どんなプレーヤーがあり、どう選ぶかを前回お話しました。ではCDやSACDのディスクってどういう構造なのでしょう。比較も交えながら、信号を読み取る仕組みや特徴を見ていきましょう。
■CDの構造
まずCDです。レーベル面の反対側が、ピカピカ光っている信号面ですね。プレーヤーのトレイにCDを乗せると、下からレーザービームが当たって「0、1」のデジタル信号を読み取る仕組み。実際には図1のように、12センチの盤の内側から外側へ向かって、ピットと呼ぶ信号列がうずまき状に並んでいますよ。ビット(bit)ではなくピット(pit:くぼみ)。レーベル側から見るとくぼんでいるのでそう呼ぶのです。信号面からだと「突起」に見えますが、その大きさはミクロンオーダーという超微細なものなので、もちろん肉眼では確認できません。トラックピッチ(ピット同士の距離)は1.2μ(ミクロン)、全体では約2万本のトラックがあるといわれます。各トラックには番号がふられていて、選曲する際はレーザーピックが目的のトラックにさっとジャンプするだけなので、瞬時の頭出しも朝メシ前。
CDはキズや汚れに強いと言いましたが、それは信号ピットがむき出しではなく、透明な樹脂(ポリカーボネート)で保護されているからです。読み取りレーザーはこの透明ポリカーボネート越しにピットの凹凸を読み取って、「ああここにピットがあるぞ、ないぞ」と判断するのです。ピット面が鏡のようにピカピカ光っているのは、アルミ蒸着膜で覆われているためです。実際には、ピットのない平面は100%光が返ってくるので明るく、ピットのある場所は乱反射(光が散る)するので暗くなる。その明、暗で「0、1」を判断しているのです。
■CDとSACDの比較
SACD(スーパーオーディオCD)もディスク構造は基本的に同じですよ。違いはCDよりもピットが微細で、6〜7倍も高密度なこと。ディスク容量はCDの780MBに対して4.7GBです。より小さなピットを捕らえるため、読み取りレーザーもより細いことが必要ですね。レーザーの波長そのものが違うので、SACDプレーヤーでは専用のレーザーピックアップが必要となります。
ここで改めて、CDとSACDとの能力比べをしてみましょう。
座標軸は横と縦の両方があります。横軸は周波数レンジ、縦方向はダイナミックレンジですが、どれだけ広い音域の音を収録できるのか、また、ささやくような微小音から管弦楽のトゥッティ(オーケストラの全協奏)のような大きな音量まで、余裕をもって表現できるのかという両面で、まさに音楽表現のキャパシティが違うのです。CDではカットされていた20kHz以上の音域情報も、100kHzまで記録できるから、ふわっとした倍音(声、楽器などの高い成分)のニュアンスや、場の空気感をよりリアルに表現できます。つまり、CDと比較した場合、SACDの方がより多くの音楽情報を保存でき、自然界の音(生音)に近い音を再現可能なディスクといえますね。
ではもう少し詳しく、両者のフォーマット比較をしましょう。
直径12cm/厚さ1.2mmという寸法は光ディスクではおなじみのものですね。違うのはまず周波数レンジとダイナミックレンジ。先ほどのディスク構造の図から、SACDの方がトラックピッチが狭く、レーザー波長のより短い650ナノmmのピックアップを用いていることも分かりますね。CDは780ナノmmです。でもどちらも赤色レーザーの仲間で、ブルーレイのような青色レーザー(さらに短波長)ではありませんよ。
SACDは微細なピットをよりシャープなレーザーで読み取る高密度ディスクであることが分かりました。さらに、CDよりも容量が多い分、ステレオ2チャンネルだけでなく、マルチチャンネルにも対応できるのです。そう、最低は3chマルチから、最大6chまで広くカバー。SACDは音楽なので、ホームシアター5.1chのようなサブウーファーは必要ないケースが多いようです。
またCDの場合は片面ディスクが大原則ですが、SACDには2層タイプもあり、CDを含んだハイブリッドディスクというフォーマットだってあるのです。
SACDの記録時間は、2chステレオで109分とCD(約74分)よりも長めになっています。2層タイプの場合は109分の約2倍。無味乾燥に思えたフォーマット比較も、ていねいに読めば興味がでてきますね。
■同じデジタルでもCDとSACDとは違う
そのほかにも、実はCDとSACDとで大きな違いがあります。表の中にある記録フォーマットです。いわゆる符号化方式ですが、CDでは16ビットのリニアPCM方式でした。これに対してSACDは、音声信号の大小を1ビットのデジタルパルスの密度で表現するDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタルの略)方式を採用していますよ。
より詳しくは次回また講義しますが、今日はざっとイメージでその違いを理解しておきましょう。同じデジタルでも図のようにその方式が違っています。
音楽信号はもともと連続したアナログの信号でしたね。ボーカルも楽器ももちろんアナログ波形です。これをデジタル化するには、何らかの方法で小さく区切らないといけませんが、CDで用いられるPCM(パルス・コード・モジュレーション=パルス符号化変調)では、なめらかなアナログ波そのものを、適当な間隔でピックアップ(標本化=サンプリング)して、そのレベルを16ビット精度で表現するのです。サンプリングやビットの刻みが多くなればなるほど、もとのアナログ波に近そうだ!と想像できますね。
ところがDSD方式はまったく違います。信号のレベルを使うことは同じなのですが、レベルごとにビットをあてがうのではなく、元のアナログ波形を「音の粗密」ととらえて、1ビットの信号波形に変換するのです。えっ、1ビットで正確に表現できるのと思うでしょうが、そこはまた次回のお楽しみ。
■SACDハイブリッドって何?
いまSACDといえば、ハイブリッド盤というくらいにSACDハイブリッドがポピュラーなものになっていますね。
ハイブリッド。つまりSACDとCDとのミックス盤で、1枚のディスクなのにCDもSACDも聴ける!というのがウリです。分かりやすく言うと図のようなイメージです。例えばE・クラプトンの同じ曲がCD・SACDの2ch・SACDマルチという3つのエリアに分けて収録されている。このソフトを買うと、とりあえずCDプレーヤーがあればCDエリアが聴けることに加え、2ch専用のSACDプレーヤーならSACDの2chエリアの再生がOK。将来サラウンド環境が整ったら、SACDマルチまですべて堪能できるわけです。
先ほどふれたように、図では分かりやすくエリア別に分かれたイメージとしていますが、実際は2層構造になっているんですよ。
CDエリア+SACDエリアの貼り合わせ。この仕組みは巧妙で、図のようになっています。表面側がSACD、その奥にCDというように、CD層は条件の悪い奥にあるのですが、CDを再生する場合は手前のSACD層をすりぬけて奥までレーザーが届き、CD専用のピップアップでその情報が読み取れるのです。このためにハイブリッド盤のCDの音は良くないという声も一部にあるようですが、実際はまったく問題なくCDの高音質を楽しめますよ。
SACDには「シングルレイヤー」というHD層(SACD層)だけのタイプと、「デュアルレイヤー」と呼ばれるHD層+HD層のもの(長時間SACD)。さらにCD層+HD層の「ハイブリッド」という、この3つのフォーマットが存在しています。
次回はCDプレーヤーの仕組みについて解説しましょう。
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