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【特別企画】“DIY”で作られたこだわりのスタジオ

“ヒゲダンのドルビーアトモス” はこうして作られた − エンジニア古賀健一氏インタビュー

公開日 2021/04/16 06:30 編集部:杉山康介
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誰にも有無を言わせないためにDIYでスタジオ制作

ーーそういった道程を経て生まれたのがこのスタジオなのですね。パッと見ただけでもこだわり抜いていることが伝わってきますが、スピーカー構成などをかんたんに教えてください。

古賀:スピーカーはPMCの“twotwo 6&5シリーズ”をデジタル接続にして、9.1.4chを構築しています。まだ完成形というわけではないのですが、イマーシブオーディオ制作の仕事はすでにできる状態で、『Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -』のミックスもここで行いました。

PMCのスピーカーが採用されている

ーー9.1.4chというのは、ともすればちょっとした企業所有スタジオよりもチャンネル数が多いのでは? ここまで妥協のないものを、それも個人で作られた理由を教えてください。

古賀:僕はこの業界ではまだまだ若手になってしまうんですが、こういう目立つことをやっていると「どうせなんとなくやってるんでしょ」なんてあれこれ言われたりもするんですよね。そういうのを一切受け付けない、誰にも有無を言わせないような環境を作りたかったんです。

なので機材選定はもちろんのこと、部屋自体も米ドルビーが公表しているガイドラインを守って作ってありますし、その上でドルビーアトモスの先駆け的な存在であるエンジニア・染谷和孝さんにアドバイザーをお願いしていたり、疑問点などはドルビージャパンの中山尚幸さんに色々教えていただいたりと、徹底してこだわりました。

ちなみに、電源も5種類入っています。「フジクラ・ダイヤケーブル」「住電日立ケーブル」という2社の電源ケーブルを、それぞれ3.5スケアと5.5スケア1本ずつの計4本、そして普通のケーブル1本。僕自身は電源信者というわけではないですが、クライアントに電源の好みがあった場合は、コンセントを差し替えるだけで違う電源を使えますからね。

ーー確かに電源まで自由に選べますよとなったら、文句のつけようがなさそうです…。

電源も普通の家庭用電源含め、計5種類を使い分けられるようになっている

それとですね、DIYというのはつまり、スタジオ施工会社を通さずに作っているんです。調音パネルの取り扱いやルームチューニングなどを手がけるサーロジックの村田研治さんとともにイチから手をつけていて、「マトリックスキット」という、材料を用意しておけば誰でもどこにでも作れる方式を用いているのですが、要は材料さえ納品すれば日本全国どこにでも、現地の大工さんと、ここと同じスタジオやホームシアターが作れるんですよ。今は必ずしも東京でないと音楽ができないというわけでもないですから、気軽に自分用の音が良い環境を持つ手助けになれば良いなと。

ーーなるほど。古賀さんのお話から、ドルビーアトモスは受けての市場だけでなく、作り手側も未成熟というご認識を感じましたが、それに対する解決策でもあるわけですね。

古賀:このスタジオは言わば「東京実験場」でもあるわけです。今もここのノウハウを使ったオーディオルームを作っているのですが、そこが完成したらフィードバックを受けて、ここの隣の部屋も改装するつもりです。

リスニング環境も非の打ち所をなくすため、超弩級のAVC-A110を選択

ーーそんなこだわりの詰まったスタジオにデノンの「AVC-A110」を導入されたとのことですが、こちらを選ばれた理由は?

古賀:お話してきた通り“非の打ち所がないスタジオ”になるように徹底して作り込んでいるわけですが、そうなるとコンシューマー環境で聴取するためのAVアンプも手を抜けないじゃないですか。

僕は前々からデノンさんのヘッドホン「AH-D5200」を使っていて、お付き合いがあったので、営業企画室の田中清祟さんにご相談させていただいたんです。そうしたら、田中さんに「こちらはいかがですか」と紹介していただいたのがAVC-A110でした。

ーー確かにAVC-A110は現在のAVアンプ市場でも最高クラスのモデルですね。とはいえ、ほかにも高級AVアンプはあります。なぜAVC-A110を選ばれたのでしょうか?

古賀氏のスタジオに導入されたAVC-A110

古賀:決め手の一つとなったのは、15.2chのプリアウト出力(同時出力は13.2ch)ができることですね。現在この部屋は9.1.4chで組んでありますが、僕としては9.2.6chにしたいんですよ。ハイト4発では物足りなく感じる場面もあるので、将来的に対応できるようにと。そのほかのスペックを見ても、これを凌ぐ製品って、いま世界的に無いじゃないですか。

まだ導入したばかりで僕自身使いこめていないので、音や使い勝手に関するコメントは今回は控えますが、今後リスニング用のスピーカーも導入して、ここでコンシューマー環境の試聴もできるようにする予定です。そうすればクライアントに聴いてもらうだけでなく、ここに来るアーティストやエンジニア達にもイマーシブオーディオの面白さを体験してもらえますからね。

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