■貯まる一方の録画番組は上手に「持ち出して視る」
東芝REGZAのようにテレビ単体で録画できる“レコーダーテレビ”が増え、ハイビジョン画質でマニアックな録画が楽しめるBDレコーダーの普及も進んでいる。これらの機器により、テレビ放送の「タイムシフト視聴」はいっそう進みそうだ。
こんな例もある。先日もニュースになっていたが、某民放局のTVドラマが有名タレント、俳優を起用しながら視聴率は一桁代で低迷しているとメディアで揶揄されていた。しかしSo-netが運営するテレビ番組表サイト「テレビ王国」の「録画ランキング」ドラマ部門では、この番組が上位をキープしており、録画視聴では大人気であることがわかったというのだ。さらにドラマに対する感想の書き込みもトップランキングになっており、視聴者の心を掴んでいるコンテンツであること見えてきたという。
テレビ王国の録画集計はテレビパソコンを使った録画が主なので、DVDレコーダー、BDレコーダー、レコーダーテレビなど家電機器での録画はほとんど反映されていない。そのため、この例をして録画視聴についての一般論を論じるには偏りがあると思うが、それでも最近のテレビ視聴の傾向を考えるときに、注目したいデータではある。どちらにせよ、録画機の普及によりテレビ放送のタイムシフトは急速に進んでいると言えるだろう。
筆者の経験からすると、見たい番組を次々と録画できる“録画機の甘い罠”にかかってしまうと、次に問題になるのが録りためたコンテンツの視聴時間だ。録画した番組をいかに視聴するかが次の課題になる。手っ取り早いのが早送りなどのスキップ再生だが、情報番組やバラエティならいいが、ドラマなどは見飛ばせない。そこで注目したいのが最近のBDレコーダーやレコーダーテレビ等が採用する「持ち出し機能」だ。
■「持ち出し機能」は2つの方式に大別される
録画機器の「持ち出し機能」には大きく分けて2種類ある。一つはH.264などのエンコーダーを搭載し、メインの録画ファイルから後に“持ち出し専用”の動画ファイルを作成する方式(以下、エンコーダー方式)。もう一つは地デジの12セグ放送といっしょにワンセグ放送を録画して、ワンセグの録画データ持ち出す方式だ(以下ワンセグ方式)。
それぞれに長短があり、単に「録画番組を持ち出せます」とカタログで銘打たれていても、その使い勝手には大きな差が出るので注意したい。
「エンコーダー方式」を採用するのがソニーのBDレコーダー“BDZシリーズ”、シャープの“AQUOSブルーレイ”の2種類だ。メリットは通常のテレビ放送(1920×1080、1440×1080ドット)をソースにするので、データ容量の少ないワンセグ放送(320×240、320×180ドット)をソースにするよりも格段に画質が良いところ。WOWOW、BS、CS放送など、ワンセグ放送される地デジ以外のコンテンツも持ち出せる点もこのエンコーダー方式の魅力だ。ソニーのBDZシリーズは外部入力したソースからでも持ち出し用動画が作れるので、自作DVDやVHS、ビデオカメラで撮影したオリジナル動画などの持ち出しも可能だ。
ただし、注意すべき点もある。エンコーダー方式では動画圧縮にMPEG-4 AVC/H.264が使われている。このファイル形式は画質の違いによりいくつか方式が異なり、汎用性が低く再生機器を選ぶという課題がある。例えばソニーのBDZシリーズでも、ウォークマン(携帯電話を含む)用とPSP用では方式がビミョウに異なるので、録画ファイルに互換性がない。これについては過去記事で詳しく説明しているので
こちらを参考にしていただきたい。
一方「ワンセグ方式」は、地デジチューナーとワンセグチューナーをダブルで搭載することで、地デジの12セグ放送を録画しながら、同じ番組のワンセグ放送も持ち出し専用に録画する方式だ。
録画した番組は携帯電話、ワンセグチューナー付きのマルチメディアプレーヤーなどで再生できる。この方式を採用するのが東芝のレコーダーテレビ REGZAシリーズ、パナソニックのレコーダーテレビ VIERAシリーズとBDレコーダーのDIGAシリーズだ。
この方式のメリットはワンセグ対応携帯であれば持ち出し動画の再生に対応している機種が比較的多く、手軽に楽しめるという点。もちろん全てのワンセグ対応携帯で視聴できるわけではなく、メーカーや世代により対応は異なる。対応機種については購入時にメーカーサイトなどで状況を確認しておくことをオススメしたい。
この方式のデメリットは携帯マルチプレーヤーなどで再生できる機種が意外に少ないこと。かつては東芝のポータブルメディアプレーヤー“gigabeat Vシリーズ”などがSDカードに記録したワンセグ動画の再生に対応していたが、残念ながら最近は新製品が登場していない。最近ではパナソニックのワンセグテレビ“SV-MEシリーズ”の新製品も発売されたが、今後マルチメディアプレーヤーやゲーム機など、携帯電話以外にも幅広い機器で利用できるようになるかが普及のポイントになるだろう。
各社「持ち出し機能」搭載製品が“持ち出せる”コンテンツの対応状況
| 持ち出し方式 | 地デジの番組 | BS/CSの番組 | アクトビラ ビデオ・ダウンロード |
ソニー“BDZシリーズ” | サブファイル方式 | ○ | ○ | ○ |
シャープ“AQUOSブルーレイ”シリーズ | サブファイル方式 | ○ | ○ | × |
東芝“REGZAシリーズ” | ワンセグ方式 | ○ | × | × |
パナソニック“VIERAシリーズ”&“DIGAシリーズ” | ワンセグ方式 | ○ | × | × |
■シャープ“AQUOSブルーレイ”の「持ち出し機能」をチェックした
今回は実際に最新モデルの「持ち出し機能」の使い勝手を確かめるため、まずは「エンコーダー方式」を採用するシャープの製品をチェックしてみることにした。
シャープのBDレコーダー“AQUOSブルーレイ”シリーズでは、同社製の携帯電話と組み合わせることでレコーダーで録画した番組の持ち出し機能を実現している。対応するBDレコーダーは「BD-HDW40」「BD-HDW35」「BD-HDW32」となり、携帯電話はこのレビューが公開された2009年6月3日時点ではドコモ端末が「SH-07A」「SH-06A」「SH-05A」の3機種、ソフトバンク端末は「933SH」「934SH」「935SH」「936SH」が対応している。本来なら機材を借りてレビューしたいところだが今回は叶わず、同社が5月末に開催した携帯電話製品説明会会場でのタッチレポートになっている。
ザックリとだがBD-HDW40とSH-07Aの組み合わせでシャープの録画番組持ち出し機能をチェックしてみた。タイマーで転送時間を設定できる機能は便利だと感じた。例えば転送時間を朝7時にセットしておき、早朝6時台のニュースを録画すれば、出勤時間には携帯電話に朝一番のニュースが保存されているという使い方もできるだろう。
またワンセグ携帯なら移動中でもオン・タイムで最新のニュースが見られるが、地下鉄では利用できないし、電車やバスでも窓のそばでないと安定して受信できないという短所もある。「持ち出し機能」と両方を上手く使いこなすことで、快適なポータブル視聴が楽しめるようになるはずだ。
またSH-07Aは画面が美しく、映画やドラマでも快適に楽しめそうだ。本体のメモリーだけでなく、miniSDカードにも録画番組を保存できるので、日ごろ見切れない番組はminiSDカードに保存して楽しんでもよさそうだ。ちなみにSDカードに保存した動画を他社製の携帯電話で視聴しようと試みたが、こちらはファイルの再生ができなかった。
シャープの動画持ち出し機能はよく作り込まれており、なかなか優秀だと感じた。これから発展の余地があるとすれば、せっかく便利な機能なので携帯電話以外の機器、例えばPSPなどのゲーム機にも持ち出せれば、活用の範囲はさらに広がるだろう。
(鈴木桂水)