オーディオ&ビジュアル、いわゆる「AV」は、テレビ、オーディオ機器の枠を超えて活用できる時代がやってきている。たとえば、パソコンでテレビ視聴・録画をするのは当たり前になり、ワンセグ放送の開始により携帯電話や音楽プレーヤーを使い、手のひらでテレビ視聴・録画が可能になった。次世代ディスクメディアの一つであるBDビデオは専用プレーヤーが国内発売される前に、ゲーム機のPS3がいち早く対応した。いまAV機器の世界を楽しみ尽くそうとするなら、通電するものすべてを広く見渡す柔軟な視野と感覚が必要だと感じている。
そんな慌ただしくも愉快な新時代のAV機器事情を、元来のやじうま精神で、体当たりして、その結果をご報告しようというのが、この「ケースイの次世代AV NAVI」だ。お堅いことは抜きにして、目新しい製品やサービスを次々と試そうと考えている。
まず第一回目に選んだ製品は薄型テレビだ。2006年末の商戦から、手頃な価格で手に入る機種も増えてきた。地上デジタル放送のエリア拡大に伴い、テレビの買い替えを考える人も多いことだと思う。画質については本サイトのレビューを見ていただくとして、僕は薄型テレビを気になる機能で選んでみた。それは“テレビの録画機能”だ。
現在、ショップには本体にHDDを搭載し、単体で録画も可能な薄型テレビ製品が並んでいる。この「テレビだけで録画する」という機能が、実はとても便利なのだ。テレビのリモコン一つで、いま見ている番組を瞬時に録画できる快適さと言ったらない。録画予約にしても、番組表さえ表示できれば、あとは決定ボタンを押すだけで完了する。まさにAV機器のバリアフリーとはこのことだろう。録画画質はハイビジョン画質のまま保存できるので、いつでも好きなときに美しい映像を楽しめる。ただ、HDDの交換や、単体ではDVD等のディスクメディアへの保存もできないため、一方では録画内容の長期保存には向いていないという点も指摘できる。そんな中、ユニークな機能を備えているのが東芝の液晶テレビ“レグザ Z2000”シリーズだ。
レグザZ2000シリーズ(以下レグザ)はLAN(屋内ネットワーク)上にあるHDDへアクセスができ、テレビ番組を録画・再生できる。本体にHDDを搭載する薄型テレビは、東芝のほかに日立製作所のWoooシリーズなどがあるが、レグザはパソコン用のネットワークHDDを利用できるのが特徴だ。専用のHDDを本体に内蔵するモデルもある中で、レグザZ2000シリーズはハブに接続することでネットワークHDDの交換はもちろん、増設することも可能だ。
ネットワークHDDを活用することによって、セキュリティー機能によりデジタル放送のハイビジョン番組をそのままの画質で保存できる。ハイビジョンは2時間の番組を録画するのに約23GBもの容量を必要とするので、録画用HDDの容量はいくらあっても足りないが、レグザなら専用HDDよりも低価格のネットワークHDDを使用できる。容量が不足すれば簡単に増設も可能だ。デジタル放送は著作権保護機能により、録画に使ったレグザでないと再生できないが、アナログ放送ならパソコンでも再生が可能だ。
ネットワークHDDだけでなく、パソコンのHDDへ直接録画もできる。パソコンへ録画した場合もデジタル放送は再生できないが、アナログ番組ならそのまま再生が可能だ。それだけでなくレグザにはMPEG2ファイルの再生機能があるので、パソコン上の対応ファイルがレグザで再生できる。
ネットワークHDDの接続はレグザの背面にあるHDD専用のLAN端子に接続するのがもっとも手軽で簡単だ。今回は将来HDDを増設することを考えてハブに接続して、アナログ番組を他のパソコンとも共有できるように設置した。付属のマニュアルを読みながら設置したのだが、何度やっても認識しない。注意書きを読むと、自動認識をしない場合はリモコンの「赤」ボタンを押すことで、対応する機器をレグザが探し出すとのこと。赤ボタンを押してしばらくすると、ネットワークHDDだけでなく、我が家のネットワーク上にあるパソコン、AV機器まで認識した。
ネットワーク機器の認識が終わったら、あとはレグザ本体の電子番組表を使って、録画予約をすればお好みの番組がHDDに保存される。もちろん放送中の番組を録画できるが、録画の準備に1分程度かかるので、急いで番組録画をするのには向かない。
テレビの番組表を使った録画予約は、レコーダーなどを使うよりもずっと敷居が低く、AV機器操作を極度に苦手とする家族も、一度操作を教えただけで、使うようになった。
録画は簡単なのだが、再生をするにはメニューからネットワーク機器を呼び出して、そこから録画ファイルを選んで、再生タイトルを選ぶので少し煩わしさがある。複数のネットワーク機器に対応することを考えると、ワンタッチで再生というのは難しいだろうが、それでも最後に録画した機器の録画リストが簡単に表示するなどの工夫があれば、いっそう快適に使えただろう。
ちなみにネットワーク上に認識されたNECのPK-AX300H上の録画ファイルも問題なく、レグザを使って再生できた。ソニーのVAIO Xビデオステーションも認識はするが、録画ファイルの再生はできなかった。
実はレグザにこんな機能がついているとは知らなかった。ネットワークHDDを使うあたりのマニアックさに、「設定が面倒なのでは?」という不安もあったが、トラブルもなく認識が完了した。たかだか2万円ちょっとの出費で、テレビにレコーダー機能がついたかと思うと、とても得をした気分になる。
テレビ録画が簡単なのもうれしい。よくAV機器に苦手意識を持つ人の話を聞くと「ビデオ入力」の切り替えでつまずいているようだ。しかしテレビ側に録画機能があれば、チャンネルを切り替える感覚で、電子番組表を開き、そのまま録画できる。これならAV機器が苦手な人でも楽に操作できるだろう。もちろん、AV機器の操作に長けた人でも、レコーダーを起動せずにスピーディーな予約ができて快適に感じるはずだ。今回紹介したレグザに限らず、HDDを内蔵する薄型テレビについての魅力は大きいと言える。
レグザは一歩先を行っていた。すでにネットワークHDDを使ってすでに2週間近く経過しているが、やはり320GBでは少ない。簡単に録画できることに味を占めた家族が使ってしまうからだ。できたら、もう一台自分専用のHDDを増設したいと考えている。そんなことができるのもPC用のネットワークHDDに対応しているからこそだ。
この機能はテレビパソコンユーザーにも大いに注目していただきたい。自室に設置したテレビパソコンで録画した番組を、ネットワークを介してリビングで晩酌でもしながら楽しめるのだ。
ただし注意点もある。メーカーを問わず、パソコン用のHDDはレコーダーなどに使用するHDDに比べて耐久性が低いという意見も耳にする。短いデータのアクセスが多い、パソコンでの利用に比べ、テレビ録画となると、HDDは長時間回転し続けることになる。そのため発熱などによりトラブルが発生しやすくなると言うのだ。例えばパイオニアのHDD+DVDレコーダーDVR-DT95などは、外付けのHDDへの録画を可能にしている。見た目はパソコン用の外付けHDDを使用しているが、放熱効果を高めたスペシャルモデルを専用に用意している。もし大切な番組を保存するなら、専用のレコーダーを利用することをおすすめする。
とはいえ、低価格で手に入るパソコン用のネットワークHDDを録画用に使う魅力は大きい。またLANという敷居の低いネットワークを、ここまで活用するアイデアも素晴らしいと感じた。フツーのテレビのようで、実は色々と遊べるユニークな機能を満載するレグザに次世代の足音を感じた。さて、レグザの“先進っぷり”はこれだけにとどまらない。さらに注目したい機能が山ほど控えている。次回はレグザを使って、インターネット経由で“ハイビジョン”を楽しんでみる。その実力はいかに?
−次号の掲載は2007年1月9日(火)を予定しています。どうぞお楽しみに!−