【特別企画】“DIY”で作られたこだわりのスタジオ
“ヒゲダンのドルビーアトモス” はこうして作られた − エンジニア古賀健一氏インタビュー
■ドルビーアトモス配信が、日本アーティスト世界進出の近道になるかもしれない
ーーさて、2月24日にリリースされたOfficial髭男dism 「Universe + Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -」についてもお話を伺いたいと思います。現在の音楽シーンにおいてトップクラスにホットな存在、それも若い世代から支持されているヒゲダンがドルビーアトモス作品を出したというのは、音楽業界だけでなく、オーディオ業界にとっても大きな意義のあることだと思います。どういった経緯で実現したのでしょうか?
古賀:今回のライブはコロナ禍の中、オンライン形式で開催された無観客ライブだったので、ファンの皆様にリアルなライブの空気感を味わっていただければと考えて、ドルビーアトモス音声に対応した収録を行いました。
とは言え、ただライブ音声を落とし込んだわけではありません。例えば「旅は道連れ」という楽曲ではカメラがステージ上を動き回るのですが、そのカメラワークに合わせてミックスを行っていたり、「FIRE GROUND」という楽曲では噴き上がる炎の演出に合わせ、本来なら聴こえない“炎の効果音”を入れていたりと、ドルビーアトモスならではの工夫もたくさん盛り込んでいます。
ーーなるほど。ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、もしも新型コロナウイルスの大流行が起こらず、通常通りにライブができていたとしたら、今回のアトモスは実現しなかったのですか?
古賀:いえ……実現させていたと思います。というのも、8月に出た『HELLO EP』ではCD +ライブDVDの形態しかリリースされなかったので、そもそもドルビーアトモスが収録できなかったんですよ。
ーーDVDだと立体音響はドルビーデジタルやDTSなど、以前のフォーマットでしか収録できませんからね。そういう意味で、今回は古賀さんにとって待ちに待ったチャンスだったわけですね。
古賀:市場ではまだまだDVD人気が根強いんですよね。ただ、ドルビーアトモスが収録できるできないに関わらず、BDとDVDでは画質/音質ともにクオリティが明確に異なるじゃないですか。製作者の願いとして「BDで買ってほしい」と思います。PHILE WEBさん、これは絶対書いてくださいね(笑)。
また、今回はディスク媒体でのリリースになりますが、ヒゲダンに限らず、例えば今後Amazon Prime VideoやNetflixでアトモス音声のライブが配信されたり、Amazon Music HDでサラウンド/イマーシブ音源が配信されるようになれば、日本のアーティストが海外の目に留まる機会が増えるじゃないですか。機会があれば海外の人も日本アーティストの良さに絶対気づいてくれると思うので、極端な話、ドルビーアトモスミュージックの配信は、世界的なアーティストへの近道になるんじゃないかと思うんです。
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