さあ、ようやくスピーカーのつなぎ方まできました。「つなぐって、アンプのスピーカー端子とつなげばいいんでショ」。それはそうですが、端子の使い方ひとつにもオーディオの基礎知識は必要です。+と−を間違えたり、ケーブルと端子のカタチが合わないなあ……と迷ってはいませんか。以前信号の流れのところで、音楽信号はソース源であるプレーヤーからアンプ、アンプから最終的にスピーカーに入るとお話しました。川の流れがだんだん水流を増すように、スピーカーには大きなエネルギーをもった音楽信号(電流)がどっと流れ込む。その橋渡しをするのがスピーカーケーブルですから、小さい出力の信号を扱うラインケーブル(ピンケーブル)とは役目が違います。ではどんな注意が必要なのか、ケーブルの扱いやつなぎ方のポントをまとめてみましょう。
■スピーカーのつなぎ方のポイント
スピーカーの接続ミスで一番多いのがLとRを反対につないでしまったり、+と−の極性を間違えること。前者の場合はステレオの左と右が入れ代わるのですぐにわかりますね。えっ、気がつかずに長い間聴いていた?それならなおのこと、+/−の極性ミスがあっても見逃しているのではありませんか。
上に挙げた二つは、絶対にやってはならない基本中の基本です。図のようにアンプとスピーカーとをつなぐとき、本来+は+、−は−と極性をあわせてつなぐのが正しいのですが(正相接続)、その+、−をうっかり入れ替えてつないでしまうのが逆相接続。
図ではR側が+と−を間違えた逆相つなぎになっていますね。
では、逆相つなぎをしてしまうと、どういうことがおきるのでしょう。CDをかけて比べましょう。正相の場合は、ボーカルがきちんと中央にいます。管弦楽なんかだとそれぞれの楽器が自然なハーモニーを奏でます。音像が正しく描かれるので、バランスのよいステレオ再生ができるのです。前後の奥行感もありますね。
逆相はまったく違います。何だか気持ちが悪い。音の居所がなくなったようにバラバラになり、ボーカルにも実像感がありません。センターで左右の音が打ち消されるために中抜けの妙な音になるのです。
これをスピーカーの動きでみましょう。左右に同じ音声信号が入ったとき、ド〜ンと同じ動きを(図では前に出る)するのが同相接続です。ところが逆相接続では、左右のユニットで押す、引くが逆になるために、音の波がセンター付近でキャンセルされる。中がヌケてしまうのです。百聞は一聴にしかず。わざと+/−を入れ替えてつないでみて、その音を確かめるのもよいでしょう。
その他は常識的なことばかりですが、左右のケーブルは必ず同じもの(製品)を使い、キチンと長さを揃えましょう。アンプの置き場所が左に近いからといって、Lchのケーブルを短くケチってはいけません。また、ときどき見かけるのが、別のケーブルをつぎ足している例です。これは最悪。音が劣化するだけでなく、接触不良にもなってしまいますね。
ケーブルによいものを使うこと。高価なものということではなく、しっかりした作りのメーカー製を使うよう心がけたいものです。線材に高純度のLC-OFCやPCOCCといった銅線を用いていますか?純度が高いほど電流の流れがスムーズになります。つまり音楽がスムーズに流れるわけです。ケーブルを包んでいる被覆も大事ですよ。外来のノイズや振動からケーブルをガードしてくれるからです。ケーブルによる音質の変化はまた機会があれば取り上げたいと思います。
そして、端子に合った端末処理をしましょう。もちろん端子はいつもきれいに。これも常識ですね。図につなぎ方の常識とマナー集をまとめてみました。
スピーカーケーブルは+と−の線がまとめて被覆され、1本のケーブルになっていますね。端末の処理は、普通はされていないので、自分でやりましょう。処理といっても、+と−被覆をむいてちゃんと中の銅線が見えるようにするだけ。剥きしろは長過ぎず、短過ぎず。3〜4センチが手頃です。
これをスピーカー端子に取りつけるのですが、その際注意したいのが、ヒゲが出ていたり、巻きつける方向を間違えたりしていないかということ。ヒゲというのは線がバラけて一部がハミだしている状態。隣どうしのヒゲが接触すると音がおかしくなったり、アンプの保護回路が働いてシャットダウンすることさえあります(+と−とがショートするため)。
さて端子に巻きつける方向ですが、右回しが原則です。ネジを回す方向に、時計回しに巻きつけるのです。Bのように反対に巻きつけたりしていませんか。これでは端子ネジを締めたときケーブルが緩んでしまいますね。気をつけましょう。汚れた端子も禁物です。長い間には埃や汚れが付着して音の通りが悪くなってしまうもの。クリーナーで定期的にクリーニングしてあげましょう。
最後に端末のいろいろ。バナナプラグやYラグがありますが、これは端子を見て決めましょう。バナナプラグ対応をうたっていれば、端子にさすための穴があいているのです。Yラグと呼ばれるY型端末もありますね。
■シングルワイヤーとバイワイヤーのつなぎ方
ヨーロッパから流行ってきたバイワイヤー端子ですが、今や市販スピーカーの8割程度がバイワイヤーに対応しているのではないでしょうか。そのつなぎ方をまとめてみます。
まずはもう一度、バイワイヤー対応のスピーカーの内部をおさらいします。図のようにハイパス、ローパスの各フィルターが入っていて、そのままハイ(トゥイーター側)、ロー(ウーファー側)の端子につながっていますね。
通常はジャンパー線でハイとローとがつながっているので、そのまま普通のシングルワイヤーつなぎをしましよう。その際、スピーカーのトゥイーター側につなぐのか、それともウーファー側につなぐかという二通りがあるので好みで決めましょう。「どっちだって同じじゃないか?」と思うでしょうが、よく聴くと音が違います。トゥイーターつなぎは、高音域の澄んだきれいな音がします。ウーファー側つなぎはウーファーのドライブ力がよくなって、キレのいい低音再生ができますね。その差はわずかかも知れません。しかし、わずかな音の違いを楽しむのがオーディオなのです。
バイワイヤー、またはバイワイヤリング接続とは何でしょう。ネットワークの入力側に高域用と低域用を独立させた端子を設け、それぞれの接続ケーブルを直接アンプのスピーカー端子にもっていくつなぎ方です。わざわざ長いスピーカーケーブルを2組も使うのは理由があります。音がよくなるのです。なぜでしょう?
それは作用、反作用のメカニズムです。スピーカーにはあまのじゃくな性質があって、アンプによって駆動されたときその反動で内部に「逆起電力」が発生。それをアンプに送り返してくるわけです。「フレミングの左手の法則」でスピーカーのコーンが動き、その動きによって今度は「フレミングの右手の法則」による誘起起電力がおこるというメカニズムです。
逆起電力はウーファー側で大きいので、アンプの端子まで逆走したのち今度はトゥイーターへと入っていく。これによってトゥイーターが揺すられ、高音が濁るのです。ならば、高・低の通り道を切り離せばいいじゃないかというのが、バイワイヤーの発想。実際のつなぎ方を図に示しましょう。
厳密にいうとバイワイヤーにしても、往復した逆起電力の残りカス(残留成分)がトゥイーターに悪さをするのでしょうが、距離が長いだけにその影響は微々たるものです。論より証拠。ぜひシングルとバイワイヤーの音の違いを聴いてみて欲しいものです。バイワイヤー接続用のケーブル(4芯タイプ)も売られていますよ。
このバイワイヤー接続を一歩進めたのが、バイアンプ駆動と呼ばれる方法です。バイワイヤーではアンプは1台でしたが、贅沢にも2台のパワーアンプを使う。高域と低域、それぞれに別のアンプを用意して、まったく相互干渉のないドライブが可能となります。トゥイーター側にはピュアな音のする純A級アンプ、ウーファー側には馬力のあるAB、またはB級アンプ(それぞれの違いはアンプのところで解説します)を用いるなど、目的にあったパワーアンプの選択ができますよ。そんなシステムが組める方がうらやましいですね。よほどのマニアが挑戦する方式なので、こんなすごいのがあるんだ!というくらいの理解でよいでしょう。
次回はスピーカーの設置にトライします!
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