電力線をLANケーブル代わりにしてインターネットを利用する、PLCアダプター実験編の第2回目。前回はその仕組みと、セットアップの方法などを中心にご紹介したが、今回はいよいよその実力を試してみたい。
前回のレポートで報告した通り、アイ・オー・データ機器のHD-PLC方式採用のPLCアダプター「PLC-ET/M」シリーズのセットアップについては、ちょっとした設定を終えて親機と子機をコンセントに差し込めば使い始められた。しかし、個人的にこの実験は気が重かった。なぜかと言うと、親機と子機の接続は、壁にあるコンセントに直接差し込まなければ最適なパフォーマンスが得られないのだ。ところが僕の家にはタコ足化していないコンセントがほとんど無い。どうやって配線を整理してテーブルタップなどを介さない“一番搾り”的なコンセントを作るかが大問題だった。さらに同じ場所で通常のLANケーブルによる接続もできないといけない。思ったよりも制約は多かった。
いろいろ思案した末に、キッチンの調理器具用コンセントとバスルームのコンセントを一時的に開けて使うことにした。
子機をコンセントに差し込みパソコンとLANケーブルで接続する。これであっさりとインターネット接続が完了した。気になる通信速度を無料動画配信サイト「GyaO」のスピードテストを使って計測した。テスト環境はNTT東日本のBフレッツ・マンションタイプで契約している。
まずLANケーブルでの接続を計測したところ31.655Mbpsだった。次にPLCアダプターでの速度を比較したところ17.654Mbpsだった。もっと実行速度が落ちるかと思ったが、この速度ならWebページの閲覧には十分実用的だろう。
一度設定を済ませれば、PLCアダプターの子機を家中のどのコンセントに差し込んでもネット接続はできる。せっかくなので、壁のコンセントに差し込んだ6口のテーブルタップにつないでテストしてみた。すると、意外にも直接接続したよりも速い19.543Mbpsもでているではないか。この約2Mbpsの違いは接続時のトラフィックによるもので、タコ足もコンセント直での接続もさほど結果は変わらないようだ。
PCによるインターネット接続については問題なく使えることがわかったので、次はAV機器で使用してみた。インターネットに接続して活用したいAV機器と言えばアレしかない。そう、東芝のRDシリーズだ。電子番組表の取得から対応機器間での録画番組の転送までこなすHDD&DVDレコーダーだ。最新モデルの「RD-S600」が手元にあったので、これを使ってテストをした。
このRDシリーズには映画の予告編や番組紹介などの動画を専用サイトからダウンロードできる「クリップ映像ダウンロード」という機能がある。これを使って約2分の予告編をダウンロードする時間を計測した。
レコーダーもパソコンと同じ要領でPLCアダプターを介してインターネットに接続したところ、こちらもあっさりとつながった。2分の動画をダウンロードするのにかかった時間は約10分だった。ちなみにLAN接続でのダウンロードは約8分だった。標準的なダウンロード時間は7分ということなので問題なく使えそうだ。PLCアダプターを近接するコンセントにつないだ状態で映像の再生を行ってみたが、気になるノイズは確認できなかった。
家庭内の電力線を使ってデータ通信を行う技術ということで、PLCアダプターが他のAV機器におよぼす映像・音声へのノイズが気になったのだが、今回の実験の範囲では他にもテレビ、FMラジオでテストを行い、大きなノイズの影響は見つけられなかった。ただ一般的にはアマチュア無線への干渉なども指摘されているので注意して使いたい。
まさに「案ずるよりも産むが易し」で、HD-PLC方式採用のPLCアダプター「PLC-ET/M」シリーズのテストを終えた。コンセントに差し込むだけでネットができるのはとても快適だと感じた。とくにAV機器のセットアップを苦手とするユーザーには、普及に期待が高まることだろう。初心者だけでなく、ヘビーユーザーにもメリットは多い。最近のAV機器、特に地デジ対応のAV機器にはLAN端子が欠かせない。PLC機能が普及すればLAN用のハブに群がるケーブルを一掃できる。いまのところワイヤレスLANよりも高価だが、将来AV機器に内蔵されるようになれば、家庭の配線も様変わりするだろう。今後の関連製品の価格動向と、普及の進み方が楽しみな規格だ。
−次号の掲載は3月20日(火)を予定しています。どうぞお楽しみに!−