映画館のスクリーンに映し出されるようなハイクオリティな映像が自宅で再現できる━━そんな夢を実現するためにパイオニアが開発した製品がBlu-ray Discプレーヤー「BDP-LX70」だ。昨今のデジタル技術の進化により、AV機器が急速に高画質・高音質化する中、パイオニアはより上を目指した“フイルムクオリティの質感再現”にとことん力を入れている。今まで映画館のスクリーンと同等の質感を家庭のAV機器で再現するのは不可能と思われていた。理由はフィルムの撮影コマ数と、テレビ表示のコマ数に違いがあったからだ。
パイオニアのBlu-ray Discプレーヤー「BDP-LX70」は、フィルムの質感をそのまま表示できる1080/24pダイレクト出力に対応した。その表現力は「映像制作者のこだわりや意図を、ディテールまで忠実に再現できる」という。本製品の開発背景や魅力の詳細を明らかにするため、今回製品の開発スタッフへインタビューを行った。今回お話を伺ったのは、「BDP-LX70」の商品企画を担当したホームエンタテインメントビジネスグループ AV企画部 ビデオ企画課の渡辺賀之氏、同グループ AV技術統括部 ビデオ設計部 副参事の深津康雅氏、並びに同グループ ソフトウエア技術統括部 ソフトウエア技術統括部 ソフトウエア第二設計部 設計四課 舟橋健二氏の各氏だ。
━━まずは「BDP-LX70」の開発コンセプトについてお聞かせください。
渡辺氏:パイオニアというブランドに多くの方々が求めているのは“ハイクオリティ”ではないでしょうか。すでに各社からBlu-rayディスクの再生に対応した製品が登場していますが、いま我々が作るべき製品は、頂点のクオリティを備えたBDプレーヤーであると考えました。高画質・高音質にとことんこだわって完成された「BDP-LX70」では、制作者の想いまでもありのままに再現する「Master Quality」の再現を目指しました。そのために欠かせなかったのが1080/24pダイレクト出力とドルビーTrueHDへの対応です。
━━1080/24pダイレクト出力とはどんな機能なのでしょうか。
渡辺氏:1080/24pダイレクト出力は、ディスクに記録された映画などのフイルム素材を、映画館のスクリーンに映し出される質感のままで再生するための機能です。映画は1秒間に24コマで撮影されたフイルムを、フリッカー(チラツキ)を抑えるために、倍の48コマ/秒で上映しています。
渡辺氏:Blu-ray Discビデオ(以下、BDビデオ)やDVDビデオの作成もフィルム映画の上映と流れは同じですが、ディスクに記録する際には24コマ/秒で記録します。BD、DVDともにディスクに記録されている状態はフイルムと同じなのです。
渡辺氏:一方でテレビ放送の場合は1秒間に60コマの映像ですので、1秒間に24コマの映画フイルムの映像とコマ数が異っています。通常のDVDプレーヤーではこの1秒あたりのコマ数の差を2-3プルダウンという方式で1秒間60コマの映像に変換し、ディスプレイに出力していました。しかしこの方式では映像の輪郭がぼやけたり、フイルム素材独特の表現が失われてしまいます。
渡辺氏:「BDP-LX70」は1080/24pダイレクト出力の実現により、24コマ/秒のフイルム映像が持つ雰囲気をそのまま再現できるようになりました。この24pダイレクト出力の機能に、72Hz駆動(24×3)に対応するパイオニアのプラズマディスプレイ「PDP-5000EX」を組み合わせることにより、高品位な1080/24p映像を楽しむことができます。
ここで1080/24pダイレクト出力と従来の1080/60p出力の違いを比べてみた。「PDP-5000EX」を2台用意し、1台には「BDP-LX70」を接続、もう1台には1080/60p出力のDVDレコーダーを接続して表示テストを行った。素材はBDタイトル『007 カジノロワイヤル』を使用した。
視聴を始めて真っ先に感じるのは映像の情報量の多さだ。作品中に多くの人が行き交う広場を、引いたアングルで映すシーンがあるが、そこでは1080/24pダイレクト出力でみた映像の方が人の数も多いのではないかと思ってしまうほど、米粒サイズの人間の映像も立体的に表示する。一方で1080/60p出力対応のDVDレコーダーの方ももちろん優れた再現力を持っているのだが、1080/24pダイレクト出力の映像と比べると平板で輪郭のシャープさに物足りなさを感じてしまった。
これはプレーヤー側の特性かもしれないが、発色も「BDP-LX70」の方が抜きんでているように感じた。赤や緑などの表示で鮮やかさが際立ち、画面全体が生き生きとしている印象を受けた。場面を左右に舐めるように撮影するシーンでは、フィルム素材独特の動画再生感や質感が味わえる。このあたりが映画館の雰囲気をそのままに再現した映像であると言えるだろう。
━━従来機で1080/24pダイレクト出力が行えなかったのはなぜでしょうか。
深津氏:大容量のデジタル信号を安定して伝送できるHDMI端子の採用と、受け手側であるテレビの進化によるところが大きいと思います。もちろん膨大なBDの映像、音声信号を処理するためにプレーヤーにも高度な処理能力が求められますが、1080/24pダイレクト出力がやっていることは、BDやDVDに記録された情報を、そのままテレビに送り出すことです。情報を受け取る側のテレビとのマッチングも重要になります。プレーヤーからテレビ、オーディオ機器まで、一貫して設計・開発を手がけているパイオニアだからこそ実現できた機能であると考えています。
渡辺氏:「BDP-LX70」はさらにドルビーTrueHDのデコードに対応しています。映画の制作現場では音声を非圧縮のリニアPCMで録音しています。従来の方式は非圧縮の音源をドルビーデジタルなどの圧縮音源に変換していたため、製作者の意図したサウンドをそのままに再現することはできませんでした。ドルビーTrueHDは最高192MHzのサンプリングレートでの記録が可能なうえ、可逆性の圧縮方式なので原音を100パーセント復元して再生できます。ドルビーTrueHDに対応したプレーヤーとアンプが揃えば、制作現場の音を自宅で再現して楽しめるのです。また「BDP-LX70」はデコードしたドルビーTrueHDのサウンドをリニアPCMに変換し、HDMIから出力することも可能です。
━━ホームネットワーク機能の「Home Media Gallery」について教えてください。
舟橋氏:「Home Media Gallery」はパソコンと家電を結ぶDLNAガイドラインに準拠したホームネットワーク機能です。最近では携帯音楽プレーヤー、動画配信などの普及により、カジュアルなAV機器としてパソコンを活用するユーザーが増えています。しかし一方でパソコンを軸にしたAV再生環境は便利ではありますが、高音質・高画質といった意味では物足りなさを感じることも多いのではないでしょうか。またAV機器とパソコンが別々の部屋にあり、それぞれが個別に使われているのも勿体ないと感じます。「Home Media Gallery」を使うことで、パソコン内に保存した動画・音楽・デジカメ写真などが「BDP-LX70」で一括管理・操作して、AVアンプや大画面テレビと組み合わせてリビングで楽しめるようになりました。動画はMPEG2とハイビジョンファイルを含むWMVの再生にも対応しています。
「Home Media Gallery」を使えば書斎に置いたパソコンと「BDP-LX70」をLANで接続することで、パソコン内の各種ファイルをリビングにいながらにして楽しめる。今回はわずかな時間だけでしか本機能が体験できなかったが、メニューがわかりやすく使いやすい印象を受けた。
その他、「BDP-LX70」の機能でユニークだと感じたのは、動画の再生中にリモコンの「Output Resolution」ボタンを押すことで表示解像度を簡単に変更できる機能だ。素材によって最適な表示解像度を切り替えたいという、こだわり派には重宝する機能だろう。また裏コマンドとして、ディスクの再生中に「Home Menu」→「Video/Audio Adjust」→「Video Adjust」にカーソルを合わせ黄色ボタンを押すと、ディスクのコーデックを画面に表示できる。これもマニアならばぜひチェックしておきたい機能だ。
「BDP-LX70」の1080/24pダイレクト出力機能は、想像以上にその効果が感じられた。ハイクオリティのビジュアルとサウンドが当たり前になる次世代フォーマットの再生環境にあって、作品が本来持つ質感にこだわった“粋”な技術だと感じた。今回は時間の都合でわずかな視聴時間しかなかったが、またぜひ本機でお気に入りの作品をじっくりと鑑賞したいと感じた。
「BDP-LX70」は、いまプラズマテレビを中心としたホームシアターの導入を検討しているのなら、真っ先にチェックすべき製品だと感じた。現在は1080/24p出力の画質をフルに楽しむためにはPDP-5000EXとの組み合わせが最適であるが、近い将来には同社からも対応するテレビが追加されるとのことだ。パイオニアの次世代AV機器とその技術背景に迫る「特別編」の第2回レポートでは、最新のAVアンプ「VSA-AX1AH」の実力に迫ってみたい。