仮面ライダー初のUltra HD Blu-rayの真価とは?
何度目でもいい、買う!劇場版『仮面ライダー』UHD BDは“別物“に変身を遂げている
■劇場公開用に作られていてもブローアップ版が帰属するのは「TV作品」
−−実際に2K出しの劇場上映を見ている最中にも、造形物に施された塗装の質感など「手作り感」を覚える程の4Kリマスターの高解像感にテンションが上がりました…!
話は変わりまして、ボックスの収録作品について伺いたいのですが、東映チャンネルでの4Kリマスター版放送の際、ラインナップに『ゴーゴー 仮面ライダー』(1971年)といったブローアップ版(16mmのTVフィルムを35mmの劇場用フィルムに焼き付けた仕様)5作品がありましたが、「仮面ライダー THE MOVIE 1972-1988 4KリマスターBOX」には収録されていません。何か理由があるのでしょうか?
小田 ブローアップ版もフィルムアーカイブとして、スキャンデータは作成しています。ただ、ファンの方々ならご存知かと思いますが、ブローアップ版を「劇場作品」という括りでパッケージ化したのは現状、2003年発売のDVD「仮面ライダー THE MOVIE BOX」で最後になっています。
このことから、発売を控える「4KリマスターBOX」の前段となる2011年の「仮面ライダー THE MOVIE Blu-ray BOX 1972-1988」にもブローアップ版の収録はありません。TVのフィルムを使用した劇場作品という性質上、Blu-ray以降は、TV版商品にオリジナルを収録するという考え方をしております。今回もそれに倣って、スカパー・東映チャンネルで放送されたブローアップ版5作品の収録を見送ったという形です。
ちなみに2003年発売のDVD BOXにブローアップ版を収録した理由は、もはや歴史的記録の側面が強いですね。TVシリーズが4:3の画角の作品になるので、それを劇場上映用にシネスコ、横長の画面比率にするとなると、元の画からかなりカットされる部分が出てきます。内容的にはTVで放送されていたものと同一ではありますが、「当時どのような形で劇場上映されていたか」という記録として持っておきたいというファンのために収録したというところです。
ファンの方からすれば映倫のマークが入っているだけでも「違い」として取れるだろうということで、劇場作品を集めたパッケージのDVD版ではブローアップ版作品を記録という観点で収録していましたが、その役割もDVDで終わったとしております。
■TV発のヒーローだからこそ生じる撮影素材の違い
−−ブローアップ版の収録見送りは今回に限ったことではなかったというのと、作品性質上TVシリーズのBOXに収録しているというのも腑に落ちました。スカパー放送の4K版ブローアップ5作品もメディアとして発売されるタイミングも「いつの日か」と期待したく思います。
お話を聞く中でDVD/Blu-rayと前世代メディアの存在が話題に上がりましたが、今回の4K化に際して前世代メディアでの作業と大きく異なる点もあったりしたと思うのですが…?
今塚 そうですね。今回のUltra HD Blu-rayの要素として、先程もお話しましたが、HDR効果を付与する上で、これまで以上にパラゴミの除去作業に相当気を使いました。そこに関して言えばDVD/Blu-rayなどのSDR作品とは大きく異なる部分ですね。HDRは主に光の効果なので、HDRを効かせるシーンにゴミが残っている状態だとゴミも一緒に光りだしてしまいます。
また繰り返しになりますが、今回は35mmのオリジナルネガスキャンから作業を行っていることもあり、35mmで撮影された劇場作品においても変身シーンについてはTVシリーズのバンク(複数の放送回に渡って使い回すことを前提に撮影されるカット)を使用している箇所が多く、該当シーンは16mmのTV用撮影フィルムからブローアップされたものになります。その箇所についてはシーンの拡大と一緒にゴミや粒子感も拡大されているワケです。
前後の35mmのシーンと粒子感を擦り合わせる補正作業も大変でしたし、ゴミを消しても消しても消しきれない難所です。35mm素材とは質も違えば画のフォーカス感も異なるので、イコールの画質にはなりませんが、極力ゴミを消し、粒子感をなだめるといった措置を施しました。
他の作品でもままある事例ですが、「変身モノ」である仮面ライダーは特に顕著ですね。変身シーンはTVシリーズの流用としている場合が多いですからね。色味についてもブローアップ箇所は言ってしまえばコピーのコピーなので、色の再現が浅くなっています。そこをいかに繋ぎ良く色調整するのがカラーリストの力量だと思います。
あとは、作業も大詰めになると怪人との戦いのような細かいカットが急激に増えてくるので、その時の切り返しの色味の違いや、言ってしまえば天候や時間帯の違いから生じるシーンの違和感を無くすことにも注力しました。この作業が生じるのも、素材の大元となるネガにはその違いがわかってしまうほどの光や色味の情報が記録されているからなんですね。代を重ねた上映用のプリントでは意外と目立たなかったりもします。
プリントもそうですが、既存のマスターでもこういった差異はそこまで顕著に出ていません。では、ネガスキャンのマスターを使用する今回の「4KリマスターBOX」でそのままを出してしまうと、やはりシーン単位の繋がりが悪い。その箇所についてはカラー調整を丁重に行うと同時に、先程も触れたようにHDR効果を出し過ぎず、購入されたユーザーにも作品を集中して見てもらうことを前提として作業に当たりました。