いよいよスカパー!HD録画に対応する機器が名乗りを上げてきた。これまでレコーダーでは東芝のRDシリーズとソニーのBDZシリーズしか選択できなかったが、新たにパナソニックのDIGAシリーズ春モデルにも対応機がラインアップに加わってくる。
東芝、パナソニックの対応機は追って次回以降の記事でレビューするとして、今回はソニーBDZシリーズの2010年春・夏モデルを使ったスカパー!HD録画に挑戦してみた。使用したのはBDZ-RX105とBDZ-RX55だ。ラインアップについては
既報を参照してほしい。なおスカパー!HDチューナーの筆者宅設置については、
前回の記事で詳細をお伝えしている。
スカパー!HDの録画方法は少し特殊だ。レコーダーとチューナーはいわゆるAVケーブルなどで接続するわけではなく、LANケーブルを使用する。ルーターを使えば複数の機器で1台のスカパー!HDチューナーを共用して使用できる。これにより使い勝手に長短が出てくるのだが、これについては後述する。スカパー!HDはこれまで外部チューナーとレコーダーの接続に欠かせなかった「外部入力」という概念に捕らわれないということを、まずはじめに知っておいて欲しい。
筆者はすでに東芝RDシリーズでスカパー!HD録画を体験しているが、驚いたことにソニーと東芝では録画の使い勝手に違いがある。
まずスカパー!HD録画はソニー、東芝ともにユーザーが画質を選んで録画することができない。ソニーは「DR」モードだが、東芝は独自の画像圧縮モード「TSE」での録画に固定されている。詳細は次回紹介予定の「東芝編」でもお知らせするが、これによりRDシリーズを使って録画したスカパー!HDのタイトルは「ハイビジョン画質のまま」他社のレコーダーで視聴できないことになる。
一方のソニーにも不安はある。「DR」モードで録画できるものの、スカパー!HD録画に対応したソニー製BDレコーダーでしか再生できない。ただし、スカパー!HD対応のレコーダーでなくても、ソニー製品に関しては下記の機種がバージョンアップによりスカパー!HDの番組を記録したBDディスクを再生できるようになっている。互換性のある「DR」モードで録画しているのだから、メーカーやバージョンを問わず、再生できてもよさそうなものだ。たとえばスカパー!HDを記録した番組は「SDR」と表記して、互換性のある地デジやBSデジを録画した場合の「DR」と区別するとか、対策をしてもいいと思うのだが…。ソニー広報担当者に訊ねたところ、「“DRは放送派をそのまま録画した形式”という事なので、『DR』表記で問題はない」という事だった。この辺りはいちライターが訴えたところで、どうにもならなそうなのでガマンするが、BDに記録した「DR」モードで再生互換がとれてないこともありるのは、不便だと筆者は感じている。
※詳細な情報はこちら。
http://www.faq.sonydrive.jp/faq/1040/app/servlet/qadoc?33532
スカパー!HDを記録したディスクの再生は、BDZ-RX105/RX55/RX35/RS15、BDZ-EX200/RX100/RX50/RX30/RS10で可能 (2010年2月現在)。
また、2009年10月15日から開始するデジタル放送ダウンロードによるソフトウェアアップデート(BDプレーヤーは、2009年10月14日15時開始のネットワークダウンロード)により、以下の機種でも、ダビングしたディスクの再生が可能になる。
・BDZ-X100/X95/L95/L55/T75/T55 (ソフトウェアバージョンの下3桁が 010)
・BDZ-A950/A750 (ソフトウェアバージョンの下3桁が 006)
・BDZ-X90/A70/L70/T70/T50 (ソフトウェアバージョンの下3桁が 023)
・BDP-S360 (ソフトウェアバージョンの下3桁が 007)
・BDP-S5000ES/S350 (ソフトウェアバージョンの下3桁が 020)
※本項初出時より、ソニーBDレコーダーにおけるスカパー!HD録画コンテンツの互換性に関する内容を調査し、本文を修正・加筆させていただきました。読者のみなさま並びに関係者の皆様にお詫びして訂正いたします(5/20)
予約録画はスカパー!HDチューナーから行う。番組表を開き、予約したい番組を選んで録画を決定する。筆者は実際に操作するまで、予約時にホームネットワークに接続した対応機を選んで番組予約ができると考えていたのだ。例えば海外ドラマは寝室に置いた「レコーダーA」、スポーツはリビングの「レコーダーB」といった具合だ。しかし、実際に操作するとその“妄想”が大きな誤算だったことに気づかされる。
スカパー!HDチューナーは設置時に録画先を決めなければならない。もちろん設定画面から切替えることもできるのだが、その場合は予約情報がすべてリセットされてしまうのだ。これだとLAN接続のメリットが半減する。ここはユーザーの使い勝手を高める上で、ぜひ改善して欲しいポイントだ。
録画で気になるのがスカパー!HDと各種放送波で予約時間帯が重なった場合だ。BDZシリーズの同時録画には、録画画質を指定できる「録画1」と放送波のまま録画する「録画2」がある。スカパー!HDは強制的に「録画2」を使って録画する。そのため、放送波の予約は「録画1」を使っていれば、予約が重なってもトラブルは発生しない。しかし、「録画2」で設定している場合、BDZ本体内部のチューナーからの予約が優先されるので、重複予約になったスカパー!HDの番組は録画できないことになる。実際に家族で使うと、「録画1」「録画2」を使って2番組同時に予約する、なんてことは当たり前に発生するので、今後改善すべき課題だと筆者は考えている。
ソニーのBDZシリーズといえば筆者イチオシの機能「おでかけ転送」かある。おでかけ転送機能を使えば録画番組をPSP、携帯電話(対応機種のみ)、ウオークマン(対応機種のみ)、パーソナルナビゲーションシステムnav-uなどに持ち出して移動中も楽しめる。録画好きならば、この「おでかけ転送」だけでもBDZシリーズを選ぶべきと思うほど素晴らしい機能だ。
もちろんスカパー!HDで録画した番組もBDZシリーズなら持ち出せる。ただし、条件がある。通常は録画時に持ち出し専用のファイルが同時生成されるので、2時間の番組でも数十秒で対応機器に転送できる。しかし、スカパー!HDの場合は、「録画2」のDRモードでしか録画がリアルタイムに行えず、持ち出し専用ファイルは同時に生成されない。そのため、番組を持ち出す際には、専用のファイルを実時間をかけて変換してつくる必要があり、このあたりが使いづらく感じた。またスカパー!HDの番組はコピーワンスなので、持ち出し中はBDZ本体で再生できない。「おかえり転送」をすること本体での再生が可能になる。
最後に少しだけBDZシリーズの最新「RX」の内容について触れておこう。今回のモデルは従来機のマイナーバージョンアップとなった。ソニーのBDZシリーズには、完成度が高いモデルであるがゆえに、感じている不満が筆者のなかでくすぶっている。そのポイントは以下のとおりだ。
・ツインエンコーダーの対応
前述したようにBDZシリーズで2番組同時録画を行う際に「録画1」と「録画2」を選択しなければならない。この仕様は二つの問題点を発生させている。一つは録画容量の問題。動画を圧縮するMPEG-4 AVCエンコーダーは「録画1」でしか使えないので、「録画2」を使うと容量を消費するDRモードでの録画になる。録画が重なると、あまり高画質で保存しなくてもいい番組までDRモードで録画しなければならなくなる。
二つ目は録り逃しの発生だ。「録画1」を使って時間の連続した番組を録画予約したとする。この二つの番組に時間変更が発生すると、録画ミスが発生する。これを筆者は“玉突き変更”と呼んでいる。もしレコーダーに「録画1/2」という仕切りがなければ、自動で振り分けて録画ミスを回避できる場合が多い。これはソニーのアナログ時代のレコーダーでは完成していた機能だ。原因は「録画1」にしかMPEG-4 AVCエンコーダーが搭載されていないので、予約が重なっても振り分けできないための課題だ。
すでにシャープ、パナソニックからはMPEG-4 AVCのエンコーダーをダブルで搭載したレコーダーが発表されている。これらの製品の場合、繰り返し予約の録り逃し精度はBDZシリーズを大きく上回るはずだと筆者は考えている。かつては録り逃しが最も少ない、優秀なアナログレコーダー「RDR-HX92W」などの名機を産んできたソニーだけに、現在の仕様は残念に感じる。
・番組表の操作性
録画好きにとって重要なのが番組表の操作性だ。なかでもマストな機能だと感じているのが「チャンネル別番組表」だ。現在のBDZシリーズは「日にち別表示」しかできない。「チャンネル別番組表」とは同一局を1週間分・1画面で表示する機能だ。東芝のRDシリーズは早くから採用してきた機能だが、最近ではパナソニックが対応している。
チャンネル別表示ができると「有料放送の予約」が格段に便利になる。WOWOWやスターチャンネルなど目的を持って録画予約する場合は、日にち単位で区切るよりも「1週間でどんな番組が放送されるのか」ということが、一目でわかった方が快適だと筆者は感じている。今後、BSデジタル放送などが充実するにつれ、使用頻度が増すであろう機能なので、これはいち早く対応して欲しいところだ。
・おでかけ転送をもっと便利に
筆者が惚れ込む「おでかけ転送」機能だが、「PSP」、「携帯電話」、「ウオークマン」でそれぞれ動画の形式が異なるのが不便だと感じている。現在は初期設定でそれぞれの持ち出しファイル形式を指定するのだが、日ごろPSPモードにしていて、「音楽番組だけウオークマンで持ち出したい」となった場合、実時間での再変換が必要になる。これが厄介だ。デフォルトの持ち出し設定ができる仕様はそのままに、予約時に個別の番組単位で持ち出しのファイル形式を指定できるようになればもっと良いと思う。
以上が筆者がBDZシリーズに感じているささやかな不満点だが、恐らくBDZユーザーの中には同じようなポイントを不便に感じているユーザーも少なくないと思うがいかがだろうか。とは言え、BDZシリーズによるスカパー!HD録画は概ね快適に楽しむことができるし、BDディスクにアーカイブできる点、さらにはPSPなどへ持ち出せる機能のメリットはとても大きい。これらの魅力を考慮すれば、新しいBDZ-RXシリーズは“買い”の一台だと言えるだろう。
(レポート/鈴木桂水)