KEFは新しい資本が入り、全く以前と違う新たな製品群を続々と開発し、現在大きなパワーを持つメーカーになりました。反対にハーベスは、いまだに本当に小さな会社であると聞いています。資本関係のことはわかりませんが、たぶんアラン・ショーを中心にしたプロジェクトだと思われます。しかも基本はダッドリー・ハーウッドのスピーカー技術をそのままを踏襲しています。その伝統を重んじ、そこから逸脱をせず、振動板も相変わらずポリプロピレンにこだわっています。BBCモニターの伝統を守り続けていながら、それでいて確実にクオリティを向上させているわけです。自分でユニットと箱を設計製造するスピーカーを愛する男・ダッドリー・ハーウッドの根性入りのユニークなブランドといえます。
ここまで、現在も活躍する英国伝統のブランドを紹介してきました。いずれもスピーカーブランドでしたが、英国の、いま注目すべきブランドについてのお話を締めくくる前に、エレクトロニクスのメーカーについて一つ触れておくことにしましょう。
KEF所縁の地であるケント州・メイドストーンにあるコード社については前回も少し触れました。この「コード」というブランドは、これまでの英国製にはない、とても際だったアイデンティティを持つブランドと言えるでしょう。英国製のエレクトロニクスは、シックというか地味なデザインで、内容・音質ともに常識的な製品が多かったわけです。しかしコードの製品は全く違います。
まずひとつに、搭載されている技術がユニークです。創業者のジョン・フランクスは、航空機関連機器の専門家でしたが、オーディオが大好きで、コード社を設立ました。航空機関連機器は、丈夫で軽くなければなりません。オーディオに当てはめますと「軽量で性能が高いもの」になるでしょう。これは難しいテーマですね。そこで彼が挑戦したのが「高効率電源」でした。これは、音にとっては大変難しい技術でありますし、過去にはオーディオファイルが高効率電源と聞くと、ある意味眉を顰めるものでもありました。しかし彼は、高音質に成功した高効率電源を強靱な構造を持つ筐体に納め、アンプとして製品化し成功させました。コードは、高効率電源を搭載したオーディオ機器を成功させた初めてのブランドなのではないでしょうか。
さらにもうひとつ、私が感動したのは、彼の優れたセンスでした。「オーディオはロマン」と言いますが、ジョン・フランクスは大変なロマンチストだと思います。そしてそれは、彼の作るアンプのデザインと筐体に如実に表れているのです。
多くの英国製品においては、そのロマンが、そして内容やクオリティが、外観のデザインや筐体の質感に反映されることがそれほど多くありませんでした。イギリスは本来趣味性の高い国ではありますが、質素というか、英国ではミーンといいますが、贅を尽くすようなアリストクラティック(貴族的)な趣が少なかったと思います。アメリカ製品とはそこが違いますね。アメリカ人はオーディオにおいても贅を尽くします。
この点で、コードは英国的ではないかもしません。高効率電源を使いながら、その筐体は実にがっちりとした構造体とし、デザインセンスもロマンに溢れる独自のものとしています。コードの製品はどれをとってもロマンチックなデザインセンスに満ちあふれていますし、一つとしていい加減なものはありません。ただし極めて個性的であるが故に、誰からも支持されるものではないかもしれません。
私は、この極めて個性的なブランドが好きですし、そのサウンドも極めて上質だと思っています。キメの細かな、よく「もち肌」と呼ばれるような音質ですね。これはデジタル系の機器でも全く同じ質感であり、主宰者でありエンジニアのジョン・フランクスの感性であるといえますね。多くの英国製品がそこそこの外観とサウンドである中で、極めて異色の高級ブランドと言っていいでしょう。
以下、第33回に続く
(菅野沖彦・談 / 聞き手・ピュアオーディオ本部・岩出和美)
(撮影・奥富信吾)