高梨康治×オーディオテクニカ「ATH-R70xa」。劇伴音楽の第一人者が語る開放型モニターヘッドホンの魅力とは
全域にわたってフラットな特性と高い解像度、忠実な原音再生を特徴とするモニターヘッドホン。レコーディングスタジオや音楽スタジオといったプロの制作現場では、音を正確にモニタリング(サウンドチェック)する為に欠かせない機材だ。
モニターヘッドホンという製品ジャンルにおいて、密閉型モデル「ATH-M50x」が高いシェアを誇るオーディオテクニカ。そんな同社が開放型の新型として「ATH-R70xa」を2025年2月にリリース。空気の流れをコントロールし、振動板の動きだけで原音再生を行う開放型の極限を突き詰めた“トゥルーオープンエアー(真の開放型)オーディオ” を体現。サウンドのモニタリングという観点で、これまでに無い優れた開放感を提供する。

驚くべき開放感と解像力。「ATH-R70xa」「ATH-R50x」に見るオーディオテクニカのこだわりを紐解く
オーディオテクニカから、プロフェッショナル向けの開放型モニターヘッドホン「ATH-R70xa」と「ATH-R50x」がリリースされた。開発者インタビューで得られたエンジニアの熱い想いとともに、実機レビューをお届けしよう。
2025/02/06
上記記事にて語られる開発者のコメントに明るいが、音質もさることながら、制作の現場で長く使い続けることを想定し装着感にもこだわったATH-R70xa。本稿では『NARUTO -ナルト- 疾風伝』『FAIRY TAIL』『プリキュアシリーズ』など、世界に多くのファンを擁するシリーズ作品の劇伴音楽を手掛ける作曲家・高梨康治(たかなしやすはる)氏に使用感をインタビュー。
本モデルを1か月間楽曲制作で使用したプロフェッショナルに、そのインプレッションを語っていただいた。

モニターヘッドホンのみで制作作業を完結できるポテンシャルの高さを絶賛

───ATH-R70xaのお話を伺う前に、普段お仕事でどのようにモニターヘッドホンを使用されているか教えてください。
高梨康治氏(以下、高梨):スタジオでは備えられたスピーカーの音をメインに作業に取り組んでいて、ブース内での収録などでモニターとしてヘッドホンを使用しています。また、音を鳴らしづらくなる深夜などの作業でもヘッドホンを使用しています。スタジオに備え付けのヘッドホンを自宅にも持ち出して使っているので、そこまで色々な物を試せていなかったというのが正直なところです。
今回の取材に臨むに当たって、直前まで着手していた作品はATH-R70xaをモニターヘッドホンとして取り組んでみました。スタジオ常駐のモニターヘッドホンとは良い意味で「全然違う」という印象を受けましたし、先に結果からお話しますと、これまでレコーディング制作してきた作品と遜色のないクオリティのモニタリングでストレスなく活躍してくれました。

───制作した楽曲が、スマートフォン、テレビ、イヤホンなど様々なデバイスを通してユーザーの耳に届けられますが、そういった中で「音をモニタリングする」ことの重要さを教えてください。
高梨:制作作業の段階ではしっかりとしたスタジオのモニタースピーカーで聴いて、「自分の中のイメージと遜色なく鳴らせているか」というのを確かめます。ただ、ご指摘されているとおり劇伴の場合だと公開されるフォーマット、TVアニメであればテレビのスピーカー、映画作品であれば劇場で聴いたときの響きなども意識しますね。
最近では配信サービスを介して「スマートフォンとイヤホン」という組み合わせで作品に触れるという方も少なくないので、制作した作品の「音の出口」としてそこは意識したいところです。その一方で特定の音の出口を意識すると、それに応じて音を変えていく必要があります。
なので、想定し得る「音の出口」に対しての基準を固めることが何よりも重要です。そういった意味では音のモニタリングという工程、ひいてはモニタリングで使用する機材は作品を製品として送り出す際に非常に重要なポジションになってきます。
───モニターヘッドホンには、どういった要素を重要視しますか?
高梨:ボクらのように音で仕事している人間にとって、「音の聴こえ」を第一に重視したいですね。
先ほど「そこまで色々な物を試せていなかった」と話したように、これまでスタジオのモニターヘッドホンと「何か」を比較することもなかったのですが、取材を通してATH-R70xaを使ってみると、良い意味で音に変な癖が無いことにたいへん驚かされました。
モニターヘッドホンといっても、モニタースピーカーと比較すると低域や高域に主張をやや感じる機材もあるというのがボクの考えです。ヘッドホンで聴いているときのバランスと、スピーカーで聴いているときのバランスが乖離するということもあったりします。ヘッドホンを使って作業している際に低音がいい感じに出ていたのに、スピーカーで最終チェックすると同じように鳴らせていなかったということはありがちでした。

そういう意味ではATH-R70xaはヘッドホンの癖が無く、素直で自然体な音を鳴らしてくれるという印象です。スピーカーで音を鳴らした時とのギャップがものすごく少ないですね。
ヘッドホンミックスをされている方には伝わると思いますけど、ヘッドホンでミックスしていると低音が物凄くよく聴こえる。けど、スピーカーで聴くと低音が細くなっているみたいなことがあります。ATH-R70xaをミックスで使用したらスピーカーチェックの段階でもヘッドホンで取ったバランスと近い。ヘッドホンミックスでもモニターバランスが取れるのは、非常に素晴らしいですね。
───今回の取材までに担当されていた楽曲制作でATH-R70xaを使っていただいたとのことですが、どういった工程で使用されましたか?
高梨:一番出番が多かったのがレコーディングの一個手前、曲を書いている段階ですね。長時間着けて作業していても全く疲れないのは驚きましたね。楽曲の制作作業はだいたい1曲だけでは無く作品単位なので、結構深い時間までに及んだり、創作中にテンションが上がって時間を忘れて作業に没頭するといったこともザラなので(笑)。
耳元で音を鳴らすヘッドホンを使っている時に感じる、「耳の疲労感」が無いのも優れていますね。ヘッドホンを装着しての作業って、細かい音を追うのと、モチベーションの高まりに応じて音量が上がってくるという「同業者あるある」があるんですけども、ATH-R70xaを着けていると音量を上げていってもボクは疲れることがなかったです。
装着感は当然のことながら、音のキツさも無いので、そういう意味ではATH-R70xaは文字通り「着けていることを忘れる」機材ですね。
チームのエンジニアや、アシスタントにもノイズチェックなどの工程でATH-R70xaを使ってもらいましたが、口を揃えて高い再生能力と装着感を絶賛してくれました。
「クリアに細部の音を聴けるのは、仕事で使う道具として非常に頼もしい」
───ATH-R70xaのサウンドはヘッドホンの癖が無いと評されていましたが、さらに詳しく音の印象を伺いたいです。
高梨:ひとえに「素直な音」ですよね。ボクらが作品を作るうえで癖なく純粋なバランスを取れるというのは、仕事で使う機材として一番のアドバンテージです。

シンセのサウンドについても一定の音を鳴らすと出る歪みも凄く聴き取りやすかったですね。制作のうえで音圧を上げていくと歪みが何処で発生したか分かりづらいというシチュエーションもあるのですが、ATH-R70xaは素直に細部の音を鳴らしてくれるのでチェックの際も非常に有用でした。
我々クリエイターがそれぞれの耳でサウンドを追求していく中で、クリアに細部の音を聴けるのは、仕事で使う道具として非常に頼もしいです。フラットを追求した音の鳴らし方についてはヘッドホンの技術設計者の方が苦心した部分だと思います。作られた方は本当に凄いですね。感動します!(笑)。
───本モデルはハウジング後面をメッシュ構造にするなど、ドライバーから放たれる音(振動)をダイレクトに届ける「開放型」のヘッドホンは、普段使用されている機材とどのように聴こえ方が違いましたか?
高梨:並べて聴いたわけではないですけど、1か月間自宅で曲を書いている間にATH-R70xaを使ってみたところ、普段の密閉型で感じていたイヤーカップ内の音の籠もりや、装着時の圧迫感というのが「ストレスだったんだな」と気付かされたことにハッとしました。開放型という作りだからこそだと思いますし、先ほどお話しした「耳の疲労感が無い」という部分にもリンクする点ですね。
制作作業でヘッドホンを長時間着けていて、知らずにエネルギーを削られていた部分があったとするなら、「もし」の話ですけど、これまでの作品でもATH-R70xaを使っていれば知らずに抱え込んでしまっていた作業の負担や、ストレスを軽減出来たと思います。
聴こえの部分では、密閉型だと後段のスピーカーチェックで気付く「イヤーカップの中で埋もれる音」があるんですけど、開放型モデルのATH-R70xaは言わば「残響の隅まで聴こえるヘッドホン」ですね。リバーブが減衰していくところをキチンと聴き取れます。先程も触れたように、最終的にスピーカーでチェックするところの音に限りなく近かったです。
今回ATH-R70xaを使ってみて、サウンドの写実性の高さ、原音再生に注力していることが伝わりました。本モデルには、こだわり抜いている作品をクリエイターの意図するままに届けてくれる能力がありますね。
リスニング用途で使えば原音に近しい“意図したサウンド”を楽しめる
───作業における使い勝手の面や、装着感などで優れていたところを教えてください。
高梨:細かなところですけど、ケーブルが着脱式で両出しになっているのは良いですね。音質面だと、片出しと違って左右が等しくなるので左右差が無くて良いです。そして移動の際にもとても便利ですね。
パッドの装着感や、ヘッドバンドアジャスターの間隔もベストですし、バンド自体も柔らかいうよりも「硬すぎず」という感じでしょうか。柔らかすぎるとフィット感が薄れますし、かといってハードに押さえつけられると圧迫感で長時間着けていられないので、本当に絶妙な調整だと思います。ヘッドバンドの側圧も絶妙ですし、イヤーパッドの柔らかさも使っていて非常に快適でした。集中力を要する長時間の作業を想定して作られていることがよくわかりますね。
あと、ヘッドパッドの取り替えが簡単そうなのも嬉しい! モニターヘッドホンは、音の基準をチェックするということからで必然的に長く使うことが求められます。そうなっていくとイヤーパッドや、ヘッドパッドがボロボロになっていきますよね。イヤーパッドは大半のモデルで交換できますけど、ヘッドパッドが簡単に交換できるのは珍しいですよね? これめちゃくちゃ良いと思います。


長く使うといった側面でのメンテナンス性もそうですけど、単純に見た目がボロくなってくると悲しいので(笑)。
これまで比較してこなかったからこそ、「新しいモニターヘッドホンの良さ」に感動していますが、1点注文をつけるならL/Rの表記はもう少し大きいとさらに使いやすくなりそうでした。といっても、ネガティブな部分を頑張って探してもこれくらいですね。とても使い勝手に優れたモデルですよ。
───最後に、モニターヘッドホンであるATH-R70xaで音楽リスニングする場合、どのようなところに着目すると、モニターヘッドホンならではの恩恵が得られると思います?
高梨:ATH-R70xaは細やかな部分を拾ってくれる再生能力があります。前提としてその聴こえや、比べる機材も人それぞれだとは思いますが、色付けなしにフラットに鳴らしてくれる。原音に近しい音が聴こえてくるのではないかと思います。
ちょっとまだタイトルは言えないのですが、取材にあたってATH-R70xaを使って制作した楽曲を同じヘッドホンで聴いてもらえば「ボクが意図したサウンド」をそのまま楽しんでもらえるんじゃないかなと。既に着手している次の作品の制作でも、ATH-R70xaを使わせてもらっています。
音響面はもちろんのこと、長く使い続けるうえでプロの要求に応えるモデルとして本当に惚れ込みました! 周りのクリエイターにも薦めたい完成度です!
───この度はありがとうございました!
(提供:オーディオテクニカ)