テレビの機能だけでVOD(ビデオ・オン・デマンド)機能が楽しめる「アクトビラ」の有料動画配信が、いよいよ11月1日に本格スタートした。
アクトビラを簡単に説明するなら、対応するテレビにインターネット回線を接続するだけで動画配信が楽しめるというサービスだ。現時点で対応するテレビがパナソニック、ソニー、シャープ、東芝、ビクターなどから発売されており、今後も対応機種は増える見込みだ。
アクトビラのサービスには文字と静止画だけの「アクトビラ ベーシック」、SD動画の「アクトビラ ビデオ」、そしてフルHD表示の「アクトビラ ビデオ・フル」の3種類があり、それぞれのサービスごとに対応するテレビがある(アクトビラ ホームページの「
対応テレビ一覧」)。
すでに「アクトビラ ビデオ」、「アクトビラ ビデオ・フル」を併せて、映画・アニメ・音楽などのコンテンツが300本近く配信されている。12月中にはさらに300本以上のコンテンツが追加される見込みだという。これまでにも“おうちで映画をレンタル”をコンセプトに掲げた幾つかのVODサービスが生まれてきたが、なかなか成功例を見ることがなかった。アクトビラはそのスタートを見る限りでは、他にはない勢いを感じるサービスだ。そこで、今後のアクトビラのサービス展開と、ラインアップされる予定の作品について(株)アクトビラの代表取締役副社長 久松龍一郎氏に伺った。
━━11月のサービス本格稼働後から、既に約300タイトルの配信が完了しているそうですが、スタートアップタイトルの中から見どころとなる作品を教えてください。
久松氏:まずは映画と考え、ハリウッドの注目タイトルを含む作品を充実させました。今回はソニーピクチャーズ、ユニバーサル、パラマウントの3社からご提供いただきました。VODサービスの作品は「レンタル店に新作として並んでから90日後から配信可能」というルールがあります。今回アクトビラでは、この規定に従いつつ最速となる「90日後」から、ウィル・スミス主演『幸せのちから』、CGのグラフィックが素晴らしい『モンスター・ハウス』、アクション映画ファンに人気の高いスティーブン・セガール主演『沈黙の奪還』の3作品をご提供することができました。家族愛をテーマにした人気作品『幸せのちから』は、現在もなおレンタル店で安定した稼働率をあげています。その他にも、アニメチャンネルでは劇場版『機動戦士ガンダム』の3部作すべてを揃えました。
━━特に人気の高い作品はありますか。
久松氏:まだ本格稼働がスタートしたばかりですが、今のところでは先ほどご紹介しましたハリウッドの3作品は人気が高いです。それからやはり“ガンダム”は強いですね。劇場版の他にOVA版『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』も配信していますが、こちらも人気があります。本作品は全6話構成なので、1話ごとの配信の他に、全話パッケージなども用意されています。また、NHKのドキュメンタリー作品も強いですね。『NHK特集』、『プロジェクトX』などのドキュメンタリーが中心ですが、1本210円から315円という視聴料金ですので、気軽にお楽しみいただけているようです。NHKの作品の中では、特にハイビジョン映像が存分に楽しめる『宇宙 未知への大紀行』の人気が高いですね。本作は全7話構成の中から第1話を無料配信としていますので、続けて有料サービスをお楽しみいただくという方も多いようです。
意外に思われるかもしれないが、筆者がアクトビラのコンテンツとして、将来大いに注目しているのはNHK関連の番組の動向だ。今年の初夏に開催された「NHK技研公開200」のイベント会場では、NHKの貴重な番組アーカイブをインターネットを使って提供する「アーカイブス・オンデマンド・サービス」のサービスモデル(
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NHKの番組には秀作が多く、特にドキュメンタリー番組のクオリティは世界でもトップクラスだ。それらのコンテンツをすべて録画していたらキリがないが、もしも200円〜300円の価格帯で、好きな時にNHKの番組がハイビジョン画質で楽しめるとしたら、レコーダーにかかる負担も軽減できそうだ。「定番コンテンツは自分でアーカイブしなくても、必要な時にVODで視る」、これが理想的なテレビとの付き合い方ではないだろうか。
ちょっと脱線するが「VODサービスが本格普及したら、レコーダーは不要になる」という意見を時折耳にすることがある。筆者はそれはあり得ない話だと思っている。テレビの楽しみは生放送やちょっとした隙間に放送されるミニ番組にあったりする。VODとは言え限界はあるもので、すべての番組がアーカイブできるわけではない。例えばいま筆者がハマっているテレビ東京の深夜番組『もやもやさまーず 2』とか『碑文谷教授のミッドナイトゼミナール 今さら人に聞けない!怒らせ方講座』のような、ニッチな番組が今後VOD化されるかと言えばかなりビミョウだろう。まじめな話、ミュージシャンの権利関係が複雑になる『ミュージックステーション』などは、VODで提供するのが難しいかもしれない。そう考えるとVODが本格化してくれれば、レコーダーファンはよりニッチな録画に専念できるはずだ。ではインタビューに戻ろう。
━━今後はどんなコンテンツを充実させる予定ですか。
久松氏:映画はこれからも力を入れていきます。あとはアクセス数が多いNHKのドキュメンタリーも増やして行きます。現在の時点でジャンルとして抜けているのが「スポーツ」なのですが、これは来年にかけて充実させて行く予定です。VODでスポーツ番組は成功しづらいと言われますが、たとえばサッカーのゴール集だったり、自動車レースの名場面集などであれば、気軽に楽しんでいただけるものと考えています。
━━利用料金について伺います。映画1本が525円というのは少し高い気もしますが、いかがでしょうか。
久松氏:料金については様々なご意見をいただいています。まだサービスがスタートしてから間もないので、価格体系については様子を見ながら決めて行きたいと考えています。値段が高いというご意見については、DVDビデオのレンタルと比較した場合ということだと思いますが、DVDビデオをレンタルする際にも新作はだいたい400円台です。お客様はお店まで足を運んでソフトを借りて、後で返却しなければなりません。また、せっかくソフトが安く借りられても、見る時間がなく返さざるを得なくなったり、忙しくて返却できずに、レンタル料よりも高価な延滞金を払わざるを得なくなったという経験はありませんか。アクトビラのVODサービスならば、家にいながら見たいときに楽しめるので、そのような煩わしさがありません。それから、一番需要なのは「アクトビラ ビデオ・フル」のコンテンツはフルHD画質で楽しめることです。まだBDやHD DVDのレンタルソフトは普及していませんので、気軽にフルHDで映画が楽しめるのはアクトビラならではです。そう考えれば、現在ご提供しているサービスの料金体系はご納得いただけるものと思っています。
━━欲を言えば、やはりレンタル店のようにセット割引やポイントサービスなどがアクトビラでも提供されれば、なお嬉しいところです。できれば一度視聴したコンテンツを、2回目以降見る時に割引が適用されるようなサービスは実現できませんか。
久松氏:それは大いに可能です。ただいまアクトビラでも会員制のサービスを検討している段階です。会員制であれば決済も簡略化できますし、ポイントサービスにも対応できます。こちらは具体的な方向性が明らかになりましたらご紹介したいと考えておりますので、まずは本格サービスを始めた今のアクトビラのサービスを楽しんでいただきたいと思います。この冬発売されるモデルにも、アクトビラのサービスに対応するテレビが増えています。アクトビラ対応機をご購入された際にはぜひ、LANケーブルをつないでアクトビラのサービスをお楽しみ下さい!必ずや皆様にとって、新しいテレビのトビラが開くはずです。
久松氏の話をうかがっているとアクトビラの勢いを感じる。確かにハイビジョンコンテンツが少ない現状を考えれば、準新作ながらも話題作がハイビジョンで楽しめる意義は大きい。
アクトビラを利用するならば、やはり「アクトビラ ビデオ・フル」でないと楽しくない。ただし残念ながら「アクトビラ ビデオ・フル」に対応するのは、現時点では各社の上位機種のみだ。これが実にもったいないと筆者は感じている。というのも、VODにはグラビア、アニメなどかなり趣味性の強いコンテンツも揃っているからだ。例えばお父さんが“お色気ムンムン”のグラビアをリビングの高級大型テレビでは見づらいだろう。やはり自室用の20〜26型クラスのパーソナルテレビでこそ、“その手”のコンテンツは普及するのではないだろうか?
それだけでなく「ビデオデッキすら家に置きたくない」というシンプルライフ派の単身者にこそ、VODは魅力的に感じるのではないだろうか。ならば20インチクラスで「アクトビラ ビデオ・フル」対応機が増えないことには機会損失になるはずだ。ぜひ「定番コンテンツはVODで」楽しめるような世の中が来るよう、アクトビラのサービスに今後も大いに期待したいところだ。
−次号の掲載は11月27日(火)を予定しています。どうぞお楽しみに!−