ソニーからHDD搭載の単体コンポ「NAC-HD1」が発売された(
Phile-webニュース記事)。基本機能は、同じくHDDを搭載したミニコンポの“NET JUKE(ネットジューク)”シリーズの「NAS-M90HD」と共通しているが、アンプやスピーカーを廃して、本格的なコンポに組み込んで使える製品として期待も高まる。
ネットジュークシリーズでは手持ちの音楽CDをHDDに保存し、検索機能で聴きたい曲を瞬時に再生できる。まさにイマドキのジュークボックス的な製品だ。それだけでなくFM/AMチューナーを内蔵し、MP3/ATRAC/リニアPCMなどの方式でタイマー録音が可能だ。録音した音楽データはパソコンを介すことでCDメディアに保存できるなど、これまでの製品では、出来そうで以外にもできなかったことが実現されていることが、多くのオーディオファンに注目されたことだろう。
そこで今回はNAC-HD1について、
先日掲載したインタビューに加えて、実機を操作した結果をご報告し、購入を検討されている方々へのガイドとしたい。まずはミニコンポと単体コンポでは、機能にどれほどの違いがあるのか整理する。機能の違いを下表にまとめたのでご覧いただきたい。
| 発表当時価格 | システム構成 | HDD容量 | MD機能 | メモリーカードスロット | USB端子 | デジタル音声入出力 |
NAC-HD1 (>>製品データベース) | ¥110,250(税込) | 単体型コンポ | 250GB | 無 | 無 | | 有 |
NAS-M90HD (>>製品データベース) | ¥OPEN(予想実売価格100,000円前後) | システム一体型ミニコンポ | 250GB | 有 | 有 | フロント×1、リア×1 | 無 |
このように機能比較をすると、NAS-M90HDからアンプやスピーカーさらにMD機能までが省かれていながら、NAC-HD1の方が1万円も価格が高価なことに気が付く。NAS-M90HDが2006年秋発売なので、現在は市場での販売価格が下がりつつあることを考えての価格設定とも取れるが、そこで筆者は開発者インタビューの場でその理由を探ってみた。
お話を伺ったソニー(株)オーディオ事業本部 第2ビジネス部門 HDA設計課 シニアプロジェクトリーダー 関井康彰氏によると、NAS-M90HDよりもNAS-HD1の方が下記の部分が優れているという。
・高性能アンプとの接続用にデジタル入力を2系統(光同軸)で追加
・HiFiオーディオ用のトランス電源やオーディオ専用の安定化電源回路を採用し、音のにごりや劣化を防止
・64レベルΔΣモジュレーター搭載の24bit/192kHzサンプリングD/Aコンバーターを採用
・防振・防音を強化した筐体
上記のようにとにかく高音質化に力を注いだために“プラス1万円になった”ということだ。
確かにピュアオーディオの世界に、ミニコンポベースの製品が共存しようとするなら、それなりのチューンアップは必要だ。実機を見ると、内部の回路だけでなく、アルミ製フロントパネルを使用する金属筐体、そして防振効果の高いインシュレーターが装着されている。高級オーディオ機器と並べても遜色のない仕上がりといえるだろう。
ちなみに前述したインタビュー時には、本機のサウンドも確認することができた。試聴はソニーのフルデジタルアンプ「S-Master PRO」搭載のプリメインアンプ「
TA-FA1200ES」と、70kHzまで再生可能なEDトゥイーターを搭載するスピーカーシステム「
SS-K10ED」との組み合わせで行った。NAC-HD1はデジタル出力でTA-FA1200ESと接続することによってフルデジタルで音楽情報が伝送できる。その効果があり、音楽CDはもちろん、128Kbpsで記録したMP3でも、表現力豊かなサウンドが再生された。このようにデジタル接続で音楽が再生できる点も、ピュアオーディオ用に設計されたNAS-HD1の特徴と言えるだろう。
一方でNAC-HD1を使ったレビューをご紹介しようと試みた際に、ひとつ戸惑ったことがあったのだ。NAC-HD1の操作系から基本機能までGUIを使って伝えようとすると、以前本サイトでご紹介したネットジュークシリーズのコンポと変わりがないからだ。ただ以前のネットジュークが搭載していたシステムソフトから大きく変更された箇所は、かつては音楽データをウォークマンなどの携帯音楽プレーヤーにATRAC3やMP3形式で転送する場合は、コンポのHDDに取り込む前に指定するか、或いはHDDで変換を済ませてから転送する必要があったのだが、NAC-HD1採用のソフトでは、リニアPCMで記録したファイルをATRACやMP3に“変換しながら転送”できるようになった。これはシステムソフトのバージョンアップにより追加される機能なので、ネットジュークシリーズでもソフトの更新により利用できる。今回は本機能の使い勝手を中心にテストしよう。
音質重視のNAC-HD1だけに、音楽CDをほぼ劣化なく記録するリニアPCMを録音機能の中心据え置いたのは評価できる。もちろん従来どおり、ATRAC、MP3などの圧縮形式での録音にも対応するが、音質重視ならリニアPCMでの録音が理想だ。
搭載する250GBのHDD容量を活かして、音楽CDをリニアPCMで録音し、必要なときだけ圧縮データに変換してウォークマンに転送し聴く、そんな適所適材的な使い方は、デジタルオーディオ機器の理想的な使用方法といえるだろう。
テストには個人的にブームが来ている「レディオヘッド」のCD2枚(『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』、『OK コンピューター』)を選んだ。これをNAC-HD1のHDDに記録し、その後ウォークマンA800シリーズへ転送し時間を計測した。その結果を下表にまとめた。
| 収録時間 | HDDへの転送時間 | HDD→ウォークマン(MP3/128Kbps) |
『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』 | 56分36秒 | 9分34秒 | 5分24秒 |
『OK コンピューター』 | 53分22秒 | 11分18秒 | 5分8秒 |
※転送速度の計測にはコピーコントロールCDを使用
HDDにはリニアPCMで記録されているので、HDDからウォークマンへの転送時には「リニアPCM→MP3」への変換が行われている。そのため、転送には5分少々の時間がかかった。せっかくなのでHDD上にMP3で記録していた音楽ファイルも転送して時間を計測した。リニアPCM→MP3で5分24秒かかった『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』でテストしたところ、MP3→MP3の無変換転送では1分32秒しかかからなかった。
アルバム1枚の転送に5分かかるのはちょっと長いと感じるかもしれないが、再変換がかかるので仕方がないだろう。このあたりは家でのリスニング用途をメインに考えるならリニアPCMでの記録を、ウォークマン転送のためのデータサーバーとして使うならMP3やATRACでの記録と、割り切って使えばよさそうだ。もしウォークマン用の音楽データサーバーとしての用途が中心になるのであれば、高価なNAC-HD1よりも価格の安いネットジュークシリーズを選んだ方がいいだろう。テストをしてこのあたりの判断が機種選びに直結すると感じた。
これ以外にテストをしていて幾つか気づいたことがある。筆者がテストに使った『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』は、コピーコントロールCDだったのだ。ご存じのとおりコピーコントロールCDは一部の裏ワザを使わない限り、パソコンを使ってリッピングはできない。そのためこのアルバムはウォークマンへの転送はあきらめていたのだが、NAC-HD1を使うと通常のCDと同じように扱えた。全部のコピーガードCDに対応するか定かではないが、かなり使える機能だと感じた。
とにかく手持ちの音楽CDが増えると、聴きたい曲がすぐに見つからなくなるのが悩みだ。筆者の場合は押し入れ、さらにレンタル倉庫に保管しているので、聴きたいCDが見つからないときは、再度購入することすらある。NAC-HD1のリニアPCM録音機能を使ってすべてをHDDに保存すれば、無意味なCD探しも不要になりそうだ。
NAC-HD1が搭載する250GBのHDDにリニアPCM形式で音楽CDを約380枚記録できる。この枚数は音楽好きにすれば決して多くはないだろう。ぜひ次のモデルではHDDの増設機能に対応して1,000枚、2,000枚と音楽CDを記録できるように進化して欲しいと願っている。
【追加レポート】NAC-HD1の「CD→HDD」読み込みを再検証した(6/4)
本レポートの5月29日公開時点で、CDからHDDへの記録速度を測定した内容を報告した。HDDへの記録にはリニアPCMを選択し、英国のロックバンド、レディオヘッドのCD『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』と『OK コンピューター』だったが、そのときの記録速度が約5倍速であったとお伝えした。NAC-HD1のドライブは約16倍速でCD→HDDへの読み込みが可能なはずだったので、このテスト結果についてソニーに問い合わせたところ、以下の状況では読み込み速度が遅くなるということがわかった。
・読み込み設定が「モニター音:再生」になっている場合
・コピーコントロールCDを読み込む場合
・キズの多いCDを読み込む場合
上記の状態では最大速度での読み込みはできないとのことだった。今回テストに使った『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』はコピーコントロールCDだったが、『OK コンピューター』には特にその表記はなかった。ただ盤面を見ると、若干のキズがあり、これが影響したものと思われる。
大量のCDをHDDに記録することが想定されるNAC-HD1だけに、CDの読み込み速度は重要なスペックであると考え、今回、新品のCDを使って追加テストを行った。
| 収録時間 | HDDへの転送時間 |
『タワーレコード RCAプレシャス・セレクション1000 No.21(ロドリーゴ:アランフェス協奏曲ほか)』 | 64分5秒 | 4分36秒 |
『ジョゼフ・アレッシ〜“Return To Sorrento(帰れ、ソレントへ)”』 | 68分19秒 | 5分27秒 |
『タワーレコード RCAプレシャス・セレクション1000 No.21』は約16倍速で読み込んでおり、『ジョゼフ・アレッシ〜“Return To Sorrento(帰れ、ソレントへ)”』は約14倍速での読み込みだった。16倍速での読み込み速度は確認できたが、すべてのCDを最大速度で読み込むわけではないようだ。本テストの結果がご購入時の参考になれば幸いだ。
−次号の掲載は6月12日(火)を予定しています。どうぞお楽しみに!−