今回から音の出口=スピーカー編です。ひと口にスピーカーシステムといっても、そのかたちはさまざま。上の図でご覧のように、多種多様なスピーカーたちが個性を競いあっているのです。主流はブックシェルフとトールボーイでしょう。でもそれはエンクロージャーの基本のスタイルであって、そのデザインや使われている素材、加工方法、ユニット構成が異なれば、まったく違うサウンドになるのです。「好みの音はスピーカーで決まる」といわれる所以ですね。
小さくてチャーミングなものから、ずらっとユニットを並べたタイプ。そして大型のホーンスピーカーに衝立のようなフラットタイプや、大胆な曲面をもつ斬新なデザインのもの。ユニットがむき出しになったようなスケルトンタイプだってあります。さらに陶器や卵型、ツボ型スピーカーも……。
ここまでくると単に音を出すための装置ではなく、芸術品のようですが、肝心なことは、ただ「色々あっておもしろい!」というだけではなく、このかたちが理想のサウンドを求めた結果であるということ。開発者の情熱と工夫によって、生み出された形なのです。
かつてスピーカーといえは四角いハコと相場が決まっていました。でもそれでは気流の乱れなどで音を悪くすると、角を丸めたラウンド形状が主流になった。最近はさらに進化して大胆なラウンド化や、多面体や球体スピーカーまで登場していますね。こうした変化も、プレス、切削、成型などさまざなま加工技術の進歩なしにはできっこありせん。キャビネットの素材も、ウッドから樹脂、アルミなどの金属まで多種多様なのです。スピーカーユニットの方も、伝統的な紙(パルプコーン)から、金属、樹脂、繊維、セラミックスなど、こちらも負けじと進化していますね。
■スピーカーは好きな音楽ジャンルで選ぼう
多彩な顔ぶれの揃うスピーカーから「この1本」に絞るのは大変ですが、それだけに選びがいもあるというもの。ひとつの目安として、クラシック、ジャズなど好みの音楽ジャンルで選ぶのもよいでしょう。
クラシック向きというのは、ヨーロッパのスピーカーなどに代表される、みずみずしい繊細ををもった潤い系のサウンドです。ハーモニーや余韻、音場感がきれいに聴こえることが何よりも求められますね。ジャズはほぼ反対です。パンチ力があって音がガンガン前に出る。例えばホーンタイプのスピーカーに代表される、エネルギッシュなサウンドがぴったりでしょう。
現在は個性を前面に押し出すというよりも、クセがなくニュートラルでハイスピードな音づくりを目指している時代と言われていますが、それでもメーカーや各モデルによって得手不得手はあるものです。それを見つけて、どううまく向き合うのかが大切です。
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スピーカーシステムの分類
ではここでどんなタイプのスピーカーシステムがあるのか整理してみましょう。
スピーカーは、エンクロージャーの形式とユニット構成のふたつから大別できます。エンクロージャーは箱で、スピーカーボックスのこと。次回で解説しますが、密閉型とポートをもったバスレフ型がメインです。そのほかにホーンロード型や平面型などの変わりダネもあります。
一方ユニット構成とは、何本のスピーカーユニットを用いるかです。単純なのはフルレンジ1発のシングルスピーカー。しかしそれではレンジ(音の帯域)が稼げないからと、2ウェイ、3ウェイ、4ウェイなどのマルチウェイスピーカーも多く登場しています。スピーカーのタイプを言うときは、「バスレフの2ウェイ」とか「密閉式の3ウェイ」とか呼ぶのは、こういった意味があったのです。
■スピーカーのしくみ
では箱の中はどうなっているのでしょう。図のカットモデルを見て下さい。
これはバスレフの3ウェイの例です。下にあるポートが空気を通すバスレフ孔です。3ウェイですから、ユニットは高音用、中音用、そして低音用の3本が装着されていますね。それぞれトゥイーター、スコーカー、ウーファーとも呼びます。ユニットが固定されている板がバッフルです。実際は中に補強のための桟(さん)が入っていたり、ウーファーの音圧の影響を受けないためにスコーカーやトゥイーターにはカバーを被せたりしています。また音質調整のため、グラスウールなどの吸音材も入っています。
内部の配線やネットワークに注目してみましょう。音の帯域を振り分けるのがネットワークで、2ウェイ以上のシステムには必ず入っています。スピーカー端子はアンプからの電気信号の入り口です。増幅された音楽信号がスピーカーを鳴らすわけです。普通は+/−の1組でよいのですが、最近はさらにH(高音用)とL(低音用)を別々にして2組のターミナルをもつバイワイヤー対応が多くなっています。
■スピーカーから音が出る仕組み
ラッパは吹けば鳴りますね。バイオリンは弓でこすります。ピアノは鍵盤をたたく。これが楽器の音を生み出すのですが、スピーカーはどうやって音が出るのでしょうか。
スピーカーは楽器ではありません。入力された音声信号(電気信号)を忠実に音として再現するトランスデューサー(変換器)なのです。
その発音原理によっていくつかのタイプがあるのですが、ここでは最もポピュラーなダイナミック・コーンスピーカーの仕組みを解説します。これは理屈っぽくいうと、「電磁力で動くコーンタイプのスピーカー」のこと。
電磁力とはマグネット(磁石)と、コイルの中を流れる電流との間に生まれる力を利用したもの。ドーム型やホーン型スピーカーも基本の仕組みは同じですね。
上の図を見て下さい。これがスピーカーの断面でNSのマグネットとボイスコイル、そしてコーンと呼ぶ振動板の3つで構成されていますね。コーンを前後にゆさぶって、空気をふるわせるにはその元になる駆動力が必要です。その力を生み出すのが電磁力というわけです。
マグネットは中心のNから外側のSへと磁力線が流れています、その狭い隙間(ギャップ)にボイスコイルを吊し、そこに音声信号を流すわけです。音声信号は+/−に変化する交流。でも話を簡単にするために、電池(直流)で実験しましょう。
電池を(a)の方向、次に(b)の方向にすれば、ボイスコイルに流れる電流の方向は逆になりますね。
左の大きな図は(a)の場合を示しているのですが、この様子をコイルの断面でみたのが、◎と×です。ちょうど弓矢を見ている感じで、×マークは奥から手前に向かっていることをあらわし、◎マークは手前から奥へという意味です。そこで右側の赤く囲った部分に注目。左手の3指を広げ、磁界のNSと電流の向きに対応させる有名な「フレミングの左手の法則」に当てはめると!親指が上を向きますね。そう、ボイスコイルには上向きの力が起きたのです(ここでもし電流を流すのをやめたら力はゼロ。磁石だけでは電磁力は起きない)。
では電池の+/−を反対にした(b)はどうかというと、電流そのものが逆向きなので、フレミングの力も下向きに発生しますね。この(a)(b)(a)(b)……を素早くくり返すことで、ボイスコイルも前後に激しくピストン運動をする。このままでは音にならないので、コーンと一体化(接着)することで、大きな面積で空気をゆさぶり、音楽が楽しめるという仕組みです。
この基本がわかれば、ひきつづきエンクロージャーや各ユニットの特徴、ネットワークの役目、さらにスピーカーのつなぎ方やセッティング方法なども、すんなり理解してもらえるはずです。では次回は、エンクロージャーについて解説していきましょう。
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