PR最先端の仕様を取り込み「ティアックの音」を革新し続ける
ティアック“Reference”シリーズ、10年を超えて。開発・企画担当者に訊く音作りへのこだわり
さらなる高みを目指して。フラグシップとなる700番シリーズが登場
ーー製品開発のスパンは通常どれくらいなんですか?
村田 大体1年は掛からないくらいかな?
ーーわりとフットワーク軽くどんどん作っていく感じなんですね。
村田 そうしたいところですが、最近はわりと掛かっちゃうことも多いですね。「UD-701N」(2021年)も苦労しましたね。
ーー「UD-701N」は、USB-DACでありネットワークプレーヤーであり、Roon Ready対応機でありディスクリートDACであり、MQAにもBluetoothにも対応と、とにかくいまデジタル系で欲しい機能全部のせ、発表直後から非常に話題になりましたね。特に苦労したポイントはありますか?
吉田 それはやっぱりディスクリートDACですね。何度も試作を繰り返してとても大変でしたが、最終的にはとても完成度が高いものができて、苦労した甲斐もあったかなと思います。
村田 エソテリックでやってるからすぐできたんでしょ、おっしゃる方もいるんですけど、全然そんなことありません。結局、サイズを変えるとなると、ほとんど別物を作っている感じですよね。
ーー「UD-701N」の影に隠れがちですが、一緒に発表された「AP-701」もかなり気合いの入った製品ですよね。
村田 メーターも凝っているんですよ。ここは「AP-701」専用に日本で作ったんです。照明もかなり凝ってね、LEDの色もいろんな色で試作したりしました。
吉田 照明も結局官能的な評価なので、実際につけてみないと分からないんですよ。光の反射でどう見えるかとか、CGだけでは全然分からないので、色々作って試してみるしかありません。
ーーボタンの触り心地も重要ですよね。
村田 そうそう、触り心地の話でいうと、やっぱりトグルスイッチはReferenceシリーズの大きな特徴です。やっぱりこういう手触り感や操作してる感が、オーディオの楽しい部分ですよね。このスイッチもフィーリングの良いやつを探して、棒の長さにもこだわっています。安いやつだとなんだか感動がないんですよね。
吉田 Referenceシリーズって、どのモデルもちょっと業務用機器風なところがあるから、パッと見にはあんまり豪奢な感じに見えないんですよね。でも手に取ってくれた人が、実際に使ったときに気づいて欲しいんです。あれ、見た目より重いし、作りもいいじゃんって。
ーー買ってくれたお客さんの満足度というのはとても重要なことですよね。
吉田 ティアックのお客さんは、一回買ってくれた人は長く熱心なファンになってくれる人が多いですね。そこは、ちゃんと手間暇かけた甲斐があるのかなと思います。
インプロビゼーションのような緊張感の中でアイデアが生まれてくる
ーー製品の企画というのは、どういう流れでできていくんですか?
吉田 企画書はほぼ私が書いていますが、その前にまずは関係者で集まって、アイデアの種みたいなものを出し合ってそれを膨らませていきます。大まかに同意が得られたら、開発と相談しながら少しずつ形にします。開発も一筋縄では行かなくて、なんというか、インプロビゼーションみたいなところがあるんですよ(笑)。開発からは日々こんなんできるどう? みたいなボールが投げられてきます。それに対してぜひやってください、とか、それはいらないとか、そういうセッションの繰り返しです。だから、本当に最後の最後まで、どういう製品になるか意外と分からないところがあるんです。
村田 ちょっと危なっかしいやり方ですよね。
吉田 でも、今のところわりと功を奏しているところもあるかなと思っています。あんまりガチガチに決めても、別の所で犠牲が生まれてしまうこともあるので、そのときの最善の道を選んでいく。なので、絶対に最初に思い描いたとおりにはならないです。絶対これで行ける!って思っても、測定上の結果は良くても、音がダメだなというのもある。
村田 加藤(※エソテリックの開発・企画本部長の加藤徹也氏。エソテリックの音作りのキーマン)の鶴の一声でどんでん返しを食らったりとかね。
ーー開発チームはエソテリック、ティアックあんまり関係なく、フラットに情報交換されるのですか?
吉田 実際の開発担当は分かれていますが、ディレクションの段階ではかなり加藤にもお世話になっていますね。こういう時はこう判断するんだとか、こういうやり方があるんだ、と勉強させてもらうことがたくさんあります。音についても、基本は私や村田が判断していますが、ちょっと高次の判断を欲しい時は加藤にも聴いてもらってアイデアをもらうこともあります。すごく高い次元の人たちの感性と耳でテストされているので、そういう意味ではかなり厳しめの判断基準だと思います。
ーーティアックブランドですと、やはりサイズやコスト面での制約の厳しさもあるのではないでしょうか?
吉田 やっぱり箱が大きい方が有利な部分ってあるんですよね。でも、やっぱりこのサイズだからこそ手に取ってもらえるお客さんがいるし、このサイズだからこそ表現できるものもあると思います。何よりハイエンドはもうどんどん高くなってしまって、音がいいのは分かるけど、現実的に家に置くのが難しい部分もあります。でも、ちょこっと背伸びして揃えればそのエッセンスは感じられるし、音楽のより深い楽しみを知ってもらえると思います。私たちがやり続けてきたことで、この市場が広がって、選択肢が増えてくるならば、やはり続けていく意味があると感じますよね。
村田 これでもだいぶ高くなっちゃいましたけどね。パーツ不足も物価の値上がりもひどいものです。