメーション「EA-1000」
・MCカートリッジ:ミューテック「LM-H」
・プリアンプ:ソウリューション「725」
・パワーアンプ:ソウリューション「711」
・パワーアンプ:アキュフェーズ「PX-650」(センターおよびリアの3ch)
・その他、サブウーファーおよびその駆動用パワーアンプ:オーラサウンド、バランスオーディオテクノロジー
・スピーカー:TAD「TAD Reference One」(L/C/R)
・スピーカー:パイオニア「S-1EX」(リア L/R)
・スピーカー:イクリプス「TD508mk3」(トップスピーカー×6)
■視聴曲(映像 音声とも)
「インペリアルマーチ」渋谷/土方推薦
「E.T.」小原推薦