■「MM」と「MC」の違いって?
アナログ編の第3回は、音の入口「カートリッジ」がテーマです。微細な針先で音溝のうねりを拾う仕組みは、CDのレーザーピックアップとはひと味違う、人のぬくもりのようなものを感じますね。
まずカートリッジは「小さな発電機」、と覚えましょう。針先がとらえるのはレコードに刻まれた機械振動ですから、これを何らかの手段で電気信号の大小に変えなければなりなりません。それがカートリッジの中に組み込まれた発電機構なのです。そして発電方式の違いによって、MM型カートリッジとMC型カートリッジとに大別でますね。ほかにもIM型などがありますが、ここでは主流のMMとMCの違いを見ていきましょう。
以前スピーカーのところでも学びましたが、磁界と電流、そして力(運動)の方向にはフレミングの法則というのがありましたね。最後に発電するところはスピーカーとは逆の動作(スピーカーは最後に音を出す)なのですが、カートリッジの場合も基本的に電磁作用ですから、マグネット(磁石)やコイルが主要パーツとして組み込まれているのです。
といっても、ほんの小さなもので、断面図で示すと図のようになっていますよ。針先(スタイラス)の振動はまずカンチレバーという細いパイプに伝えられるのですが、その後方に付いているのがマグネットなのか、それともコイルなのかによって、MM型かMC型かに分かれます。
磁石が動けばMM型、コイルが動けばMC型というわけで、なるほどムービング・マグネット(MM)とムービング・コイル(MC)という違いも理解できますね。もちろん何もないところで動いても発電はできないので、それぞれに工夫があります。
MM型の場合は、ポールピース(磁気回路)の一部がギャップになっていて、そこに針先、カンチレバー、マグネットで構成される振動部があるのが特徴。ポールピースには電気を取り出すためのコイルが巻いてありますね。コイルは動きません。動くのはマグネットの方です。そこで針先の振動、すなわちマグネットの振動によってポールピースの磁束を変化させ、コイルから出力電圧を取り出す仕組みです。
MC型はどうでしょう。こちらは振動系がマグネットからコイルに変わっていますね。ポールピースには強い磁力をもつ大きなマグネットが固定され、そこからギャップにN/Sの磁束が送られるのです。ギャップに配置されたコイルが振動することで、そこに起電力が生じ、そのまま出力するのがMC型の仕組み。なあんだ、どっちだって同じじゃないか。と考えがちなのですが、さにあらず!
構造的にシンプルなのはMM型です。出力が高く、3mV以上あるのでそのままアンプのフォノ入力にインプットできるのです。針交換も簡単で、すっと抜いて市販の交換針をさしこむだけ。入門クラス向きのカートリッジといえるでしょう。
一方、MC型は狭いところに精密に巻いたコイルを配置するため、すこし構造は複雑になりますし、高い精度が求められます。振動系が軽いですし、強くて大きな磁石を用いることができるのでレスポンスがよく周波数レンジもワイドです。中〜高級品クラスが主体となっています。
そんなMC型にも扱いづらさがあります。ひとつはコイルのターン数(巻数)を増やせないため、出力が低いこと。その出力はMM型の1/10、0.1〜0.3mVくらいです。一部には高出力タイプのMC型もあるのですが、あくまで一部に限られます。そして、低い出力をカバーすべく、MC型の場合には「昇圧トランス」または「ヘッドアンプ」というものが必要です(つまり、それだけ出費がかさんでしまいます)。
もうひとつは、MMのように針交換を自分ではできないこと。手持ちのカートリッジを店に預け、メーカーにて新しいものと換えてもらいます。
それでもMC型のファンが多いのは、ひとえに音のよさにあるのです。メーカーや機種数の多さも断然MC型ですね。
■レコード針の材質と形状
さて、手持ちのカートリッジを見てみましょう。外観からはMM、MCの区別はほとんどつきませんし、ヘッドシェルに4本のリードで取りつけることや、ユニバーサルタイプのアームに装着できることなど、共通点の方が多いのです。下の方に突き出しているのがカンチレバーと針先。針はほとんどがダイヤです。もちろん工業用の人造ダイヤで、硬度の高さは折り紙付きですね。以前みられたサファイヤ針はすり減りやすいので、現在は用いません。
興味深いのが針先の形状でしょう。標準の丸針(デノンのDL-103が代表)のほか、それを細長くした楕円針、さらに超楕円形状にしてラインコンタクト(線接触)に近づけたものなど、何タイプかに分かれます。
カタログに「ラインコンタクト針5×120μm」などとあれば、相当な超楕円針とみてよいでしょう。超楕円針になるほど針先が鋭く、そして音溝との接触面積が大きくなるため、トレース能力がアップしますよ。
ちなみにカンチレバーはアルミなどの金属パイプが多いのですが、ボロンなどハイテク素材を用いた高級モデルもありますよ。共振なく針先の振動を伝えるために、さまざまな工夫がされているのです。
■昇圧トランスとヘッドアンプの役割
先ほどMC型は低出力だといいました。それをカバーするのが「昇圧トランス」や「ヘッドアンプ」です。
MCカートリッジ専用なので「MCトランス」とか「MCヘッドアンプ」とも呼ばれます。このふたつの違いは、1/10の電圧アップを、どんな素子や方法で行うかです。
主流はトランス(変圧器)の巻き線比を利用する昇圧トランス(1対10なら10倍にアップできる)で、仕組みがシンプルなだけに、コアや巻線の素材のよしあしがダイレクトに音に現れます。LとRふたつのトランスが剥き出しになったもの、カバーをかぶっものなどデザインもいろいろ。
ヘッドアンプは、文字通りトランジスタなの増幅素子を用いて電子的に入力信号をアップします。そのために必ず電源部を持ち電源ケーブルが付いているので、ひと目でトランスとの違いがわかりますね。
サウンドは昇圧トランスがぐっと力強く、ヘッドアンプはワイドレンジでフラットな傾向とよく言われますが、実は長所・短所がまた対照的なのです。
昇圧トランスは電源部を持たないためにノイズに強く、安定度も優秀。ただし帯域はややカマボコ型となります。かたやヘッドアンプの方はレンジがのばせるけれども、電源まわりのノイズ対策が難しくなります。ただこういった点はメーカーがほぼクリアしてくれていますから、音の好みで選んで大丈夫でしょう。
■フォノイコライザーの構成と使い方
入門者には、アナログ再生に欠かせないフォノイコライザーと、これらの昇圧アイテムとの関係が少しわかりづらいのではないでしょうか?信号の流れにそって整理してみましょう。
前回学んだように、フォノイコライザーは飽くまでレコードのRIAAカーブを「ロー上げハイ下げ」の補正カーブで元どおりにフラット化するための回路。もし手持ちのカートリッジが出力の高いMM型だったら、その、ままフォノイコライザーに「MM入力」としてインプットできるのです。
ところがひと桁ゲインの低いMC型の場合、そうはいきません。音量が小さ過ぎるので、「フラットな特性をもったまま、ゲインだけ10倍に引き上げる」昇圧アイテムの助けを借りるわけです。
実際の製品は、プリメインアンプの中にフォノイコや昇圧アイテムまで収めた一体型や、フォノなしのプリメイン(ラインアンプ)と組むために、単体のフォノイコも用意されていますよ。さらにフォノイコも、製品によってMM入力だけのものや、昇圧トランスを内蔵したMC対応のモデルがあり、前者なら別途単体の昇圧トランス(またはヘッドアンプ)が必要。というように組合せはいくつかのタイプに分かれます。
図は最近多いフォノなしプリメインで、アナログ(MMとMC)を聴くための例を示しています。一見複雑そうですが、それぞれどれの役目と使い方がわかれば、すっきりと整理できるはずですね。
次回はアナログの最終回で、プレーヤーの選び方や置き方、つなぎかた。トーンアームの針圧調整など、実践的な講義でしめくくりましょう。
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