地上デジタル放送の受信エリアが広がるのと同時に、フルHD表示に対応した薄型テレビの価格もみるみるうちに下がってきた。すでに40インチクラスでもインチあたり1万円を切っており、フルHDの世界は以前に比べてかなり身近になってきたように思う。
しかし、いざフルHD環境が整ってみると、その美しい映像を存分に楽しむコンテンツがまだ少ないことに気がつく。地デジもすべてがハイビジョン番組ではなく、いまだに両脇に帯が入るSD放送の番組が多い。BDやHD DVDなどのセルソフトも出てきてはいるが、市場が成熟したDVDに比べればまだその数は少ない。
そんな思いを感じざるを得ない今、それならばいっそうハイビジョンムービーカメラで、フルHDのコンテンツを自分で撮影して、楽しんでみてはいかがだろうか。実はこれがとても楽しいのだ。とにかく解像度が高いので目で見たままの高精細な映像が撮影できる。作意などなくても三脚にカメラを設置して、定点撮影をするだけで日常から旅先まで、風景を額に入れて持ち運べる感覚を味わえる。
筆者も今までHi8からDVカメラまで様々なムービーカメラを使ってきたが、ハイビジョンムービーの映像に比べると、アナログの映像は一つの記録手段にしか思えなくなった。ワイド&フルHDのハイビジョンムービーなら、目にした映像だけでなく空気感までもが記録できる。大げさかもしれないが、フルHDムービーは風景に出会った瞬間の感動まで持ち帰ってきたような気にさせられるのだ。
すでにショップには数々のハイビジョンムービーが揃っている。記録メディアはDVテープ、DVD、HDD、そしてSDカードと様々だ。今回はその中からパナソニックが新たに発表した、SD(SDHC)カードに動画を記録するデジタルムービー「HDC-SD3」を使って1,920×1,080画素の「フルハイビジョン撮影」に挑戦してみたい。
本題に入る前にSDムービーのメリットをおさらいしておこう。HDDムービーやDVDムービーのように、ランダムアクセスに対応しているので、テープ式のように上書き録画をしてしまう心配がない。撮りたい時に、気兼ねなく録画ボタンを押して撮影が開始できる。テープ式やDVD式のように録画にモーターなどを使う機構部を使わないので、録画の立ち上がりが速いのも特長だ。内蔵メカも筐体内部にコンパクトに収められるので、録画系の故障が少ないというメリットもある。4GBなどの大容量SDメディアを利用すれば長時間の録画も可能だ。ただ大容量のSDメディアはまだ高価なので、メディアを交換しながらの撮影ではDVテープやDVDの方にもメリットがある。
| 記録画素数 | | SDメモリーカード |
4GB | 2GB | 1GB | 512MB |
HFモード(約13Mbps) | 1,920×1,080 | | 約20分 | 約10分 | 約5分 |
HNモード(約9Mbps) | 1,440×1,080 | 約60分 | 約30分 | 約15分 | 約7分 |
HEモード(約6Mbps) | 1,440×1,080 | 約90分 | 約45分 | 約22分 | 約10分 |
ただしメディアの価格についても、パソコンがあればSDカード内の録画データをパソコンにバックアップしておけば良い。同社から単体でSDカードの内容をバックアップするSDメディアストレージ「VW-PT2-S(実売価格4万円前後)」も発売されており、これを使えば40GBまでのデータがHDDに保存可能だ。
大容量のSDカードは純正品だと4GBで実売価格が1万7000円前後で売られているが、サードパーティーの製品なら同じ容量でも5,000円〜1万円前後の価格で手に入る。実は今回テストには純正メディアの他にサンディスクとトラセンド製の格安SDカードも使ってテストした。どれも問題なく撮影できたのだが、メーカーが動作保証をしないメディアを使うとトラブルの元になるので、格安メディア選びには十分な注意が必要だ。
撮影はとても快適だった。立ち上がりが速く、電源投入から1秒ちょっとで撮影が可能なので、撮りたい瞬間を逃さない。撮影に使うモニターは「3.0型25.1万画素の高精細ワイド液晶モニター」は画面が大きくて見やすく、パワーLCDボタン押すことで輝度が2倍になるので、明るい場所でも撮影しやすかった。
撮影画素はフルハイビジョン撮影用に開発された「テルニオン3CCD HD」を搭載。赤、青、緑それぞれ独立したCCDを3枚使用する3CCDタイプを搭載している。映像だけでなく、音声はドルビーサラウンドによる5.1ch記録にも対応しているので、迫力のある素材が撮影できる。
残念ながら今回は天候とスケジュールが合わず、ハイビジョン向きの景色を撮影することができなかった。渋々、近所の公園にある花壇でテストをすることになってしまい悔いが残っている。テスト映像には寂れた公園を吹き抜ける風の音まで、臨場感ある5.1chサラウンドで記録されており、再生するごとに寂しい気持ちになっている。
「HDC-SD3」はMPEG-4 AVC/H.264方式の技術を使ったAVCHDという規格で記録する。デジタル放送で使われるMPEG2方式のハイビジョンに比べて、データ容量を節約しつつ高解像度の映像が記録できる点が特長だ。そのため4GBの容量でもフルHD画質を保ったまま、40分もの撮影が可能になっている。ただし新しい規格だけに対応する機器がまだ限られており、一番やっかいなのが撮影した素材の再生方法だ。
■AVCHDの再生方法
1:ムービー本体とテレビをHDMI、コンポジットケーブルなどを使って接続し、SDメディアに記録した動画を直に再生する
2:BD-REメディアに記録した動画を同社のBDディーガシリーズ「DMR-BW200」「DMR-BR100」をはじめとする対応機器で再生する
3:パソコンと付属ソフトを使って12cm DVDメディアに記録し対応する機器で再生する
今のところは再生環境として上記の3つの方法が選べる。本体との直接接続は手軽だが、撮影した映像をパソコンで管理するか、複数のSDが必要になる。BDレコーダーを使う方法については、機器を所有しているユーザーならば問題ないが、ムービー優先のユーザーがわざわざ購入するのは敷居が高い。12cm DVDに記録する方法を使うと、ゲーム機「PS3」での再生が可能になる。ただし、PS3での再生についてはメーカーでは保証はしていないということなので、ユーザーにとっては心細く感じられる。今回のテストでは、SD3で撮影した映像を記録したBD-RE、DVD-Rの両方ともにPS3での再生が可能だった。
DMR-BW200を使ってSDカードの映像をBD-REへダビングする作業にも挑戦してみた。操作自体は画面に従うだけなので、とくに難しくはない。AVCHD記録するBD-REは専用のフォーマットをかけるので、通常のテレビ録画はできなくなる。できればDMR-BW200からも価格の安いBD-RやDVDメディアへの記録に対応して欲しいと感じた。
次にPCと付属ソフトを使ってSDカードの内容をDVD-Rに保存した。本機に付属するアプリケーションソフト「HD Writer 1.5J for SD/DX」を使えばDVDメディアへのAVCHD記録が可能だ。同梱ソフトの動作環境については
こちらより確認していただきたいそのほかにAVCHDからMPEG2形式のSDフォーマットのファイルに変換も可能だ。別途ライティングソフトを用意すれば、DVDビデオもつくることができる。
HDC-SD3の本体は軽くてハンドリングしやすく、SDカードへの記録もメリットが高いと感じた。画質は前モデルの「HDC-SD1」よりも大幅にアップし、製品としての魅力を増している。一度使うと手放せないぐらいのムービーと評価して良いだろう。今後は録画したムービーの再生環境が整って行って欲しい。本機で撮影したフルHDの素材を楽しむためには、パソコンとBDレコーダーをはじめとするAVCHD規格の対応機器が必要となるため、これは一般的なユーザーにとっては敷居が高い条件であると感じた。
ただし、再生環境が整いさえすれば、自分で撮影したお気に入りの映像がフルHDで楽しめる魅力は格別だ。僕がオススメする撮影スポットは動物園や水族館だ。最近では話題の動物園や水族館を記録したDVDが発売されているが、好きな動物をもう少しゆっくりと眺めていたいと思うことがある。本機を使えばお気に入りの動物を、より臨場感のある映像で撮影できるのが嬉しい。家にレッサーパンダやジンベイザメは飼えないが、ハイビジョンムービーとハイビジョンテレビがあれば、かなりリアルな自分だけの動物園や水族館を味わうこともできるようになるのだ。
(鈴木桂水)
##オマケ##
今回のテストでは前モデルの「HDC-SD1」も合わせて比較テストを行った。2機種の大きな違いは記録解像度。SD1は1,920×1,080ドットで撮影し、それを本体搭載回路で変換する事により1,440×1,080画素での記録をしていたわけだが、SD3ではその変換処理を行わず、1,920×1,080画素でのフルHDでそのまま記録する。両者の画質を比較したところ、いずれも解像感には優れていたが、画面の明るさについてSD3の方が改善されていた印象を受けた。今後、画質を優先するならHDC-SD3を購入することをお勧めする。
【フォトギャラリー】HDC-SD3は前モデルからどこが進化したのか?