今回はアンプの分類の2回目。「A級、B級……」というアンプのクラスについて学びましょう。「えっ、アンプに能力別クラスなんてあるの?」と驚いてはいけません。製品の優劣ではなくて、これは増幅素子としてみた場合の「働かせ方」の違い。専門的に言うと「動作点」の違いでそのような呼び方をするのです。アンプは電子回路ですから、ある程度のエレクトロニクス的な説明は我慢してくださいね。できるだけ易しく、特性図は最小限にして解説しましょう。
■A〜D級の違いって?
増幅素子といえばトランジスタや真空管ですね。ここでは主にアンプのファイナル段(最終段)に用いる増幅素子がどんな風に働くのか、考えましょう。「そりゃもう、小さい信号から大信号まで直線比例で増幅するんでしょ?」。はいそのとおり!と言いたいところですが、実は違います。
実際は図1の(a)の理想的な増幅特性からかなりズレて、ひねくれたカーブになっているのです。
図1(b)を見てもまっすぐなのは中間の直線部だけ。立ち上がりの小信号のところと大信号での飽和(クリップ:頭打ち)のために、極端にいうとS字カーブのようになっていますね。S字なのを承知で、この素子をどう使いこなすかです。
さあここで、A、B、C、Dのクラス分けが出てきます。S字カーブの中にそれぞれの動作点を示す文字が打ってありますが、A級は直線のまん中に動作点をもってきた一番ぜいたくな使い方。ここであれば、入力信号が+/−にふっても直線の範囲内なので、出力が歪んで音が割れることはありません。非直線歪みがないわけです。
このシンプルなA級動作は音がよい反面、弱みもあるのです。振幅がとれないために小さい出力しか得られない。それにいつも一定の動作点をキープするために、たっぷりと大きなバイアス電流(アイドリング電流といいます)を流し続けなければなりませんね。クルマでいえば暖気運転のようなもの。A級アンプは発熱量が多くて当然です。「卵焼きができちゃうよ」などと、悪口がきこえてきそうですね。
小出力・大電流のA級動作にくらべ、もっと効率のよい動作はないものかと、考え出されたのがB級動作です。直線部をあきらめ、特性の曲がりっぱなをB点としていますね。ここであれば、どんなにバットをぶんぶんふりまわしても飽和点まで余裕しゃくしゃく。つまり入力信号のフルスイングに対して、大出力が得やすいわけです(A級ではフルスイングすると頭がつぶれます)。
おまけにアイドリング電流が少ないから効率は高いし、熱もほどんどでないと良いことずくめ。「でも、これじゃあ信号波形の半分しか増幅しないんじゃないノ?」。そこに気がついたあなたはアンプのセンスのある人です。そもそもB級アンプは、1個のトランジスタでは成立しない回路方式なのです。それと立ち上がりの歪みの問題もクリアする必要がありますね。そのためにプッシュプル(P−P)という、2個ペアで動作させる回路方式を必ず採用することになります。この話はまたのちほど。
図では省いていますが、A級とB級の間にAB級というのもありますよ。両者のいいとこどりをした中間的な動作方式で、音質もよく大出力もOKという欲張りアンプ。実際の製品ではAB級アンプが多いようです。
バイアス「ゼロ」をカットオフといい、C級やD級ではさらに左の方に動作点がきてカットオフ以下となります。こうなるとアイドリング電流は流れず、歪みは多いが効率の高い増幅となるわけです。一般にオーディオ用として使えるのはA級、AB級、そしてB級まで。C級は高周波数の通信用などで採用されるものです。D級動作については、次回のデジタルアンプのところで改めて解説します。
つまり、結局のところA級、B級……という分け方は素子の動作点をどこに持ってくるのか、ということなのです。それぞれに得手不得手があり、A〜Dの順で効率が高くなる反面、歪みもどんどん増えてくるのです。効率をとるか歪みの少なさをとるか、それによって回路方式が違い、アンプとしてのキャラクターが異なってきます。
これをオーディオアンプに限って比較表にまとめました。
見比べて欲しいのですが、A級とB級はまさに対照的ですね。小出力だが高品位な音が欲しければ、A級アンプが有利です。ただしムダ(アイドリング)が多いため出力はB級の1/4ほどしかありません。A級で50Wといえば相当な大飯食いで、ヒートシンクや天板に手が触れられないほど熱くなりますね。いいかえると同じ規模の電源を積んで、クラスBのアンプをつくると4倍の200W相当となるのです。これは小電流・高出力タイプの代表。AB級なら100W前後といったところでしょう。
またA級アンプを名乗る製品でも、20W程度の小出力時はA級で、大出力になるとAB級にオートできりかわるダイナミックバイアス方式のアンプも存在します。これに対して切り替えなしのA級は「純A級アンプ」などといって区別することがありますね。
■シングル動作とプッシュプル動作とは
では次にシングルとプッシュプル動作です。シングル動作を独身とすれば、共働きの夫婦のように、二人ペアで増幅動作を完結させる回路がプッシュプルと言えるでしょう。実際にはA級アンプがシングル動作の代表です。交流信号の上下(+と−)を1本のトランジスタで動作させるのですから、シンプルといえばこれ以上シンプルなアンプはないわけです。
さてプッシュ(Push)とプル(Pull)の動作。この押したり引いたりをひとりでやるのは大変と、作業を二人の分業にしたらどうでしょう。図2(b)では、上下にTR1とTR2がペアを組んでセットされていますね。始めの半サイクル(+)はTR1が「ボクの番さ」とばかりに働くと、その間TR2は休んでいます。次の半サイクルではこれが逆転。寝ていたTR2がムクリと起き出して働き、今度はTR1がおネムの時間。その繰り返しです。このTR1とTR2の動作をつなぎ合わせることで、大きな出力が得られるという仕組みです。
でもON/OFFのつなぎ目がスムーズにいきません。バトンタッチはそう簡単ではないのです。B級のプッシュプルでは、クロスオーバー歪みというヒゲ状のスイッチングノイズが出たりしますね。スイッチが離れる瞬間にスパークが飛ぶようなもの。ここがB級アンプのウイークポイントです。そこでAB級アンプでは、アイドリング電流を多めに流すことで信号の上半分と下半分の一部を交差させ、クロスオーバー歪みを打ち消しているのです。
ではA級の場合シングル動作しかないかというと、実際の製品ではほとんどがA級のプッシュプルアンプ。これは2個のトランジスタが常にカットオフしない条件にて動作するので、寝た起きたがありません。いつも起きた状態なので、「ほいきた!」と立ち上がりが早く、バトンタッチがうまくいくわけです。A級アンプが素直で音がよいといわれる理由は、非直線歪みやこうしたクロスオーバー歪みがないためなのです。
ちなみに上と下とではトランジスタのタイプが違います。電子回路の教科書で、PNP型、NPN型というのがでてきますが、名前だけちらっと頭に入れておくとよいでしょう図2(b)の上がPNP、下がNPNで矢印マークの向きが違います。
さあA級、B級、AB級の違いや特徴がわかりましたか?アンプ選びのポイントにもなりますね。実際の製品では、さらに大出力を得るために上下に2個ずつ使ったパラプッシュ(計4個)や3本ずつのトリプルプシュ(計6個)がありますし、さらにずらっとパワートランジスタを並べた8パラ、12パラなんていう超ド級アンプもあるわけです。
今回は難しい用語もたくさんでてきました。初級から中級という感じでしたね。でもここである程度の仕組みを理解しておけば、あとがラクになるのです。次回もお楽しみに!
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