■エンクロージャーの役目は低音の正しい再生だ
エンクロージャーとはスピーカーユニットを収納する箱のこと。キャビネットとも言います。なぜユニットを収納するかについては、デザインや機能的な面もありますが、もっと本質的な理由があるのです。
スピーカーユニットを箱から外した裸の状態で鳴らせば一聴瞭然。ジャズもクラシックもあれほど豊かな低音が響いてたのに、「どこへ消えたか!」というほど低音が出ません。そこで、もう一度箱に取りつけると……。水を得た魚のように、朗々とした低音が復活する。そう、エンクロージャーは本来の低音を出すための仕掛けだったのです。
これを説明したのが上の図の(A)です。ユニットは前回学んだダイナミックコーン型だと思ってください。ウーファーを例にするとよいでしょう。本来は低音再生が得意のはずのウーファーでも、ユニット単体ではまったくその性能を発揮できません。その理由は、コーンの前面と後面とでは出る音の位相(向き)が反対になっているから。そのために+/−で打ち消されてしまうのです。つまりコーンが前に動いて空気を押しても、背面側の空気圧が下がり、互いにキャンセルするのです。しかもこのキャンセル効果は波長の長い低音ほど強く現れ、再生しにくくなるのです。
次に、(B)のように広い板に取りつけてみましょう。かなり低音が出始め、ベースがブンブン響いてきます。これは前後の空気の移動をバッフル板が遮っているからです。しかし周囲からやはり音の移動が発生するため、十分ではありません。どこまでも続く無限大バッフルが理想ですが、これは実用にはなりませんよね。そこで、バッフル板を壁のように大きくした平面バッフルができました。
次に考えられたのが、バッフルを後ろに折りまげるというアイディアです。これが(C)の後面開放型で、小さい面積のバッフル板でも、平面バッフルに近い効果が得られます。またユニットの背面がオープンになっていることから、開放的で自然な音がすると好むユーザーもいるのです。昔のユニットにはこのタイプのエンクロージャーとマッチングがよいものが多くみられました。
ここまでくれば、次はどうなるかおわかりでしょう。どうせならユニットをリアまで全部覆って完全に閉じ込めたらどうか。これなら空気の出入りもなく安心、と考えたこと。これが密閉型エンクロージャーのはじまりです(D)。
■エンクロージャーの方式 〜主流は密閉とバスレフ式、そのほかにも色々ある
では実際どんなエンクロージャーの方式があるのでしょうか。図にまとめてみました。
主力は何といっても密閉とバスレフ方式です。低音のコントロールの仕方によって、空気を閉じ込めてしまうのか、それともポート(ダクト)というパイプ穴を設けて、そこから空気を出入りさせるのかに分けられるのです。「せっかく密閉にしたのにまた穴を開けるのはなぜ?」という疑問には、のちほどお答えしましょう。
その他にはバスレフ式から発展したドロンコーン方式、キャビネットをホーン状にしたホーンタイプがあります。また、この図にはありませんが、コンデンサ型スピーカなどの平面ユニットを用いた平面方式などもあります。
ドロンコーンのドロンは怠け者という意味です。パッシブラジエーターとも呼びますが、これはポートの替わりにウーファとソックリで磁石やボイスコイルを省いたユニット(つまりコーンだけ)を装着し、低音を増強させるというタイプです。JBLの名機「オリンパス」にはこの手法が用いられています。
ホーン型のエンクロージャーには、フロント・ロード・ホーンとバック・ロード・ホーンとがあります。ユニットの前と後ろのどちら側にホーンを設けるかの違いですが、どちらも元々はコンサートなどのPAや業務用で用いられた方式で、音の能率がぐっと高くなるのが特徴です。両手でメガホンがわりに音を集めると、音の拡散が防がれるため、音量が上がって遠くまで届きますね。実際はスロート(のど元)からホーンの開口部まで、ある曲線で徐々に開いていくように設計されています。それによってより大きな面積の空気を揺するわけです。
ここで密閉型とバスレフ型の違いをまとめましょう。
密閉型では閉じ込められた空気がバネの作用をして、スピーカーの動きをコントロールします。このためタイトでダンピングのいい、締まった低音が得やすいのが特徴です。低音特性のカーブを見ると、密閉型ではダラ下がりになりながらもかなり低い方まで伸びている。自然な低音であることがわかります。
ただ、密閉で十分な低音を得るには大きな容積を必要とします。これをカバーするのがポートを設けたバスレフ型、位相反転式とよばれるタイプです。同じ低音(たとえば50Hz)を出すにも、バスレフ型なら60%のサイズでOK。同容積だったら、×0.6倍まで低音を伸ばすことができるのです。
バスレフ型の特性を表したのが図のカーブです。ダラ下がりの密閉型に比べ、もう一息のびてからストンと落ちるのがバスレフ型の特徴です。音の感じはシマりよりはノビと量感。ドラムやベースや低音がぐんとリッチになり、サイズ感が出てきます。ただこれは一般的な傾向ですから、上手に設計されたスピーカーであれば、どちらの方式も良質な低音が得られます。
■バスレフ方式の仕組み 〜どうしてポート(ダクト)で低音の増強ができるのか
ポート(ダクト)は筒になっていて、その面積と長さで共鳴するポイント(周波数)をコントロールできます。その場所によってフロントダクトやリアダクト、あるいは底面にポートの出口を設けたタイプなど様々です。ではなぜポートで低音の増強ができるのでしょうか?
ざっくりといえば、エンクロージャー内の空気バネの強さとポート内の空気の質量(重さ)によって共鳴がおこるからです。ポート内は空気の塊とみてよく、これがユニットの背圧によって激しく出入りします。その際の方向(位相)は、共振点(
0:エフゼロ)を境に反転することから、バスレフ(バス・レフレックス)型は「位相反転型」とも呼ばれるのです。
位相反転の仕組みは難しいのですが、一種の逆振動と思えばよいでしょう。バスレフはこの2ヵ所の空気がもつバネ性が特定振動(周波数)でうまく釣り合うように設計されています。エンクロージャー内で繰り返し与えられる圧縮と膨脹。これには実はおもしろい性質があります。共振点においては、ポート内の空気はエンクロージャー内の空気が圧縮されたときに膨脹するのです。この逆振動のために、ユニットからの直接音とポートからの音(低音)が反転するわけですね。
反転とは音の波形が180度ひっくりかえることで、これによって低音が増強されるバスレフ効果が生み出されるのです。オーディオの本などに書いてある、「
0よりも上では同相になるために互いが強めあい、
0よりも下では逆位相となって打ち消しあう」とは、このことだったのです。上の図では、ユニットの直接音とダクトからの低音(
0にピークがあります)を合成した特性を示しています。
今回はかなり詳しい内容でしたが、ユニットやエンクロージャーの仕組みがわかればシメたものです。なぜスピーカーを後ろの壁に近づけ過ぎてはいけないのかという、セッティング術も理解しやすくなるでしょう。
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