「史上最“恐”画質」は伊達じゃない!
“使用禁止のネガ”に“失われたはずの予告フィルム”、『4Kゴジラ』制作秘話がゴジラ映画の考古学だった
■統一された画質よりも、オリジナルネガの情報量を4K化したい
−−昭和期の作品にスポットを当てたラインナップということですが、私自身も好きな『ゴジラ対メカゴジラ』や『メカゴジラの逆襲』が今回入っておらず、少し寂しい思いをしているのですが…。
清水 それは、この企画が大成功を収めて、日映さんが「第2弾、やりましょう!」と再び音頭を取ったときのために残していると好意的に捉えてください(笑)。
ちなみに、年代的に気になりそうな『ゴジラVSビオランテ』に関しては、人気作であるというのは別に、我々にとっても先程触れた「ザラついている画質」をどこまで追い込むことができるのか、というチャレンジ的な意味合いもあります。これからの作業になるのですが、今後の展開に繋げられるようこれから作業に当たりたく思います。
−−ありがとうございます! 作業についてのお話が出てきましたが、今回の4K化作業というのは作品1本ごとに行っているのでしょうか? また作業に当たるタイトルの順番、全体の進行度についてお聞かせください。
清水 リマスター作業は放送順に、1本1本やっています! 毎月日映さんに納品させていただく形で進めていまして、現在は『モスラ対ゴジラ』のレストア、並びにグレーディング作業が進行中です。
−−その『モスラ対ゴジラ』もですが、全長版のオリジナルネガが完全な形で存在しないとされるタイトルがこの度ラインナップされています。これらの作品はどのような形で全長版として4Kリマスター化されるのでしょうか?
清水 今回ラインナップする作品で、短縮版がオリジナルネガとなっている作品は『キングコング対ゴジラ』『モスラ対ゴジラ』『怪獣大戦争』の3作品となります。今回初4K化する『モスラ対ゴジラ』『怪獣大戦争』については短縮版のオリジナルネガをベースに、不足している箇所を現存するマスターポジから補う形で作業に当たる予定です。
そのため、使用素材の違いによる画質差をどこまで追い込めるかというチャレンジの真っ最中で、違和感が無いように頑張っているというところです。全長版のマスターポジを用いたリマスターによる完全に統一された画質というのも良いとは思いますが、オリジナルネガがある部分に関しては4K化の威力を見せたいなという気持ちがありました。
■もはやゴジラ映画史を紐解く考古学、「初お目見え」のオリジナル予告編復元秘話
−−ここまでのエピソードを踏まえるだけでも放送が十二分に楽しめるお話をいただけて、いち特撮ファンとしても非常に喜ばしく思います! 逆に「ここだけはアピールしておきたい!」という点があれば教えていただけますか?
清水 実は本編はもちろんのこと、予告編も全て4Kで作業しているんです。
三瓶 今回ラインナップする8作品の当時のオリジナル予告編を東現さんに4K化していただきました。現状は放送作品、3月であれば初代ゴジラの予告を放送枠と放送枠の間のインターバルの時間にプロモ扱いで流しています。また併せて、本編放送後に翌月放送作品の予告を流すように編成しています。本編を鑑賞いただいたユーザーの方は、そのまま翌月放送作品の当時のオリジナル予告編をお楽しみいただけるという形になっています。
−−予告のリマスター作業も作品と合わせる形で行われたのですか?
清水 予告の4Kリマスター作業、および納品作業は全て完了しております。ちなみにゴジラの予告編についてのお話なんですが、当時のオリジナル予告が残っていなかったのですが、今回の放送に向けて、全ての予告フィルムを一番最初の劇場公開された当時の姿に復元するという作業をひたすら寝ないで行いました(笑)。
−−予告編の復元というと、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか?
清水 具体的に言いますと、一番大きなところでは『三大怪獣 地球最大の決戦』や『怪獣大戦争』『怪獣総進撃』は、『東宝チャンピオンまつり』の予告フィルムしか残っていない状態でした。これをどうにかして劇場公開当時のオリジナル版のタイトルに戻したいというところから始まり、それこそ最初は当時のファンの方々が残した資料を元にテロップ等を書き起こすという作業も行いました。
ただ、それだけでは飽き足らなくなって、東宝のフィルムセンターに当時の予告編が眠っていないかな…と、フィルムセンター中を探してもらい、現存するゴジラの予告編フィルム全てをこちらに送ってもらいました。そうすると、なんとこれまで80年代にイベントで上映されて以降無くなったとされていた当時の予告フィルムを発見することができました!
−−復元や、捜索などの話を聞いているともはや考古学の世界になってきますね…。
清水 はい(笑)。そうなればこの発見されたフィルムをスキャニングして、文字データをウチの合成チームに抜き出してもらい、今の予告に嵌め替えるという作業を経て4K化された当時のオリジナル予告編が完成しました! 本当に考古学をやっているみたいで、通説とされていた事実がひっくり返り、当時のファンの方々が残した資料を元に作成したフィルムも完成していたのですが、フィルムセンターから物が発見されたとのことで、僕が合成チームに頭を下げて「すいません。もう一回やってください!」とお願いしたり…(笑)。
フィルムを確認していくと、タイトルが変えられていない物にしても東宝マークだけ公開当時のものでなく、新しくなっていたり、「近日公開」というフレーズが無くなっていたりしたのですが、その部分に関しても、ネガ倉庫から変更箇所のいじられていないフィルムが発見されました。そして、適宜素材を入れ替えるなどして「当時のオリジナル予告編」の完全再現に至りました!
『三大怪獣 地球最大の決戦』に関しては、テロップだけ入れ替えればいいと思っていまして、昔のテロップデータを引っ張ってきて今の予告編に載せ替えたりしたんです。ただ、比べて見ると2カットくらい画が違う箇所があることに気付きました。現存していた『東宝チャンピオンまつり』版ですと、ゴジラが片手で岩を投げているんですが、オリジナル版当時の予告を見ると、ゴジラが両手で岩を投げていることが解ったんです! そこも昔のヤツから取ってこようか、という発見の連続でした(笑)。
−−正味1分半程度の予告編にも熱いドラマが詰まっていますね!
清水 「復元してみたいね」という軽い感じで始めてみたら相当ヘビーな作業に化けたので、本編終了後に予告編を放送するという編成は本当にこちらとしても嬉しいですね。恐らく多くのファンの方は『東宝チャンピオンまつり』の予告しか見たことがなく、「かつて開催された80年代の上映イベントで予告編集を見ることができた」という “伝説” があるだけで、ビデオソフトも今の放送でも昔の予告、オリジナル予告編はカバーできていなかったので、今回の放送で初お目見えと言ってもいいかもしれません。
−−そのお話だけで、日本映画専門チャンネルに加入したくなるような製作サイドの熱意を存分に感じとることができました!
小森 作業を担当する自分としては、素材が見つかるたびに訂正が繰り返されるという感覚は「複雑な迷路に入った」という感じでしたね。出口が見えなかったです(笑)。さっき清水が言ったとおり、タイトルが変わったりしている物もあるので、作業しながらどれがどれだか…という感じになっていました。「『ゴジラ電撃大作戦』(『怪獣総進撃』の改題)ってどれを言ってるんだ!?」みたいな。
資料としてプリントを集めたとさっき言っていましたが、古いものだともう真っ赤に劣化してしまっているので、それを直接使うことは厳しかったりしたんです。これをタイトルの抜き出し等でうまく対応したり、カットによってはカラコレでなんとか遜色無い所まで復元することができました。
清水 短い映像ですが、ファンの方には隅から隅まで見ていただきたいものに仕上がっています。
小森 予告だからと言って侮らないでいただきたいですね(笑)。