2ウェイや3ウェイなどのマルチウェイシステムに欠かせないのが、ネットワーク(Network:NW)という電子回路です。コイル(L)やコンデンサーー(C)で構成されるので、LCネットワークとも呼びますね。ではどうやってそんな電子パーツたちが帯域を分ける働きをするのでしょうか。今回は2ウェイシステムを例に、基本的なネットワークの知識を学びましょう。
図1はフルレンジと2ウェイシステムを比べたものです。スピーカーユニットの数が違うだけじゃなく、実は内部のパーツが違う。そう、フルレンジには1本のスピーカーユニットで全域を受け持つから帯域を分ける必要がなく、ネットワークなんて不要なのです。
でも2ウェイの方は、そうはいきません。そもそもウーファーは低音専用で、トゥイーターは高音専用。そこにもし(a)のようなつなぎ方をしたらどうでしょう。アンプで増幅された全帯域の音楽信号は、そのまま両方のユニットにダイレクトに入ってしまう。これは低音・高音のバランスがおかしくなる以上にまずいことなのです。ド〜ンと大きな音が入ったら、デリケートに設計されたトゥイーターは一瞬で壊れてしまいますね。
そこで2ウェイシステムの場合は(b)のように、スピーカー端子と各ユニットの間にネットワークが入るのです。これによって低音と高音とが振り分けられ、ウーファーとトゥイーターの、それぞれに適した帯域の音だけが入力されます。
このようなはたらきをする回路を、フィルター(Filter)と呼びます。そう、2ウェイシステムのネットワークとは、低音だけ通すLPF(ローパスフィルター)と高音だけを通すHPF(ハイパスフィルター)がセットになったものだったのですね。3ウェイの場合は、さらに中域のみを通すBPF(バンドパスフィルター)が加わるのです。「キミキミ、そっちへいっちゃダメだよ。こちらこちら!」。ネットワークは交通整理をするおまわりさんの役目、と覚えましょう。
■コイルとコンデンサーーのはたらき
ここで実際のネットワーク基板を見てみましょう。コイルやコンデンサーは基板に配線されていることが多く、下の図に整理したようにまったく反対の性質をもっているのです。ずばり、コイルは低音を通すが高音は通さない。一方のコンデンサーはというと、低音をカットして高音だけ通すという関係です。
コイルとは銅線をくるくる巻いたものですが、これによって内部を流れる信号電流の変化が速いほど、それに逆らおうとするあまのじゃくな性質が生まれるのです(レンツの法則)。言いかえると、ゆっくりと信号電流が変化する低音ならそのまま通すが、高音は速く変化するのでストップよ、というわけです。
一方コンデンサーは二枚の電極の間に絶縁物をはさんだもの。なので直流はカットし、低い周波数(つまり低音)ほど通しづらいという性質です。難しい理屈は省きますが、+/−の電荷の移動によって、高音域はフリーパスで通してしまうのです。
この様子をグラフに示しましょう。
インピーダンス特性としてかかれたグラフは、コイルとコンデンサーそれぞれのもつインピーダンス。一種の交流抵抗(Ω)ですが、周波数が高いほどコイルはインピーダンスが大きくなり、コンデンサーのインピーダンスは下がってしまう。信号の通りやすさは、その逆カーブになっているのがおわかりでしょう。
その結果、図のような対照的なフィルター特性となるわけです。電子工学の勉強みたいですが、コイルは周波数でいうとグラフの左側で、低音を通過させるLPF(ローパスフィルター)としてはたらきますし、一方コンデンサーはグラフの右側で高音を通すHPF(ハイパスフィルター)の役目をするのです。これでウーファー用にはコイル、トゥイーター用にはコンデンサーを用いるわけが理解できたでしょう。これらの性質をうまく利用したのがLCネットワークというわけです。
ここで質問があるのではありませんか。低域と高域の境目にあたる帯域はどうなっているのかと……。そう、いかにフィルターとはいえ、ある周波数でスパッと切れるのではなく、緩やかな傾斜で下がっていくのです。そして両方の傾斜が交わるの点がクロスオーバー周波数(fc)です。どこでクロスさせるかは、スピーカーシステムによって異なりますが、ここでは3kHzクロスの例を示しましょう。
3kHzから下がウーファー領域、そこから上がトゥイーター領域です。実際はクロスオーバー付近では両方のユニットが鳴っているわけで、いかに不自然にならずにスムーズにつなげるかが設計のしどころです。
■2ウェイシステムのネットワークを研究
上の図は実際の2ウェイシステムに用いられる、ネットワーク回路の代表例です。注目したいのは、ウーファーやトゥイータに直列に入っている方の素子。ウーファーにはL(コイル)、トゥイーターにはC(コンデンサー)が信号の通り道にしっかり入っていますね。この素子によって基本的なフィルター特性が決まり、3kHzを境にしてそれぞれにふさわしい帯域の音声信号がユニットに入力されるのです。では並列に入っている方の素子は何かというと、余計な信号を逃がすためのバイパスと考えましょう。
ウーファー側では余分な高域成分(残りカス)をユニットの直前でバイパスさせて、ウーファーにいかないようにする。一方トゥイーター側では、低域の残り成分をユニットの直前で迂回させるのです。これによってよりきれいな成分がウーファー、トゥイーターに供給され、両方の再生帯域を合成したフラットなサウンドが聴けるという仕組みです。
ところで、クロスオーバー周波数はLとCの値によって決まります。少しオーディオに詳しい人は、コイルの持つインダクタンスの単位がmH(ミリヘンリー)で、コンデンサーの方はμF(マイクロファラド)さ。などと知識を披露するのでしょうが、入門者はその必要はありません。ただ、スピーカーのカタログなどに「クロスオーバー周波数」や「インピーダンス」とあったら、その意味がおおよそわかればよいのです。
ネットワークについては、「dB/oct.」の意味を知っておけばベターでしょう。これはフィルターの傾斜特性でデシベル・パー・オクターブ、つまり1オクターブあたり何デシベルの割合で減衰するのかを表わしています。
オクターブは音楽用語のオクターブです。「ラから上のラまで」……という感じで、周波数でいうと「2倍高い音かまたは、1/2の周波数の音」をいうのです。オーケストラのチューニング(音合わせ)ではラは440Hz。1オクターブ高い音は上のラで、440×2=880Hzとなるのです。下のラは440/2=220Hzという関係。オクターブごとに、2倍、2倍、2倍の関係がどこまでも成立する、有名なバッハの平均律というものです。
オーディオの場合も同様ですが、数字をf=1kHzとしましょう。1オクターブ上は2kHzですね。この間に何デシベル下がるのかは、L、Cの素子の数で決まるのです。1番シンプルな1素子型だと−6dB/oct.の減衰。2素子型ではそれが−12dB/oct.さらに3素子型になると−18dB/oct.と、フィルターの切れ方がシャープに(急傾斜)になるわけです。これは急であればよいというのではなく、あくまでユニットとの適性や最後はヒアリングによってベストな値に決めるのです。スピーカーは奥深いですね。
次回は3ウェイネットワークの仕組みや、レベル調整のアッテネーターについて研究しましょう。
>>
「林 正儀のオーディオ講座」記事一覧はこちら
http://www.phileweb.com/magazine/audio-course/archives/summary.html