前回、マッキントッシュはシャーシやトランスに至るまで自社で製作していたという話をしました。中でも忘れられないのがグラス・イルミネーション・パネルです。マッキントッシュのアイデンティティとイメージに大きく貢献した部分ですね。イルミネーション・パネルから自社で作ろうなどという発想は、ほかのアンプメーカーにはあり得ないでしょう。しかしマッキントッシュは最初から自分で作るという選択以外、考えていなかったわけです。
後にクラリオンがマッキントッシュの株を取得してオーナーシップを持った時に、多額の投資を行い、分厚いガラスをきれいに穴開けをするための高額なウォータージェットマシーンを導入しました。そのおかげで重量級のパワーアンプに至るまで、厚く美しいグラスパネルが使えるようになったわけです。ゴードンがいた頃は、いま使われているような厚いガラスは切れなかったし、イルミネーション・パネルを使っていたのは比較的軽量なパワーアンプとプリアンプでしたね。厚いガラスを使うのは夢だったのでしょう。クラリオンはこの名門メーカーに憧れを持って買収したのです。今、流行の利益目的だけの企業買収とは意味が違うのです。
さて、これまでお話ししたような経緯で、私はマッキントッシュを大好きな、尊敬に値するブランドとして認識するようになりました。オーディオ評論をする者として、偏らない公平な立場をとるということは重要です。しかしその反面、商品批評記事をする評論家として、その人間がどういう製品やメーカーを好み、その開発精神や経営哲学を理想としているかをはっきりさせた方がいいと考えました。その方が自分のセンスや考えを読者が理解しやすいとも思いました。オーディオ評論を始め、マッキントッシュ製品に出会った頃は、もう自作の時代ではなく、オーディオはメーカー製品を使うことが前提となっていましたから……。
付加価値ばかりで、やたらに価格の高いブランドは、個人的に好きではありません。存在は認めますがね。私としてはその付加価値と値段のバランスも大切だと思うし、音質、性能の高さ、そしてユニークさ、アイデンティティのある商品が理想と考えています。その結果がマッキントッシュだったのです。そして、実際にフランク・マッキントッシュ氏とゴードン・ガウ氏に会って、このような人達が作る製品なら信頼に足る、という思いをより強くしたわけです。実を言うと2、3年迷っていましたが、1970年を過ぎた頃から、はっきりとマッキントッシュを私の理想の機器として使っていくことに決めました。今日に至るまで、揣摩憶測をいう人も多かったと思いますが、私は、創業者時代のマッキントッシュの姿勢を理想と考えてきましたし、今でも、例え古いと言われようとも、この考えは全く変わることがありません。
この名門ブランドは、時代を超えてその魅力は高く評価されてきました。しかし、現代という荒廃した企業モラリティやマネーゲームを当然とする経済ラッシュの中、いつまで、その純粋な物創りの体質を保っていけるのか、今後を冷静に見守っていきたいと思っています。
以下、第28回に続く
(菅野沖彦・談 / 聞き手・ピュアオーディオ本部・岩出和美)
(撮影・奥富信吾)