クォードとともに歴史の古い名門で、一時は経営的に大変苦しみましたが、再起して可能性を持っているブランドが「ワーフェデール」です。私には個人的にも、大変縁が深いブランドです。オーディオを始めて間もない頃、同社のユニットを使ってマルチウェイシステムを作った経験があります。その前に、国産のダイナックスやコーラル、トーアなどのユニットを組み合わせて自作したスピーカーシステムが、偶然にもワーフェデールの名機「エアデール」と発想が酷似していたという体験もあります。それほど、このブランドは私にとって、縁と親しみのあったブランドです。クォードとともイギリスのスピーカーメーカーの名門ではありますが、いみじくも現在もKEFと三つ巴で活動しています。この3社ともが、オーナーは中国人ではありますが、それぞれ独自の思い入れをもって、ブランドのオリジナリティを守っている点で、将来も大変楽しみなブランド達ですし、今後の大きな活躍が期待されます。
現代の産業規模と経済事情を考えると、その成り行き次第でピュアオーディオはより発展するか、それとも消え去るか、その命運は微妙です。これらの英国の名門3社共が、現在は中国の資本を得て活発化しているのも、時代の象徴です。有力メーカーであっても、資本は他国によっている例は、その他にも多く見られる現象ですね。
英国のブランドで、英国人がオーナーシップを持っている例はかなり少なくなってしまいました。その数少ない例の一部に触れてみましょう。
まず思い浮かぶのが、ATCでしょうか。独自のドライバーを作り続け、小さいながらも自主性を守り続けています。そして、スピーカーブランドではありませんが、コードもその一つでしょう。このブランドもまた先進性のある製品が光りますが、会社としては小規模ですね。
この2つのブランドは、共にとても素晴らしい小規模なメーカーです。ここに現代のオーディオの在り方の典型、縮図があるのではないでしょうか。前々回にお話しした、ピュア・オーディオメーカーが大きくなるとブランド独自の舵取りが難しくなること、そして、より大きな資本が必要になって、さらにオリジナル・ブランドの本質ではないものにも手を染めざるを得なくなる、といった点が問題です。
前回KEFに関して述べた中で、BBCモニター規格についてお話ししました。その規格の元でロジャースやスペンドールといったブランドが製品化されたわけです。その経緯の中で、重要な役割を担ったのが、BBCの名エンジニア、ダッドリー・ハーウッドでした。
彼は、ハーウッドと彼の愛妻、エリザベスの名前を一つにして、ハーベスというブランドを立ち上げましたが、事業としては上手くいきませんでした。ところが、その彼のスピーカー作りの仕事に憧れて私淑したアラン・ショーという名の青年がいました。亡くなったダッドリーの仕事を引き継いだ、赤毛のスコティッシュで、スピーカーに対して止むに止まれぬ情熱を持つスピーカー狂いの好漢、その人こそ、現在もハーベス・ブランドの総帥であるアラン・ショーです。
アランはとにかくコツコツとダッドリー・ハーウッドの技術を受け継いで今もスピーカーを開発し、作り続けているのです。そして、その結果は、喜ばしいことに、地道ではありますが着実にクオリティの向上を果たしているのです。最新のブックシェルフスピーカー・システム「HL Compact 7ES-3」を聴く機会がありましたが、その音のよさにはとても驚かされました。予想以上に良くて購入してしまいました。音楽ファンの友人や、手頃な価格で、ひと味違ったセンスのよい音が欲しいといった方にも薦めて大変喜ばれています。ハーベスは、良き時代の英国的なよさを体現したサイズも音も価格も中庸の、大変好ましいブランドと言っていいでしょう。
以下、第32回に続く
(菅野沖彦・談 / 聞き手・ピュアオーディオ本部・岩出和美)
(撮影・奥富信吾)