かつては生録といえば、アナログの大型テープデッキやカセットレコーダーが活躍したものですが、いまは違います。デジタルで驚くほど高音質かつ高機能に録音することのできるPCMレコーダーが、2〜5万円という手頃な価格で誰でも手に入る時代。さあアウトドアでのハンティングやコンサート録りにでかけましょう。
■生録に必要な機材や録音の手順って?
まず生録に必要な機材には何があるかを見てみましょう。PCMレコーダーはもちろん必要ですよね!それに、野鳥やせせらぎの音、SLなどを録音するフィールドレコーディングのときには、風音を防ぐ「ウィンドスクリーン」が欠かせません。ちょっとした風の具合でボコボコというノイズになってしまうので、これがないと屋外での良い録音なんてできませんよ。もうひとつ録音時のモニタリングをするためのヘッドホン。この3つが「生録3種の神器」と呼ばれるものです。
マイクはPCMレコーダーに内蔵されていますから心配ありませんが、ほかにも外部マイクとして音の良いものや、狙った音を鋭く捉えるガンマイク(狭指向性マイク)などといった外付けマイクを、シチュエーションによって追加しましょう。
そのほか録音機を固定する三脚(スタンド)や、予備のバッテリー、メモリーカードなども必須ですよ。PCMレコーダーは内蔵のフラッシュメモリーに録音するもの、SDカードなどのメモリーカードに記録するもの、両方使えるものなどありますが、いずれにしても余裕のある準備がポイントなのです。
■生録の流れ
ここでざっくりと、生録の作業の流れをみておきましょう。
(1)録音機材の用意ができたら録音場所や環境などのロケーションを決め、音源に対してベストな位置にレコーダー(もしくは外付けマイク)をセットします。ちょっとした録音なら手持ちでOKなのですが、カサカサというタッチノイスを避けるためにも、ここは三脚などにセットしたいところ。
(2)さて録音……ではなくて、まだ準備が必要ですよ!録音レベルの設定と、それをモニタリングするヘッドホンの音量も最適に設定しましょう。例えばバードウオッチであれば、小さなさえずえりをとらえ、録音スタートの機会を伺いつつRECポーズで徐々にボリュームをあげて、メーターが振り切れない最適レベルにセットしてチャンスを待ちます。
(3)録音は、PCMレコーダーに命(音の魂)が注ぎ込まれる時間帯です。作業としてはRECポーズの解除でOK。録音中も気を緩めることなくしっかりとヘッドホンから聞こえる音に集中したいものです。
(4)こうして録音された音源はPCMレコーダーの機能をフルに活用し、不要な箇所をカットするなどの編集作業を経て、パソコンなどに大切にアーカイブしましょう。
■ZOOMのH4nを使って生録にチャレンジ!
では実機を使っての生録体験です。ここでは楽器メーカーのZOOMから発売された最新モデルの「H4n」を取り上げます。やや大きめのボディ。でもフィット感がとてもよく、クロスさせた内蔵のXYステレオマイクが目につきます。
内蔵のステレオマイクにもいくつかの方式があります。ポピュラーなのが左右のマイクを外側に向けたAB方式とこのXY方式。それぞれに特徴がありますね。XY方式の良さは、2本マイクが一点でクロスするために、定位のふらつきがなく位相差の影響がないこと。左右の正確な広がりとともにモノラル音声互換性がしっかりと保たれているのです。
マイクを外側に向けるAB方式では、マイクまでの音の到達時間にLとRとで微妙な差があります。XY方式であれば、タイムラグ(位相差)のない正確なステレオイメージが再現されるわけです。
「H4n」は更に外部マイク(ステレオL/R)用の入力端子も備えているのですが、ユニークなのは、これを発展させた4チャンネル同時録音や、4トラックMTRというボーカルやギターなど複数の楽器をトラック別に録音できる4トラックモードを搭載していることでしょう。
通常はステレオ2チャンネルの録音や再生時のレベルを表示するモニター画面には、4トラック分の情報が表示されます。これは仲間と楽器演奏を楽しむような人であれば、ぜひ欲しかった機能でしょう。
録音フォーマットでは非圧縮のWAVとMP3フォーマットを用意。鮮度よく高音質で録音するなら、WAVのリニアPCM44.1kHz/16ビット〜48kHz/24ビットなどを選びましょう。PM3は会議などのメモ録用です。
★フィールドレコーディングの楽しみ
野外で音のハンティングをする前に、自宅でレコーダーの基本的な操作や録音の練習をしておきましょう。RECボタンを押すと赤く点滅してRECポーズ。もう一度押すと本番の録音がスタートしますから、自分の声や生活音などを録ってみます。再生してみると、きっとクリアな音に嬉しくなるでしょう。
フィールドレコーディングと言っても、近くの公園や雑踏の音録りから始めてもよいのです。帰って再生してみると、そのときは気がつかなかったような色々な音が収録されていますよ。遠くの音もきれいに入るという感覚もつかめるでしょうし、ちょっとした風でもボソボソというノイズになってしまうこともわかりますね。
本格的に野鳥やSLなどを収録する場合も、難しく考えないでとにかく録ってみることです。基本は近づいて正面から狙うこと。きちんとスタンドにセットし、音源の方向をしっかり見定めて録音を開始します。
実際はマイクの指向性はある程度広いので、多少向きが違っていても、周囲の音まで拾ってくれますよ。手持ちの場合はしっかり動かないようにし、マイクに触れてはいけません。
★楽器演奏を録ろう
生録のダイゴ味は、音楽などのライブ録音あります。アマチュア仲間でピアノやギター、合唱やブラスバンドなどの練習や発表会(コンサート)を録って欲しいと頼まれるならしめたもの。絶好の腕だめしですね。
演奏の場合は、野鳥などの自然音よりも音が大きいので、オーバーレベルにならないように注意します。リハなどのときに、メーターを見ながらヘッドホンでもモニターをして、録音レベルを調整しましょう。
ここでは楽器別の録音テクニックまでは解説しませんが、正面から狙うという基本はいっしょです。ボーカルでは少し下からねらうと、吹かれノイズやブレスの音が軽減できますよ。コーラスは空間全体を録るような感じが良く、ピアノでは距離の加減で明るさとまろやかさが加減できるとなどを、経験をつみながら体で覚えるとよいでしょう。
生録は楽しい!身近な音源をさがして積極的にチャレンシして欲しいものです。
次回はいよいよ連載の最終回。新旧織り交ぜたオーディオ全体について語りたいと思います。
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