新テーマ:「家庭で楽しむパッケージメディア。私の考える名盤たち」
これまでの連載記事のなかで「国内外のオーディオブランドにまつわる思い出」、「ピュアオーディオとは何か」、「パッケージソフトの重要性」等についてお話をお聞きした。
今回からは、菅野氏の愛する具体的なソフトを挙げて、そのソフトが持つ魅力について語っていただく。「名録音である」「家庭でのオーディオ再生に適する」「ピュアオーディオの神髄を伝えている」など、菅野氏の哲学が凝縮した6枚のCDについて訊いた。(編集部)
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「聴きたいレコードを必死に探す、それが無ければその制作を夢想する」
前回までの記事で、パッケージメディアは重要な存在であるが衰退していく方向にあるとお話ししました。とはいうものの現状ではLPやCDがまだまだ市場に存在し、入手し難いというまでの状況ではありません。そしてこれからも、数は変動することこそあれ、定期的に新譜は登場してくるでしょう。
さて今回編集部から「私が愛聴する名盤を数枚選んで話を聞かせてほしい」という提案をされましたので、これから数回に分けてそのお話を致しましょう。
ところで「愛聴する名盤を選ぶ」と簡単に言いますが、これは非常に大変なことです。
この世の中には、生きている間には到底聴ききれないほど沢山のCDやLPが存在しています。そのなかから「私の愛するオーディオ装置で素晴らしい音が再現できるソース」という限定をして選んだ、私の手元にあるLPやCDでさえ、正確に数えたことはありませんが少なくとも何千枚という単位はあるでしょう。さらに、つね日頃愛聴しているものということで選んだとしても、千や二千はあります。
今回は「録音が優れていること」「私のオーディオシステムで、納得できる音(オーディオサウンド)を聞かせてくれること」といった理由から、つぎの6枚のCDを選びました。
・シベリウス「レンミンカイネン組曲」
ユカ・ペッカ・サラステ指揮:トロント交響楽団
ワーナーミュージックジャパン WPCS-10664
・シベリウス「交響曲第4番/第5番/フィンランディア」
ウラディミール・アシュケナージ指揮:ストックホルム・フィル
エクストン OVCL-00282
・シューベルト「冬の旅」
歌:ヴォルフガング・ホルツマイアー
フィリップス PHCP-5372
・モーツァルト・ピアノ三重奏曲集
アンネ・ソフィー・ムター(Vn)ダニエル・ミュラー・ショット(Vc)
アンドレ・プレヴィン(Pf)
ドイツ・グラモフォン UCCG-1285
・「イタリア歌曲集」
歌:チェチーリア・バルトリ
ロンドンレコード POCL-1753
・ベートーベン・序曲集
コリン・デイヴィス指揮:バイエルン放送交響楽団
エソテリック TDGD-90013
さて私は、以前もお話ししたように、音楽やレコードが好きで自分の聴きたいものを制作したいという思いからレコード制作の世界に入りました。ですから、聴きたいものがあればそれを聴けばいいし、無ければ「こういうものを自分で作りたい」という考えだったのです。その観点から見れば、自分で言うのも何ですが、仕事と趣味の境界線がはっきりしていなかったわけですね。
クラシックを例に取りましょう。ある作曲家の曲があります。そしてそれを演奏する演奏者は無限の組合せが考えられます。クラシックの楽しみのひとつに「この曲のこんな演奏があったらいいな」「あの指揮者とあのオーケストラがこんな曲をやってくれたらいいな」などと組み合わせを夢想することがあります。ただ、そんなことが思った通り実現する確率は低いし、ましてや人頼みにしていたら、永遠に実現しないかも知れません。「だったら、自分で作ってしまおう」− 私はこう考えたのです。
ただ、それは簡単に実現できるものではありません。お金も必要だし、時間もかかる。出演者との交渉や、著作権などの問題もあるわけです。また、そのできたものを売っていかなければ会社として成立しません。
私が好きだったクラシックは、権利関係の問題がとても難しかったということと、当時いい演奏をできるのは圧倒的に海外の人でした。そして、今のように海外に出て行って録音するといったことは様々な事情から難しいことでした。ということで、結果的に私は、国内のジャズ音楽家の演奏を録音制作して、世に問い、優秀な録音をたくさん作ったという評価をいただくことになりました。
次回は具体的な録音制作の魅力についてお話しします。
以下、第41回に続く
(菅野沖彦・談 / 聞き手・ピュアオーディオ本部・岩出和美)
(撮影・奥富信吾)