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「史上最“恐”画質」は伊達じゃない!

“使用禁止のネガ”に“失われたはずの予告フィルム”、『4Kゴジラ』制作秘話がゴジラ映画の考古学だった

公開日 2021/03/06 07:00 編集部:松永達矢
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■高い完成度まで持っていくことができた4K版レストア作業
−−かなり途方もないように思える作業をタイトルごとに行っているのですね…!「60周年記念デジタルリマスター版」のコンセプトは「公開当時のオリジナルネガ、初号試写の画と音を目標」としていたとのことですが、同一素材を用いている今回のフル4Kの「初ゴジ」の目指した画作りというのは?

清水 より高いクオリティをもって「オリジナルネガ、初号試写の画と音」に近づけるというコンセプトで進めていきました。前回は2Kサイズで画出しをしていたので、「あの時も4Kでやっておけばこの苦労は無かったのかもな」というところもあったのですが(笑)。でも、当時は4Kでやるのは難しかったのも事実ですね。

小森 例えば使用機材のスペック的に、取り扱うデータ量がリアルタイムで走らないといった問題があるんです。フィルムに発生するアオり(1カット内で発生する画面の明滅)は、定速のスピードでないと確認作業が難しいところがあるので。今の技術と、前回を踏まえた技術者の経験値の積み重ねがあってこそ、今回のリマスターにおける高い完成度まで持っていくことが出来たと自負しています。

TM &(C)1954 TOHO CO.,LTD.

−−「60周年記念デジタルリマスター版」と同じスキャン素材から、再度イチからリマスターを行ったとのことですが、やはり比較しながら今回の「4Kデジタルリマスター版」のレストア作業を行った形になるのでしょうか?

清水 イチから作ったというのもありますが、小森が手掛けた「60周年記念デジタルリマスター版」がファンから非常に評判が良かったので、これを超えないといけないという命題を抱えながら、場面場面を比較して、「前はこうだったけど、今回は別のアプローチで」というのを各所のレストアとグレーディングで行っています。

しかしレストア班は「初代ゴジラ」で何回も作業していまして、ビデオソフトで作業して、放送用マスターで作業して、さらに7年前の「60周年記念デジタルリマスター版」で作業して…そして今回のフル4Kの作業に当たるわけですが、どのシーンにどのような傷が走っているか、というのを体で覚えていると思います。

この積み重ねがあったので、実は今回スンナリ行ったのではないかな、とも思います。毎回「ここはどうやって直そうか」と悩みながら作業することが多いのですが、今回に関してはここに至るまでの技術的蓄積があるので、かなりスマートに作業ができたかなと感じます。

ただ、4K出しになると、これまで以上に画が細かく見える。そうするとフィルム上の傷やホコリも、今まで見えてこなかったものが見えてきちゃうんですよ(笑)。小さい傷やホコリが浮き上がって来るので、そういった部分では今回のレストア作業において大変だったのではないかと思います。

■映画の製作時期によって4K化の効果にバラつきも
−−貴重なお話をありがとうございます。まさに、4Kに増えた情報量を取り扱う上での苦労が忍ばれるエピソードですね…!そんな中、今回は初の4K化作品が7作もあるというファンには堪らない展開が控えているわけですが、この7作品とした選定の基準をお教えいただけますか?

三瓶 ラインナップの選定については、弊社(日本映画放送)と権利元である東宝さん、実作業に当たられる東現(東京現像所)さんの3社にて、4K化をしたことでファンに喜んでいただけるタイトルであるのと、その効果が高いであろうものを話し合いの結果決めたという背景があります。

また、過去に弊社で行った「ゴジラ総選挙」というイベントでファン投票1位を獲得した『ゴジラVSビオランテ』は、ゴジラシリーズの中では比較的近年の作品ではあるのですが、この結果を汲み取って今回のラインナップに入れようというのもありました。

10月放送予定の『ゴジラVSビオランテ』<4Kデジタルリマスター版>は過去行った「ゴジラ総選挙」にて1位となった作品! TM & (C) 1989 TOHO CO., LTD.

清水 4K化の効果についてのお話が挙がりましたが、一番綺麗に見える作品はどの辺の作品かというものが、2014年に放送された「史上最高画質!ゴジラ4Kプロジェクト」という当時公開済み全タイトルの名シーンを1分間4K化するという特番製作の際にわかっており、目に見えてもの凄く綺麗になった作品が昭和期のゴジラシリーズなんですね。

それが今回のラインナップで言うと『キングコング対ゴジラ』から『ゴジラ対ヘドラ』までに当たります。これは推測になる部分もあるのですが、この年代の作品の撮影で使用されていたフィルムは比較的感度が低く、粒子が細かいものになります。感度が低いということで暗所は写りにくく、かなり照明を当てて、カメラのF値を絞りに絞って撮っているんですね。そのため、フィルムの感度が低い分綺麗な映像が残せるというところがあるんです。

その後フィルムの進化に伴い、感度の高いフィルムが登場します。例えになりますが、ビデオ撮影された暗所の映像を無理やり明るくすると、画全体がザワザワするじゃないですか。こんな感じで感度の高いフィルムはちょっとザラザラしているんですね。平成時代に入ると感度の高いフィルムが使われているので、撮影現場では楽に、あまり照明を当てずに撮影を行えますが、実はフィルムに残っている情報はザラついているという状態になってしまっています。

4月放送予定の『キングコング対ゴジラ』<完全版>4Kデジタルリマスター TM&(C)1962 TOHO CO.,LTD.

我々の方も東宝さんと日映(日本映画放送)さんから「どんな作品が良いですか?」と聞かれましたので、4K化の効果の高い昭和時代の作品で、ファンの方が喜ぶであろうもの、その中で「4K映え」するものを選ばせていただいたという次第です。

『ゴジラ対ヘドラ』に関しては今年が公開50周年になるんですよ。「50周年記念で4Kリマスターやらない手はないだろう」というのと、公開された時代に即したサイケデリックな画が多い作品ですので、その色彩が「4K映え」するんじゃないかな、というのを狙ったというのもあります。こういった所を踏まえ、我々サイドから推薦させていただいた経緯があります。

−−『ゴジラ対ヘドラ』の4K化ラインナップ入りは現場サイドのリクエストということになるんでしょうか…!?

清水 「ぜひ見たいです!」という話を私の方からさせていただきました(笑)。ヘドラ50周年になるので、日映さん宣伝ぜひよろしくお願いいたします!

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