高校の頃からジャズを聴き始めていました。レコードを聴くにしたがい、録音エンジニアの仕事に興味を持つようになりました。その後ですが、前回述べたように、ジャズのレコードにおいて、録音や、音という意味で認識付けしたのは私が最初だったと自負しています。中でも、特に注目したのが、ロイ・デュナンとかルディ・ヴァン・ゲルダーという人達でした。いまジャズを聴く人で、これらの名前を知らない人はいないでしょう。それまではジャズも誰が録音したか、言及されることはありませんでした。
アート・ペッパーが吹き込んだコンテンポラリーの名盤は、ロイ・デュナンの名録音であった……、ということを紹介しました。録音制作者に目を向けて記事を書いたのは私が初めてだと思います。ジャズをレコードで聴くということは、ジャズミュージッシャンの音をダイレクトに聴くのではなく、録音制作者の感性の篩を通して聴くことだと、当時力説していました。このような視点のジャズ評論というのは、まず日本にはなかった。この視点は軋轢を生むこともなく、素直に受け容れられましたね。そしていつのまにか、広まっていきました。ですから、いまから20年前くらい前でしたら、その頃私がさんざんその視点で、評論していた、ということを知っている人も多くいましたが、最近の人は知らないでしょうね。
そういった評論を始めた頃は、まさかロイ・デュナンとかルディ・ヴァン・ゲルダーが後にこれほど有名になるとは思いませんでした。有名になったものだから、仕舞いには、私の録音した作品のテープをアメリカに持って行き、ルディ・ヴァン・ゲルダーにカッティングさせてLPを作るといったことまであり、驚いたことがありました。考える人はいるもんですね。
よく思い出に残るジャズの録音について聴かれることがありまが、私にとっては一言で言えないくらいたくさんの録音が挙げられます。前述のロイ・デュナン、ヴァン・ゲルダーのものはすべてといっていいくらい心に残っています。中でもと言われると答えるのがアンドレ・プレヴィンのものです。いまはクラシックの大指揮者で、大ピアニストですが、彼のジャズのレコードの殆どを、ロイ・デュナンが録音しているのです。特にトリオのものが印象的でした。このロイ・デュナンと対照的な録音が、イーストコースとのルディ・ヴァン・ゲルダーということで、このテーマでは数多くの評論を書きました。
スイングジャーナルというジャズの雑誌がありますが、その創刊号で、オーディオの記事を書いたのが私でした。いままで話したロイ・デュナンとルディ・ヴァン・ゲルダーとかレコードの録音について評論していたのは、そのスイングジャーナルにおいてでした。スイングジャーナル社の亡くなった元社長、小池幸三さん(後に名前が変わって加藤姓になりました)が、当時伸び盛りだったオーディオとジャズを結びつけた記事を作りたいということで、私に声がかかったわけです。ジャズとオーディオを組み合わせた造語「ジャデオ」という読者層を作りたいということでした。大先輩なので、手伝うこととなり、ジャズとオーディオを結びつけたたくさんの企画を立て、評論をしたことを憶えています。ジャズ評論の新たな一面になったと思っています。
以下、第52回に続く
(菅野沖彦・談 / 聞き手・ピュアオーディオ本部・岩出和美)
(撮影・奥富信吾)