前回に引き続き、各メーカーから発売されている薄型テレビ2007年・冬モデルの「買いのポイント」をチェックしていこう。なお、筆者による今年の冬モデルの「トレンドとなる機能」の分析については、
前回記事を参照していただきたい。
■機能面での進化と多彩な提案に注目したいソニー“BRAVIA”シリーズ
BRAVIAは高画質の「Xシリーズ」と、同等のスペックを備えつつデザイン性を優先した「Wシリーズ」、スタンダードクラスの「Vシリーズ」、普及モデルの「Jシリーズ」がある。
BRAVIAシリーズは豊かな発色を実現する「ライブカラークリエーション」、高画質回路の「ブラビアエンジン」そして、倍速駆動の「モーションフロー」の有無でグレードが決まっている。例えばX5000シリーズはハイビジョンをより繊細に表示する「DRC-MF v2.5回路」を搭載する「BRAVIAエンジンPRO」と、動きに強い120倍速駆動の「モーションフロー」に対応する。一方普及モデルのV5000シリーズは映像処理機能を簡略化した「DRC-MF v1」採用の「BRAVIAエンジンEX」を搭載する。倍速駆動のモーションフローは搭載しない。実際に「KDL-40X5000」と「KDL-40V5000」を見比べると、KDL-40X5000のほうが表現力は豊かで美しい。画質を優先するならXシリーズで間違いないが、ショップによっては約10万円の価格差があるので、どちらを選ぶか悩みどころだ。
機能面では無線を使った「おき楽リモコン」がユニークだ。AV機器のリモコンといえば赤外線を使ったものが一般的だが、おき楽リモコンはワイヤレスLANと同じ2.4GHz帯の無線を使っており、リモコンをテレビに向けなくても操作できる。その電波は非常に強力で、隣室からも操作できるほどだ。赤外線に比べて反応が早く、操作時のイライラも皆無で快適。すべてのリモコンがこの方式になればいいのにと思わされる。
豊富な周辺機器を備えるのもBRAVIAシリーズの特徴だ。別売のハイビジョンHDDレコーダー「BRX-A250」を接続すればBRAVIAリンク、おき楽リモコンを使って録画・再生が可能。おき楽リモコンの「リプレイ」「見て録」などの機能も利用できる。
ここからは筆者の感想だ。カタログなどを見ると「まるでHDD一体型テレビのようにハイビジョン映像を録画・再生できる」とあるが、実際にHDDを内蔵する東芝、日立などの製品に比べるとBRX-A250の操作は複雑だ。BRX-A250にはチューナーも搭載されており、単体でハイビジョン対応のHDDレコーダーとして使える。じつはこれが不便のタネになっている。
放送中の番組をテレビのリモコンで、そのまま録画することはできるが、番組予約となるとBRX-A250の番組表を使って、予約することになる。HDDを内蔵するテレビは、“テレビの番組表”から予約ができるので操作に優れるのだが、「BRAVIA+BRX-A250」では、録画予約をするのにBRX-A250の番組表を立ち上げ、そこから予約することになる。実際に使ってみればわかるのだが、HDDを内蔵するテレビや東芝REGZAの“Z3500シリーズ”のような外付けHDD対応モデルと比べると、使い勝手に疑問が残る。BRX-A250に録画した番組は、外部のレコーダー等にムーブできないので、見たら消すだけの“死蔵コンテンツ”になるのも残念だ。
テレビを知り尽くし、そして“CoCoon”、“スゴ録”シリーズでテレビ録画の魅力を提案し続けているソニーらしからぬ仕上がりだと感じた。BRX-A250を購入するなら、素直にBRAVIAリンクで操作できるBDレコーダーの“BDZシリーズ”を購入したほうが快適だろう。
ハイビジョン映像を好きなときに楽しめる話題のサービス「アクトビラビデオ・フル」などのVODを簡単に利用できる“ネットワークTVボックス”の「BRX-NT1」にも注目したい。BRAVIAシリーズは「アクトビラビデオ」までに対応する製品はあるが、全画面でハイビジョン映像を楽しめる「アクトビラビデオ・フル」がテレビ単体で楽しめる機種は現時点ではない。このBRX-NT1を対応するBRAVIAに接続すれば、アクトビラの全サービスだけでなく、ソニーの動画共有・配信サービスの「アイビオ」、海外ドラマ、アニメが定額見放題の「オンデマンドTV」、ライブやドラマなどを無料配信する「GYAO」、映画などの定額配信をする「GYAO NEXT」、海外ドラマ、アニメを有料販売する「クラビット・アリーナ」そしてテレビゲームが楽しめる「Gクラスタ」を1台の端末で楽しめる。こちらの機能もおき楽リモコンの専用ボタンで操作可能だ。
不平を連ねたBRX-A250に比べ、BRX-NT1は実に魅力的な製品だ。というのもこの製品はBRAVIA以外のテレビでも利用できるのだ。いままVODサービスといえば専用のSTBが必要で、複数のサービスに加入することのは敷居が高かった。このBRX-NT1なら一台で、普及のVODサービスをザッピングして使える。価格は2万円台前半と安いこともあり、筆者は既に購入済みだ。BRX-NT1については近日中に操作性などをお伝えする予定なのでお楽しみに。
BRAVIAシリーズは全機種でルームリンクに対応する。DLNA規格に準拠したレコーダーとLAN接続すれば、離れた部屋にあるレコーダーの録画番組を再生できる。これはかなり便利。とくに寝室や書斎など用のパーソナルテレビを選ぶときに重宝する。
BRAVIAシリーズの売れ行きを店頭で取材すると、高画質モデルのXシリーズの売れ行きが好調という。その理由としてVシリーズには倍速駆動のモーションフローが省かれており、せっかくなら画質の良い機種を、と最上位モデルが選ぶ人が多いそうだ。前述したようにこのあたりは予算との相談だろう。ただVシリーズでもソニーらしい発色で、画質は上々。XシリーズとVシリーズを並べないかぎり違いはわからないかもしれない。またソニーは他社で売れ筋の37型がラインナップになく、32型から40型へと一足飛びでサイズアップする。価格帯は37型と同等なので、予算を抑えつつ、少しでも大画面の製品を狙う人にもオススメだ。
BRAVIAシリーズは機能面での進化を優先させた印象を受ける。とくに無線を使ったおき楽リモコンは成功しており、その使用感は秀逸だ。来年以降は他社も類似したリモコンを付属させるかもしれない。ほかにも対応するデジカメで撮影した写真を美しく表示する「ブラビアプレミアムフォト」機能などを搭載する機種もある。用途に合わせてテレビを選べる、それがブラビアシリーズだ。
■薄型テレビの最新トレンドをいち早く採り入れた日立の“Wooo UTシリーズ”
「すべてのテレビが、嫉妬する」━━そんなキャッチコピーで登場した日立の薄型テレビ“Wooo UTシリーズ”。日立はこの製品が注目株だ。液晶パネルの厚みは35mmしかなく、チューナー部をセパレート化することでパネル部を軽量化した。これにより大がかりな設置用の基礎工事をしなくても、壁掛けが可能になった。
パネル部とチューナー部は無線伝送で接続するので、ワイヤレスでの設置が可能。到達距離は9mなので、屋内を自由に移動できる。このワイヤレスによるハイビジョン画像の転送は、薄型テレビのメリットを活かすにはもっとも効果的な方法だ。来年以降は類似した方式でワイヤレス&セパレート型という製品が続々と登場するのではないだろうか。
読者の中には「チューナー一体型でも薄くて軽ければセパレートにしなくてもいいのでは?」と思う方もいるだろう。確かにそうなのだが、厄介なのがテレビに接続するレコーダーなどのAV機器だ。どんなに薄くしても、テレビの側にレコーダーなどのAV機器を置かざるを得ない。Wooo UTシリーズはチューナー部に接続したAV機器の映像もワイヤレスで飛ばせるので、テレビ+AVラックという従来のレイアウトから“完全”に解放される。
壁掛けだけでなく、身軽になったパネル部だけを部屋の好きな場所に置けるのも魅力だ。ダイニングのイスからテレビを見るときはスタンドに設置し、ごろ寝するときは床に直置きしたりと、“大型テレビは一度設置したら動かさないもの”という概念を壊している。ゲームをするときだけはテレビを隣室に運んで、そんな使い方もできそうだ。
ラインアップはiVDR-Sに対応する録画機能付き32型の「UT32-HV700」シリーズ、iVポケットを搭載しフルHD表示が可能な37型の「UT37-XV700」と42型の「UT42-XV700」がある。32型のみカラバリがあり、ブラック、ホワイト、レッド、ブルーの4色から選べる。UTシリーズはすべて液晶タイプになっており、同社が今後プラズマから液晶へ大きくシフトしていくことの布石のようにも感じられる。
Wooo UTシリーズはこの冬のトレンドをもっとも多く搭載している薄型テレビだ。前回お伝えした、デザイン面の魅力や、テレビの録画機能を搭載するほか、37型と42型には倍速駆動パネルも備えている。発売は12月の32型からスタートとなったが、来年以降のトレンドをいち早く実現したシリーズだ。リビングモバイルTVというコンセプトに魅力を感じるなら、この製品しか選択肢はない。さらにテレビ本体での録画機能も備え、世代間や機器間を超えて録画番組を楽しめるiVポケットにより、死蔵コンテンツをつくらないというメリットもある。テレビを見るというスタイルをデザインしたいなら、UTシリーズがオススメだ。
−次号の掲載は12月18日(火)を予定しています。どうぞお楽しみに!−